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100日後に死ぬワニが炎上した理由は結果が扇動マーケティングになってしまったから

2020年3月21日

ゼミ生の皆様こんにちは、語屋アヤ(@ridertwsibu)です。

101日前に始まった『100日後に死ぬワニ』が昨日100日目に達してフィナーレを迎えました。そして派手に炎上しました。
(以下長いので百ワニ)

これ人によって意見が千差万別で眺めていて色々と勉強になります。
ただ基本的には読者観点か、クリエイター観点で語られるかのどちらかで、全体を俯瞰した観点があまり出てこない。

個人的な見解だと百ワニの炎上理由は最初から抱えて爆弾が爆発しただけ。
起こるべくして起きた事故だと思っているのですが、その過程を、一つの『商品』として捉えマーケティングの流れで解説すると、何故ここまでの大炎上に至ったのかがよくわかるのではないかと思います。

そんなわけで、今回は百ワニが仕掛けたカウントダウンマーケティングの破壊力と恐ろしさを語っていきましょう。

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100日後に死ぬワニが作った感動の正体とは

この記事を読んでいる人のほとんどは百ワニを知っているか読んでいる人だろう。
けれど、話の整理と何故百ワニがここまでヒットしたのかの理由も兼ねて、軽くおさらいしよう。

作品概要はきくちゆうき氏が描いた四コマ漫画。
百日後に死が確定したワニの毎日を、四コマ一日にてカウントダウン形式で進行していく。

断言しておくと、ワニくんの日常そのものは全然何も面白くない
ごく普通の日常風景が淡々と進んでいくだけ。そして最終コマの下に残り日数が付く。

これだけで容赦なく近付く死と、何も知らないワニくんに対しての無常感が沸き上がる。
その中で読者は毎日少しずつ、ワニくんの日常を覗き見る。
ワニくんの日常が、自分の日常の一部にもなっていく。

生活の中にある当たり前。
百日あればワニくんがその一つになる。

気付けば、皆がワニくんに感情移入を始めている。
これは意図してそうしている演出。だけど読者にとっては、いつの間にかそうなっていた。そんな感覚になる。

そこに違和感や不信感はない。
日常とはそういうものだから。

そして、ワニくんは序盤から死に対する煽りもガンガン読者にぶつけてきていた。
三日目がその代表例と言えよう。

これによって読者は、まだ死なない。
まだ大丈夫。生きてほしい。
何とか救えないか。

どんな死に方をするのだろう。
誰も考え付かないような、面白い死に方をしてほしい。
じれったいな。早く死ね。

そんな考えをいだき始める。
後者は積極的ではない。あるいは無意識に思う。

考える。考えざるを得ない。
丸っきり、心配しかない。清廉潔白。ってわけにはいかない。

何故なら、それは作品への期待だから。
エンターテイメントとして死を望む。
感動したいから死んでほしい。

それがコンテンツ。
それが人間。

カウントダウンが進む程に、終わりが近付けば近付くだけ、死への忌避と期待は膨らむ。

そうすると皆の気持ちも一つになっていく。
ワニくんの生活、人生、命を通した一体感。

ワニくんに対する感情移入。
ワニくんを眺める一体感。

これこそが百ワニが生み出した魅力と熱狂だ。

そして、100日の完走を終えたその夜、大量のグッズ展開と書籍化発表。有名ミュージシャンがタイアップしたPV。そして映画化決定。
次々と販促が立ち上がったのだった。

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30万円の●●●を効率良く売る方法

ここからは話題を切り替えて金の話をしよう。
Twitterでやると一歩間違えれば叩かれ炎上するやつだ。

皆さん、情報商材詐欺による高額塾というものをご存じだろうか?
「一日たった三十分の作業で誰でも簡単に月収百万円稼げるようになります!」とか言って、三十万円とかする高額塾の費用を払わせようとする商売だ。

実際、入塾してもほとんど者、あるいは全員が稼げず終わる。それが現実だ。
傍から聞くと「そんなもんあるわけないじゃん。普通騙されねーよwww」と思うだろう。
けれど、実際に騙された被害者は多数出ている。

被害があるってことは、売れるわけない商品を売るプロセスが技術として確立されている。目を背けようのない事実だ。
ならばこう考え直すべきだろう。
彼らはどうやって、売ることが難しい高額な情報商材を現実に売りさばいているのか。

