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バキ道【ネタバレ感想・考察】古代相撲の欠点と●道の本質

2023年6月23日

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描きたいことが迷走した相撲道

バキ道で一番残念なポイントは、相撲編でありながら相撲で何がしたかったのかよくわからないところである。

率直に言えば、テーマや物語的な意味での相撲道が全然見えなかった。
現役の幕内力士が登場した時は二つの構図ができていた。

三役力士 VS 地下格闘技者
現役横綱 VS 古代相撲

前者で『相撲の強さ』や『相撲とは何か』を語り、後者で『現代相撲が失った古代相撲の本質』を描く。
その両者を通して『相撲道』を語るものとばかり思っていた。

実際のところ相撲の強さを真っ当に描けたのは、力で合気をはねのけた一戦目ぐらい。
それ以後は現役力士を珍味と捉え、堪能して美味しくいただく戦士達になっている。要はなめプだ。
(渋川先生もなめプをやめたら瞬殺だったけど)

そういう遊びをしない花山だけは、圧倒的なフィジカル差で終始一方的な試合になっていた。
本来なら相撲の打たれ強さを見せる組合せなのに、性能差あり過ぎて良いところがなかった鯱鉾はあまりに運がない。

また克己戦に至ってはもう過去パロディのオンパレードで、ある意味相撲どころではなかった。
組技相手に苦戦して途中の逃走はイスタス戦で、押されてからの新たな力で逆転劇は花山戦と同じ構図。

幻影の烈は、ピクル戦で現れた理想の烈海王を思い出した。
異世界の烈海王は板垣先生の許可を取っていない(体に)なっているからね!
なお、連載時だと『現世で烈海王復活』と煽り文句をいれ、しかも現世に傍点まで付けていた。めっちゃ強調しとる!

克己だけが敗北したのは大擂台賽編の海王VS海外チームで唯一勝利した烈との対比だろう。
そして勿論、ドイル戦のパロディであることは考えるまでもない。

ここが一番の問題で、ドイルはどれだけボロボロになり、勝ち目が全くなくても敗北を認めない。

文字通り死ぬまで負けを認めようしないと相手に対して、克己は武道家として誇りある敗北を選んだ。
故にドイルの心を動かし、自ら敗北を受け入れさせるに至った。

今回のは相撲を堪能することが前提なので、『興味本位であれ以上はできない』が理由だった。
つまりは『もう相撲は堪能できたから俺の負けでいいよ』ってことでもあり、相手を強敵と認めて最後まで諦めずに闘い続けた獅子丸に失礼だ。

隻腕という名のオリジナルと、ピクル戦での成長したイメージの両方を投げ捨ててしまった。

後者である横綱と宿禰の闘いも、二度とも普通に瞬殺してしまって、解説の入る隙すらない。
普段はこれでもかと謎のインタビューを入れてくるのに。

宿禰は前作の登場前振りから、石炭をダイヤモンドに変える超握力がウリだった。
範馬勇次郎でも出来ない(しなかった)芸当であり、おそらくは花山薫以上だろう。
そしてピクルに匹敵するかそれ以上のパワーである証だ。

だが、この握力はその後の戦いであまり目立った活躍をしていない。
まわしの代わりにあばらを掴むのはこの握力があってこそだとは思う。

投げがまわしに依存しないため、対相撲以外でもその力は発揮しやすくなる。
蹴り技も含めて相撲でありながら高い実戦性も有していた。

しかし、いかんせん地味過ぎる。
石炭をダイヤに変える力のアピールが強すぎて「え、それだけ?」となってしまう。

それと、宿禰の古代相撲と近代相撲の差もあまり描かれていない。
『宿禰は横綱よりずっと強くて実戦向きです』以上の情報がないし、刃牙シリーズにおける横綱の権威は金竜山だ。

その金竜山すら、どう足掻いても独歩や渋川クラスよりランクは落ちる。
しかも今作の横綱自体がぽっと出なので、圧倒しても噛ませ犬を片付けた以上の感覚がない。

これなら金竜山を無理やり親方にせず(時間軸どうなってんの?)、素直に宿禰と戦わせていた方が古代相撲の強さをアピールできただろう。
金竜山を親方にしたのは、現実の貴乃花親方事件と連動させる意図は明らかだった。
しかし大相撲と対戦させた意図が有耶無耶のまま終わったのでほとんど意味がない。

