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なぜSNSのオタク界隈は荒れるのか ~特撮界隈から見るSNS社会とオタク文化の闇~

2022年8月5日

前書き:叩かれなければ生き残れない

ゼミ生の皆様こんにちは、語屋アヤ(@ridertwsibu)です。

『特撮界隈は民度が低い』
『特撮界隈は荒れやすい』

Twitterを眺めていて、これまで何度これらのワードを目にしてきたことでしょう。
民度が低い。私の苦手な言葉です。

かつてはSNSで特撮クラスタの荒れやすさに対して語り、バズったこともありました。

我ながら言葉遣いがお悪い。当時のイラっと具合が窺い知れます。反省。

そして、今になって思えば、これは正しいけれど同時に違うなとも思うのです。

特撮クラスタは、現在でも荒れやすいのは事実だと言わざるを得ません。
他にも、SNSにいればいくつかの論を聞いたことがあると思います。

『特撮ファンは十代の若者が多いから』

『バンダイの売り方が悪い』

『〇〇の頃に比べて純粋に作品がつまらなくなった』

『仮面ライダーは昔から賛否両論だった』

どれも一理あるかもしれません。しかし本当にそうなのでしょうか?
実際これらに言及すると『いいね』はたくさん付くけれど、それは問題の一部分だけを抜き出して共感を集めているだけのようにも思えてなりません。

全てはもっと深いところで繋がっていて、一つの大きな『何か』がそこにはあるのではないだろうか。色々と知識が溜まってくるとそう考えるようになりました。

なので、今回は一つの答え、一つの考え方に依存するのではなく、もっと根本的に特撮界隈が何故荒れるのかを考察しました。
これは今まで書いてきた記事の中でも、ほんっとうに苦労しました……。

掘っても掘っても終わらない。
気が付けばSNS社会の在り方や、オタクの歩んできた歴史、そして想像も付かなかった闇も吹き出してくる。これらをしっかり考えねば、私なりの納得がいく答えは出ませんでした。
そして行き着いた先にあったものは、思っていた以上に業の深い結論だったのです。

とはいえ、ただ荒れる原因だけを突き詰めても、げんなりして絶望的な気分になるだけです。
SNSは本来楽しい場所なのですから、特撮クラスタの中で私達はどう折り合いを付ていくのかこそが、真に一番大事な部分でしょう。
そこで、私なりに考えて実践していることもお伝えしています。

加えて、本記事はできるだけ沢山の人が触れて、何かを考える切っ掛けになって欲しいと思い、音声版も一緒に掲載しています。
長いとか重いとか、色々と心が折れそうになった人は、ゆかりさんのボイスで心地よく聞き流すという選択肢もございます。

では、そろそろ前書きはおしまいです。
今回は特に荒れやすい仮面ライダーをメインにして、他の作品にも適宜触れつつ、解説と考察の旅に出発しましょう。

第一章:繰り返す賛否両論とオンドゥル語奇譚

前作との比較批判はクウガからの恒例行事

仮面ライダー及び特撮界隈には、かつてから変わったことと、変わらないことがある。
まずはその中で、一番簡単でわかりやすい、変わっていないことから始めよう。

仮面ライダーはクウガで再始動した頃から、ライダー作品が賛否両論で荒れることはしょっちゅうだ。
今でこそシンプルで格好良いデザイン扱いされているクウガは、当時は革新的なデザインであり、昭和ライダーと比較され酷評をする人は当たり前にいた。
それまでのヒーロー番組における主人公象とは一線を画した、五代雄介のキャラクター性も賛否はあった。

ウルトラマンならカラータイマーが鳴る前に余裕で決着してるぐらい戦闘が短い回など、様々な面が当時は槍玉に上がっている。
シナリオ面では人間ドラマを道徳の教科書と揶揄され、怪人のリアルな残酷描写は大きく問題視されており、ネット以前に番組へ直接クレームもきていたそうな。

次のアギトは、クウガの丁寧さに比べてシナリオが雑になったと批判された。
過去に当ブログで扱ったアギトの壮大なバックボーン設定も、当時は説明不足や意味不明だと批判されていないわけがない。