前提として三十万円の商品買わせるために信用は確実に必須だ。
だが高額塾の多くは、ゼロから売り込みに入る。

多くの場合はその過程で動画、もしくはメール(LINE)を用いる。
まずは高額塾とかそんな情報はおくびも出さず無料で稼げる情報を教えますと、メール登録フォームやLINEのIDを出して誘導。

この時点で多くの人間はほとんど信じていない。
いきなり高額ではなく無料で、いつでも引き返せるよう敷居を下げているだけだ。

そこで何ステップかに渡る動画やメールマガジンの配信を実施する。
意外に思われるかもしれないが、ここで話される情報は大体がまともで役に立つ

何故ならここでする話はマーケティングにおける基礎知識。
普通の人が普通の商売でも十分に活かせる内容だ。
そうなると何が出るのかと身構えていた多くの人は「あれ? 案外まともじゃん」となる。

そこから日数をかけて有益な情報を少しずつ配信する。
その中に高額塾の肝心要となる情報も焦らす様に盛り込んでいく。

そうすると皆、どうなるか。
肝心な部分が見えそうで見えない。最初はさして興味がなかったとしても、見たい。知りたい。そういう感情が生まれだす。
わかりにくい? 要するに『パンツ履いてない』の心理だ!

対して興味のない女子でも、スカートが翻って見えるべきものが見えなかった。そんな状況が生まれたら中を確認したくなる! なるんだよ! 仕方ねえだろ!
見せそうで見えないと見たくなる。

徐々にガードを下して覗き込もうとする。
そうやって警戒を解いたところで本命の高額塾への入塾案内を繰り出す。

だが、すぐには申込みを始めない。
そこで「じゃあ入ってください!」と言ってもいきなりの高額料金に人は尻込みする。あるいは冷める。

だから焦らす。
そして最後の一押しを出す。
ここまでにあった苦労と、そこから這い上がる物語である。

私も最初は稼げませんでした。
ブラック企業に勤めて身も心もボロボロになりました。
あるいは借金まみれの生活で、妻にも苦労をかけて極貧の生活を送ってきました。

ですが、やっとの思いで人生をやり直せたのがこの手法なのです。
僕は特別ではない普通の人間。こんな僕でもできたのです。
貴方にできないわけがない。
いえ、もしできなくても僕がそんなことさせません。見捨てません。絶対に稼がせてみせます。
今日まで話を聞いてくださったように、僕を信じて、着いてきてください!

というような演説を五分とか十分くらいかけてやる。
動画だったらそりゃもう涙ながらに訴える人もいる。

自分は皆さんと同じ。
簡単ではない道のりで苦労してきた。
そういう言葉で切に訴えられると、大体はどうしても親近感や情にほだされる。
人によって振り幅はあろうが、全く動かないってこは早々ない。だって人間だもの。

これは同時に、信じないことへの罪悪へも繋がる。
こんな訴えてきているのに、自分は信じられないのか。と、意識せずともそう感じてしまう。
むしろ、前段階の有益な情報とは、情報そのものよりも、この一時、最後の一押しに威力を持たせるためにあったのだ。

こうした最後の一押しを、セミナー形式で人を招き実行するタイプも少なくない。むしろかなりある。
セミナー型の場合は途中で周囲のメンバーを集わせて、自己紹介、そこから簡単なクイズやディスカッションをすることも多い。
そうすれば会場の空気や雰囲気に一体感が増す。
そして最後の感動の一押しで胸を打たれるような空気になって、皆の心が一つになるような雰囲気が生まれるのだ。

大体最後の最後にどれくらい入会するか(決定でなくてもいい)考えてますかと、アンケートとると大抵は場の空気に飲まれたことも含め、過半数が手を挙げる。

するとどうだろう。

皆が感動している。
なんとなくいい雰囲気になっている。
だから、きっとこの人は信用できる。

その場においてはそれが正しい。これが正義。
いきなりではなく、徐々にそういう状況へと扇動されていく。
そんな気持ちになってしまう。

いやあ、集団心理って恐いよね!

