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FMO1章 第11節『二重奏♯Destiny's Play』≫3

2024年4月28日

[作品トップ&目次]


 音也にとってこの展開はまるで想定外だった。
 藤丸立香は魔術師としての才能はほとんど皆無。周囲の殺戮猟兵オプリチニキを掻い潜りながら己の元まで駆け付けるには、相応の危険が伴ったはずだ。今だって手が震えている。

「貴方はまだ終わってないよ」

「お前……」

 ――カルデアのマスターを助けて。

 息子の願い。そこに繋がる一本の糸を音也は掴むように頷いた。

「させないわ」

「ならそれをさせない」

 滑り込んでくるアナスタシアを、闇夜でも目立つマゼンタの戦士が阻む。

「その身体でよく動けるものだよ、士」

こいつマスターが動いたんだ。俺だけ休んでられるか」

 満身創痍の身体でディケイドもまた戦場へと飛び込んだ。
 立香は僅かに驚いた顔をしたが、すぐに音也と集中して契約の呪文を紡ぐ。

「ふん、ヒーローらしい自己犠牲だな。だがそんな身体で何ができる」

「そうでもない」

『ATTACK RIDE ILLUSION!』

 ディケイドの身体が次々と分身していき、それぞれが散開して四方からアナスタシアに仕掛けていく。
 勝ち目はなくとも、数で攪乱すれば時間を稼ぐことぐらいはできるだろう。

 殺戮猟兵オプリチニキ達はディエンドが抑えているが多勢に無勢だ。
 防ぎきれなかったライフル弾が一発、立香の肩を掠めた。

「うっ……!」

 顔をしかめ、けど契約の術式は止めない。
 次の照準が立香に向けられるが、その殺戮猟兵オプリチニキの足元に浮かんだ紋章が爆裂した。

『間に合いました。契約完了です!』

 通信先の少女が告げたように、ダークキバの霊基に枯渇していた魔力が流れ込んできていた。

 付近では、黒い影の腕がディケイドの一体を砕いた。そこで二度目のチャージ時間も終わる。

「もっと視てヴィイ・ヴィイ・ヴィイ!」

 残ったディケイド達の分身が全て凍結した。振りぬかれた黒い巨腕がそれらを一掃するように打ち砕く。
 その横合いから光弾が飛んできて影に疵を付けた。

「残念。本物はもう撤退済みさ」

 おどけるようにディエンドが告げた。

 立香を抱えたダークキバも、道を塞ぐ殺戮猟兵オプリチニキは紋章で強引に束縛して、強まってくる吹雪の中を駆け抜ける。
 ただでさえ最悪の視界は天然の隠蔽術式と化して、いとも容易く敵の視界から自分達の姿を消し去った。

 ディケイドとダークキバ、そしてカルデアのマスターが消えて、戦場に残った敵はディエンドだけだ。
 彼はこちらが立香を追おうとすると、弾を蒔き足止めに徹してくる。

「マスターを逃がすため健気に殿か」

「どうかな?」

『ATTACK RIDE INVISIBLE!』

 僅かに喜色の籠った声色で銃にカードを装填すると、瞬時にディエンドの姿は消えた。
 気配遮断系のスキル効果もあるのだろう、魔力の反応さえも追跡できない。

「最初の奇襲に対する意趣返し、か」

 ディエンドはあくまで自分の撤退手段は確保した上での時間稼ぎだった。

 あの様子だとカルデアのマスターはもうボロボロで、後一押しで倒せるだろう。
 けれど、追撃はあえてかけない。

「最初に仮面ライダーの話を聞いた時は、とんだお子様好みの都市伝説フォークロアが具現化したものだと思ったが、やるじゃないか」

 そんなあやふやな在り方では、本来ならよくて幻霊かそれ以下の存在。まともに霊基を維持できるのかさえ怪しいものだと考えていたが、これは完全に評価を改めねばならない。冗談のような、本物の脅威。

「ピンクがディケイドで、青色がディエンドだったな」

「マゼンタとシアンでしょう?」

「……そこはどっちでもいい」

 真名を得ても何のヒントにもならないのも厄介だ。事前にパトロンから得ていた情報が重要になる。

「ディエンドは想定通りだったが、ディケイドの方は性能が落ちているな」

 霊基の性能を落とす要因が何かあったのか。

「ところで追跡はかけないの?」

 カルデアの生き残りにどの程度の戦力が残されているかは概ね把握できた。これ以上深追いして、後に控えるに支障をきたしてしまうような消耗戦は避けたい。

「ああ、こっちの数も減ったからな」

 自分達Aチームならもっと効率的に犠牲も少なく世界救済は為せたのは、今も客観的な確信としてある。
 だとしても、世界救済が偉業であることは矛盾しない。

 生き残ったのはたまたまでも、たまたまで世界は救えない。先の戦いで得た実感だ。

「ディケイドは世界を破壊する力を持つ悪魔だ。侮らない方がいい」

「何者だ……!」

 カドックは不意に聞こえた声の主、想定外の第三者へと振り向いた。アナスタシアも彼を守るよう前面に位置取りする。

「私の名は鳴滝。ディケイドをよく知る者だ」

 現れたのは眼鏡をかけたトレンチコートの中年男で、魔力や戦意といったものは感じられない。
 だが、優れた魔術師ならばこの程度の擬態はいくらでもしてみせるだろう。

「つまり、ヤツらの仲間か」

 鳴滝は身構えるカドックに対して手の平を向けて制する。

「私は傍観者だが、今回はそちらに情報提供をしにきた。それに君たちの真の目的を知っている」

「何だと?」

 カドックはブラフかと猜疑の視線を向け、殺戮猟兵オプリチニキは鳴滝を敵と判断して武器を構える。

「……………………」

 それでも鳴滝はこれ以上自分からは何も語らず、黙したままカドックを見据えている。

「お前たち、武器を下ろせ」

「良いのですか?」

「ああ、こいつが今すぐここで仕掛けてくることはない」

 カドックは殺戮猟兵オプリチニキたちに命じると彼らは確認した上で構えを解いた。
 だからと言って信用したわけでもないため、動こうと思えばいつでも動ける。最低限会話には応じてやるといった状態だ。

