お仕事勝負で或人が見出した大事な成長
お仕事5番勝負の見どころを語ろうとすると、どうしてもまずは話の構造を解説せねばならない。
そうなると基盤を構成する人物、天津垓に話が集中する。
これを語り終えてやっと触れられるのが、我らが主人公、飛電或人だ!
長かった。ここにたどり着くまで何度も本編見返してチェックの作業もしていたので、ホント書いてて長かったよ!
天津垓は舞台装置だが、作品全体はあくまで或人の成長物語である。
滅亡迅雷.netとの戦いでは、仮面ライダーとして成長はできても、飛電インテリジェンス社長としての進歩は何もなかった。
そりゃあテロリストと戦いながらヒューマギアの仕事を見て回るだけで、他の社員との交流とかほぼないのだから当然である。
そこで現れたのはもう一人の社長でライダー、天津垓だ。正確には日本支社長だけどネ!
お見合い時の経歴書だとZAIAの前にも起業経験があり、M&AしてZAIA入りしたらしいので、社長としての経歴と実力は本物だ。
天津の思想は或人と正反対。予め計画もしっかりと錬られた上で、ゼロワンではなく飛電インテリジェンスを潰しにきた。
お仕事5番勝負は戦闘をストーリーに絡めにくいとの批判もちょくちょく聞いたが、或人の戦いは、人ではなく会社とヒューマギアを守るに移行している。
社長として成長するための戦いなのだから、これはいつかこうなる必要があったと私は考えている。
お仕事勝負で或人が行った仕事は、横槍入れてくる連中と戦いながら、後はヒューマギア達の仕事を見守ることだった。
これはつまり社員達が会社を信頼して安全に仕事ができる環境作りなのだ。
そう考えれば、むしろ序盤より上手く社長の使命と仮面ライダーの戦いを絡めている。
お仕事勝負に入ってから、或人の意識も明確に変化が起きている。
最初から或人はヒューマギアを人類の良きパートナーとして見ていたが、それは家族や友人のような感覚に近かった。
始まりが父親だったのでこれは自然なことだと思うが、それだけが全面に出すぎていて社長要素がとても薄い。
同時に、番組としては商品解説から始まったように、ヒューマギアは商品として扱われている。
多分或人にとっての飛電インテリジェンスは、ヒューマギアを作ってお客様に届けて、家族のように大事にしてもらい。
どちらかと言うとペットに近い感覚ではなかったろうか?
しかも暴走したら自分の手で殺処分せねばならない、ものすごく嫌な流れ付きだが……。
この時点では構造的に『社会の一員として人間社会を守る』役割を果たしている。
そのため漫画家編などは、『暴走したら破壊する』と『ヒューマギアは奴隷ではない』が矛盾せず並立している。
しかしお仕事勝負が始まり、或人は人間の悪意に晒されるヒューマギアを何度も見た。
そしてヒューマギアを破壊するのではなく、守るための戦いが増えていく。
自分が最も彼らを信じて守らねばならない。彼の覚悟は人類の守護者ではなく、社長としてのそれになった。
『まず自分達がヒューマギアを信じなければ他の皆も信じてくれない』と選挙勝負にて断言した姿には、お仕事勝負を通じて得た或人の強い決意が窺える。
お仕事5番勝負編における或人は、一言で表すなら難破船だ。
悪意の荒波に飲まれボロボロになって、岸の見えない海を漂い続ける。
彼の傍にはいつもイズが寄り添っていたが、逆に言えばイズしかいなかった。
そんな中で、或人は自分と違う社長の姿を見た。
傲慢で冷酷で、ヒューマギアどころか社員や仲間さえ道具のように扱う男。
こうであってはいけない。自分は信じなければ。ヒューマギアは人類のパートナーであると。
悪意がヒューマギアを狂わせ壊していく姿を何度も見ながら、それでも彼はヒューマギアと共に歩む未来を信じて進み続けた。
やがてその悪意は或人の肉体をも蝕んだ。
どれだけ素晴らしい技術も、悪意が満ちていれば危険な暴力になる。
暴走するメタルクラスタホッパーはその具現化だ。
何度も悪意に纏わり憑かれ、身も心も疲弊していく或人を救ったのは、彼が信じて守ってきたヒューマギア達。
或人の努力と戦いは、ちゃんとヒューマギアには届いていた。
会社は親として子である社員を守る。
そして社員は自分達を導いてくれる親を守る。
悪意を打ち砕いた善意の力。
それは或人がヒーローとしてだけでなく、社長として成長した証だ。
これまでは一度暴走してしまうと『商品』として壊すしかなかった。
それをヒューマギア達の信頼の証ともいえるプログライズホッパーブレードを手にして、『社員』として守ることが可能になった。
人とヒューマギアは良きパートナーになれる。その信念が一つの形になったのだ。
たとえ社長の座を奪われても、彼の心にある覚悟までは奪えない。
不和と悪意で人々を蝕む天津垓を止められるのはただ一人、調和と善意で皆を救う飛電或人だ。
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