この手法はステップメールと呼ばれて、実際にあるマーケティング手法だ。
要するにいきなり商品を買わせるのではなく、有益な情報を配信することで読者を顧客へと調教していく

読者を顧客へ。

話の主体になる人物への感情移入。
コンテンツを受け取る者達の一体感。

その二つが生み出す扇動を利用した商品の売り込み。
これとよく似たものを百日かけて多くの人が体験した

最初からそのつもりではなかった話は、既にきくちゆうき氏からのコメントがあった。多分それは事実だ。少なくとも私は感情論だけど、そう思う。
だが結果はマーケティング的にそうなっている。最終回後すぐにあれだけの商品展開だできているので、少なくとも途中から意図的だったことは疑いようがないだろう。

一応言っておくと、ステップメールや扇動を利用したマーケティングは、情報商材によく使われているだけでマーケティング手法としてはずっと昔からある
そのやり方は他のまっとうなマーケティングにも多く取り入れられ活かされてきた。
マーケティングそのものに善悪はない。

包丁で人を殺せるように、マーケティングで人を陥れることもできる。ただその事実があるだけだ。

その上でこの結論を告げよう。
『100日後に死ぬワニ』とは、読者を顧客に変えるため百日間の大扇動を行ったステップメール型マーケティングである。

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かくてワニくんはこんがり焼かれた

ここまでで、百ワニの作品として見た魅力。そしてそこに関連付けられるマーケティング手法を紹介してきた。
最後に語るべきは、一体百ワニはどこでミスしたのか。

実際、途中まで……というか、完走直前まではかなり上手くいって、雪だるま式に読者は増えていた。
途中で入っていたLINEスタンプやテレビ出演などのメディア展開も、すごくスムーズで見事だったように思う。

だけど、今になって思えば、これが却って不味かったように感じる。
百ワニが実行していたのは、文字通り(結果論としての)扇動マーケティングだ。
扇動すればするほど波は大きくなる。
この波とは人だ。そして感情だ。

波は大きくなればなるほど、コントロールが効かなくなっていく。
それは最初に波を起こした者にとっても同じだ。
情報商材のセミナーなら、その規模はせいぜい数十人に収まるためこの問題は起きない。

問題はその場所がTwitterだったことだ。
まず規模が桁二つは違う。

Twitterは先に語った一体感を『いいね』とRTで具体的に可視化できる。
終盤は95日から3.5万、4万、5.2万、6.3万ととんでもない数字でRTされていた。

最終話に至ってはなんと3/21現在で20.6万だ。
もはや連日バズってるとかそんなレベルではない。
Twitter内の社会現象だった。

ピークに生まれた扇動の波は、最終日の投稿が少し遅れただけで『実は投稿されない=作品的な死』がオチかと本気で心配する人まで出ていた。

この揺れだけでも本気の混乱状態に陥る人もいる始末。ワニワニパニックとか言われてバズっていた。誰が上手いこと言えと。

それも本当に完結間近まで炎上らしい炎上の気配なんてまるでなかった。
マンガの面白さと作者が個人で毎日更新し続ける努力の姿勢がそのまま作品評価になっていた。
それ故に起きた問題に対する燃え広がりも凄まじかった。

最初に暗雲が立ち込めたのは99日目。
完結間近にして小学館から書籍化の情報が掲載された。
ただし、この時点ではまだ公式からのアナウンスはない。

たまたま見つけた、というか幸か不幸か見つけてしまったユーザーがツイートしたことが切っ掛けだ。
この時点で批判はあった。

結局金か。そんな声もあれば、書籍化自体は悪くない。けど完結前に出してしまってはユーザーが興醒めする。というか冷めた。

個人的に後者の気持ちはわかる。
書籍化の情報には後日談についても書かれており、どう転んでも終わり間近で見たい情報ではないだろう。

まさに一番ヒートアップしているところで札束詰まったケース置かれて『お前らの熱狂とは即ちこれや!』と言われたようなものだ。
この段階ならまだ、マネタイズが悪いわけではなくてタイミングが悪いで済んでいた。

そもそも公式が出したくて出てきたものではない。
諸般の事情で仕方なく準備だけしておいて、そっとしておきたかったものが見つけられてしまった。
まあ出したこと自体がミスなのだけど、売りたい側としても意図しない、あるいは不慮の事故だ。

この時点なら私もせいぜいボヤ程度で収まると思っていたら、昨夜の流れである。
そこから作品終了してすぐ、次々と出るわ出るわ。

ワニくんが無事お亡くなりになって読者が余韻に浸る中、PVバーン。いきなり大量のグッズどーん。正式に書籍化発表どーん。映画化発表どーん。

いや、まだPVだけならエンディング代わりになったろう。
書籍化もすぐ過ぎて多少は荒れたかもしれないが、漫画家が生きていくには当然必要な話だ。
これを否定するのはよくないと、多くの人が漫画村の一件で学んでいる。