「ええ、この人は嘘を吐いているようには見えないわ」

 己もそう感じていた。直感というよりは読みだ。

 情報を匂わせた上であえて無言。
 しかし、それ自体に意味がある。わかるだろうと、この男はこちらを試している。

 ――あるいは、

 カドックがそう読み取ると、計算している。そんな風に深読みする人間性だと。
 これ以上はやめよう、思考がループしている。勘繰りすぎると逆にそこが付け込まれる要因になってしまう。

「賢明な判断に感謝する」

「どこでその話を聞いた」

「最初のキバからだ。私は彼と微睡む皇帝ツァーリが二人だけの時に、何度か訪れて情報共有をしていた」

 最初のキバとはつまり紅渡のことだろう。その存在を知っている時点で王宮にいた証明にもなる。

「ヤガ・モスクワには大量の殺戮猟兵オプリチニキと魔術師もいる。どうやって侵入したんだ」

「今、君達に近付いた方法でだとも」

 カドックの用意した探知魔術は、資源の乏しい今のシャドウ・ボーダーよりもずっと精度が高い。それを掻い潜り鳴滝は現れた。

「だからそれをどうやったんだと聞いてる」

「そんな方法は今答えるべき事柄ではない。私が伝えるのはディケイドの秘めたる力と欠陥だ」

「……まあいい、聞こう」

 鳴滝は自分が伝えたいことだけを伝えて、いきなり現れた不可思議なオーロラの中へと入り消えていった。一度見ただけではまるで解析不能な技術だ。
 しかし、今追求すべきは鳴滝が残していった情報だった。

「世界の破壊者……か」

 正直、半ば信じ難い内容ではあったが、それを言い出すと異聞帯や異星の神こそ、自分の想像を遥かに超える存在だった。
 パズルのピースが嵌まり込んでいくように、頭の中で急速に組み上げられていくロジック。そうして出来上がった結論をカドックはつぶやく。

「首尾よくいけば、一気に突き崩せるかもしれない。巨大な山を」

「……そう。計画ならまだ暫くかかると思っていたけど」

 アナスタシアの表情がほんのり柔くなる。二人はハッキリとその内容を口にしないまま、けれど互いに意味を理解しながら話を進める。
 想定外ではあったが、勝利への道筋は見えた。それは鳴滝が言った真の目的であり、カルデアの打倒を必ずしも意味してはいない。

「ここからの交渉次第かな。情報通りなら、あいつには付け入る隙がある」

「信用できるのかしら」

「鳴滝という男が汎人類史側の人間で、皇帝ツァーリの正体を知っているならな。味方じゃないならせいぜい利用するまでだ」

 カドックにとっては信用と利用価値は別物である。後者があるなら前者は上手くコントロールするればいい。

「それに、もう一つのパトロンが残していった情報もある。これも有効活用させてもらうさ」

 仮面ライダーという存在やディケイドとディエンドについての情報を、クリプターに共通認識として教えた者達がいた。

「あのわたくしは好きになれないわ」

「結局神父が持って行ったやつか。僕も君にあんなものを使わせようとは思わないさ」

 パトロンがこちらに対して友好の証として置いていったものだ。あれは上手く使えばサーヴァントにも有効で、しかもかなり強力な魔術礼装になり得る。
 目的のために利用できないかと考えたが、調べると相応にリスクも大きいことがわかった。

 手持ちの戦力だと意外に使いどころが難しいと思っていたところで、一旦は「なに、必要となれば殺戮猟兵オプリチニキにでも使わせればいい」と神父の預かりになった。

 実用試験として考えればその選択肢も有りだろうと、カドックもそれで扱いを一時保留にしている。

「さて、ここまできたんだ。この辺境でも皇帝ツァーリの威光を知らしめるとしよう」

 彼は殺戮猟兵オプリチニキに村人の殲滅を命じた。
 叛逆者を匿っていた以上、目こぼしはできない。あえてカルデア達を逃して兵を手元に置いた理由付けにもなる。

「きっと彼ら、生前もこんな風だったのでしょうね。わたくしを殺した彼らのように」

 ただ命令をこなすだけの人形を眺めて見送りアナスタシアは言った。

「それ以上は不敬だぞ」

「このわたくしに不敬を説かないで、マスター」

「……そりゃ悪かった。そういや向こうもそろそろ終わった頃かな」

 カドックの仕込みは一つではない。考えに考えて、いくつものルートを考案し、最善の選択を選んできた。その結果が今頃結実しているだろう。

「そうね、早く帰らないと。皇帝ツァーリがきっと微睡みながらわたくしを探していることでしょう」

 クリプターとそのサーヴァントも吹雪の中へ消えていく。後に残るは町からの悲鳴と絶望の叫びだった。


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