前ニ作品から激変した龍騎は、またアギトを引き合いに出して酷評する人が現れたのは、知らない人でも想像に難くないだろう。

ここ数年、特撮クラスタにいればよくみた、ジオウを持ち上げてゼロワン批判。ゼロワンを持ち上げてセイバー批判。セイバーを持ち上げてリバイス批判。
毎年起こる流れは、平成ライダー初期からよくあった光景でしかない。

シナリオに対する大批判で言うなら、響鬼の方向転換は飛び抜けて物議を醸した。
前半も後半も悪くないなんて意見は、それこそ当時の苛烈さが記録も記憶も薄れきった今だから言える話である。

ジオウのキバ編では、キバの脚本家に謝れという珍言まで飛び出した(この手の前提知識が求められるネタは、真に受ける層が一定数いる)。
キバ編の脚本家はキバのメイン脚本家と同一人物であり、当時のキバもしっかりと荒れていた。

そもそも平成ライダーとは、昭和で形作られた仮面ライダー観の破壊から始まった。
そして毎年毎年、これまでの作風に縛られない自由さをウリに、作品毎に固有の世界観を構築してきたのだ。
それ故、こんなの仮面ライダーじゃない。やり過ぎ。前回の方が良かったと、辛辣に評価する者もいる。比較による批判はこういう部分からも起きている事象だろう。

セイバー坂とオンドゥル語の共通項

過去作との共通事項と言えばセイバーも外せない。
飛羽真が光の階段を駆け上るシーンなのに、登っているのはどう見ても坂で、足の合成も盛大にズレている。
それまでセイバー批判に憤っていたファンでさえ、この回だけは駄目だと匙を投げる者が続出。本事件は『セイバー坂』と名付けられ、ネタ動画になってTikTok等でも大流行した。

その流れから、まさかの公式ラジオですらネタにしてしまう珍事へと発展。
なお、演者達は悔しい思いをしながらも、セイバーがより広く伝わるカンフル剤的な役割を果たしたと、今では前向きな視点でも捉えている。

流石は動画全盛期といったところだが、古のライダーファンは、それすら18年前に通過済みだと言ってのける。

そう、同じくネタ動画として現代でも残り続ける、伝説的滑舌の悪さから生まれたオンドゥル語事件である。

序盤がとにかく有名で、ライダー三人全員の演技がなんか変。
「えーい」と叫ぶかけ声すら「ウェーイ」に聞こえる。
という流行から毎週のようにFLASHの切り抜き動画が量産されていった。

流石は2ちゃんねる最盛期か、オンドゥル語ネタから名付けられた各ライダーのAAや、果ては同人のウェブマンガまで作られている。ケンジャキ! ダディ! ムッコロ!
可愛いAAでウェーイするケンジャキは、今だとパリピにしか見えない。
(ちなみに、ムッコロは当時のコンプラ問題で、ぶっ殺すをハッキリ言うのは不味いという判断から強引にボカした結果だった……つまりは滑舌の問題じゃなかった事実が、かなり後に判明した)

その後、オンドゥル語達はネタ動画素材となり、ニコニコ動画時代になって以後も生き続ける。
ネットでは響鬼よりも(口で)太鼓を叩いた男になった。ドンドコドーン!

ネットミームと化して散々ネタにされ続けた演者の方々は、(思う所は当然あるにしても)前向きに受け止めている。
特に剣崎役の椿氏は演技が上達して「えーい」と発音できるようになっても、これが剣崎の個性だとあえて「ウェーイ」を貫いた。

結果として、オンドゥル語文化が仮面ライダー剣を広くネットに知らしめる役になったところまで含めて、セイバー坂との共通項が多い。

つまるところ、ネット民族は時代を経て同じことを二十年以上も繰り返しているのだ。
最近の仮面ライダーは駄目とか、令和になってからつまらなくなったとか、毎年の作品比較は脈々と受け継がれてきた文化なのである。

めっちゃ余談だが、パリピケンジャキ(役の椿氏)は後に仮面ライダー剣の主題歌のカバーもしており、絶賛配信中である。誰か孔明を連れてきたげて。

音声版:前書き

音声版:第一章

【次ページ:第二章:パターン化とプレバン商法、或いはドンブラザーズに至る進化

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