喪に服して四十九日派待つべきだと、そんな意見も散見されたが、そんなことしたらワニくんじゃなくてコンテンツが死ぬ。そんな悠長言ってられるか。とは私も思う。

けど、流石にこれは迅速丁寧にやり過ぎだ。
あまりにも堂々と、『金儲けのために準備してました!』と宣伝してきたら、そりゃ引く。

私みたいに喜々としてこんな話する人間や、クリエイター側の気持ちに立てる人間ならば、鉄は熱いうちに打てと動く人間の気持ちはわかる。
だが、それはあくまで一握り。

日本人は『稼ぐ=悪い』ことだと考える風潮がある。
これは今に始まった話ではない。
ネットだとかステマだとかより以前、古くは越後屋と悪代官から刷り込まれてきた思想だ!

いやまあ、私が知る限りって話で、正しくはいつからかはわからないけれど。
日本人の遠慮を美徳とする文化と、ガツガツ稼ぐ思想は相性が悪いのは事実だろう。何年かけてもチップを払う文化は根付かない。
ブログの記事書くたび読者からチップで100円貰っていたら、それだけで私は食っていける。

これはマーケティングをする人間なら何処かしらで学ぶか、仕事の中で理解する基礎理論の一つだ。
読者でもクリエイターでもなく、マーケターの視点。
作者や作品の出来栄えに関係なく、客が不快に思う売り込み方したら失敗だ。

死をテーマにしたセンセーショナルな作品であるからには、読者にとっては作品の余韻も楽しみの一つだ。
それを壊すような売り込み方した時点で、どんな理由を付けようと悪手。せめて一日か二日は待てなかったのかと。

流石の読者も一日で一気に離れることはない。
売り込みが大事にするために読者の感情を犠牲にしていい道理はない。

ここまでプンプン金の臭いをさせたら、そりゃあこんなプロモーションしたのは誰だよとなる。
そこで出てきた第二の爆弾。過去にもステマを実行した実績のある電通の登場だ。

かつてアナ雪2のPR漫画をPRだと付けさせず、Twitterでステマ投稿させた事件があった。
その仲介会社として関わっていた企業である。

元々、百ワニはただ一人の漫画家が地道に描き続ける姿勢でも評価されていた。
それが最終回を迎えた途端、公式アカウントが現れ大量のグッズ展開が始まり、そこにステマで名高い企業が絡んでいた。
読者の感覚では裏切られた気持ちになったろう。

また客観的に見て過度な残業とパワハラで大きな問題となった有名なブラック企業でもある。
事実として、かつて過労自殺者を出した会社がプロモに深く関わり、それが命をテーマとした作品だった。
これもまた深いイメージダウンに繋がっている。

これらはあくまで事実を連ねたものであり、少なくとも当記事では電通を責めることを目的としてはいない。
また、電通がプロモしてはいけないという意味でもない。

かつて電通がプロモを担当したアニメ作品も多々ある。
それも一般受けからオタク好みの作品まで様々だ。

電通がプロモしたから百ワニは悪いというだけの論理なら、他の作品も同じように批判されるべきだろう。
元より他作品では大して話題にすらなっていなかった。
ここで電通が発見されて、しかも槍玉に上げられたのは、それだけ大きく下手を打った結果なのだ。

ここで扇動の波が大きい程、失敗時の反動も大きい。
まともな流れを失った激流は肯定派と批判派に別れて荒れ狂った。こうなってはコントロールできる者などいようはずもない。
たとえ、実は今回電通がステマ的なことは何もしていない事実があったとしてもだ(マジで)。

特に怒っている者達は感情が先に立つ。事実を確かめようとする者は中でもやはり一握り。人は見たい情報しか信じない。
哀しいかな、作者様がTwitterで涙ながらに語っても、だ。

ただし、「俺の感動が金蔓にされた!」はそれこそワガママに近い感情論。
「ステマに踊らされた!」だけでも、未抜けず利用された自分が情報弱者だと認めるに近しい。

そこに世間一般な共通認識の『悪』として電通が見つかった。
ステマ会社だ。
じゃあ百ワニもステマだ。
ステマ有り気の販促をした百ワニも悪だ。

裏切られたと感じた読者の感情は、正義感を振りかざせる対象を見つけた。
その証が百ワニ完結から一夜開けて、トレンドに並んだ電通とそれに関わるキーワード達である。

最後に、私がかつて深く心に響いた仮面ライダーオーズの台詞を残して本記事を終えよう。

正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるんだ。

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