それに古代相撲は実戦向きと評したが、宿禰が出した真の本気は十秒での決着。
それもしっかりとウォームアップして、開始と同時にエンジン全開での十秒だ。

古代じゃない大相撲は神事であり、様式美として儀式めいた前準備が入る。
宿禰のように極限まで無駄を削いだスタートダッシュは現実的に不可能だ。

かと言ってガチガチの下準備が前提の時点で、武術としての実戦性もない。
それこそ実戦的とは刃牙のように着の身着のまま、平常から闘いに入る様を指す。

まるで相手を気遣って本気の十秒を使わなかったかのような物言いだが、ジャックとのファーストコンタクトやオリバのリベンジなどは、そもそも使えなかったが正しい。

結局、宿禰の古代相撲は技術体系としてチグハグで、武蔵編とは違い相撲道とは何なのかがサッパリわからなかった。

もう一人の古代相撲の蹴速は、宿禰よりもずっとわかりやすい。
仕切り直せば負けにならない。故に無敗。
これもうごくごく単純に、武器を使わない最凶死刑囚だ。

両者の違いは、個人ではなく蹴早の一族単位であることだろう。
二代目扱いの宿禰と違い、脈々と受け継いできた。

一族単位で仕切り直しルールを採用するので、極論何代目が誰に何度負けようと、蹴早の一族が存続し続ける限り敗北にはならない。そしてその極論を真顔で振りかざしているわけだ。
すげぇ、一族単位の駄々っ子じゃんよ……。

そして今代の蹴速はサクッと独歩に負けた。仕切り直しは日に二度敗北になっただけである。
回復の間もなく、勝算もなしに挑んでは負け続けるだけ。

それに、国内で代々蹴速を受け継いできたと思われるが、その間の情報はこれまで徳川の耳に入ってなかった。

二代目宿禰は山奥でひっそりと研鑽し続けて、年齢的にも最近まで襲名してなかったと思われるので理屈はわかる。
しかし蹴速は継続し続けながら、何も目立った功績(実力の証明)を残していなかった。

その唯一の例外が殺生石破壊だ。ただ一つのものすら人間相手じゃない試し割りだよ!
要するに『その程度の存在』でしかないので、経験値と技量双方の面から独歩に歯が立たなかったわけである。

古代相撲どうこう以前に、もはや何故出したのかを問いたい……。

宿禰は登場初期こそオリバに快勝したが、その後の目立った戦績は、最初から噛ませ犬扱いだった横綱への勝利しかない。

勇次郎にワンパンで負けて以降は、物の見事に下り坂である。
ジャックへの敗北が致命的となって、オリバのリベンジにも惨敗。
蹴速も含めると古代相撲自体が噛ませ犬と化している。

ここから復活して真の強さを見せるような演出……かーらーの刃牙に瞬殺。そして相撲編ごと終了。
まるでアライJrのようであり、瞬殺具合は春成のその間実に二秒を思い起こさせた。

宿禰を倒したジャックが刃牙へのリベンジを宣言。さらに次々と他のキャラ達へも宣戦布告を開始した。
ジャックだとピクルや武蔵程の惨劇にならない。
しかもジャックは元々強くて人気キャラの一人なので、他の格闘技者を倒しても新キャラを持ち上げる犠牲にされた感はずっと薄くなる。

こうなったらもうグダグダな相撲編はさっさと切り上げて、噛道編になってくれと思うのが読者心理だろう。
そして事実そうなったと言える。
(テンポの遅い刃牙シリーズにしては、追加で新キャラまで出したのにかなりサクッと終わった方である)

刃牙曰く「長きに渡った『角力(すもう)』との対峙――終了(おわ)った気がします」だったが、話の長さだけで言うなら刃牙道より短い。
読者の体感的に長く感じたのは、ぶっちゃけ休載が多い上に、途中で自衛隊自伝漫画を入れこんだせいだろう。
(猪狩は追悼作品だし、バキ道単行本にもちゃんと収録された)

結果として途中乱入者ジャックの前座に終わった部分は、まるでマウント斗羽の噛ませ犬になった花田のようだ。

つまり相撲道とはセルフパロディと見つけたり!

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噛道はジャックとバキの対比構造になっている

刃牙道のラストから、相撲編と大々的に銘打たれていた中で、乱入参戦したのがジャック・ハンマーである。

ピクル登場以後の刃牙世界は、血気盛んに新キャラへ挑む者ほど噛ませ犬化が進行しがちだ。
そんな中でも、ジャック・ハンマーは烈海王並に参戦率が高い。

ピクル編では得意の噛み付きで敗北した上に、保存食として丁寧に扱われて心をバキボキに折られた。

それでもめげないジャック。二度目の骨延長手術により特大ジャック・ハンマーへッ!
しかし今度はまさかの本部に痛恨の敗北。
まー大概の格闘マンガで巨体キャラって負けフラグだよね。
(ただ、巨体なラフファイターって武蔵的にはあまりに良い的である。ここは本部に守護ってもらえた方が読者的には安心だった)

超巨大ですら武術に遅れをとったジャックが次に強化したのは噛み付きだ。
巨大な猛犬やライオン達を素人だと断言する自負心である。

猛獣達の噛み付きは、言うまでもなく人間の命ぐらい簡単に噛み砕くぐらいに強力無比だ。
しかし日夜噛み付きを鍛えて、研ぎ澄ませているわけではない。
ただ備わった機能を生きるために使用しているだけ。

かつてのジャックもライオン達と同じだった。
強力だから使っていただけ。
いつも通りの過剰な筋力トレーニングと、それを支えるドーピングと同様だ。
お薬は絵面がもはやサプリメントの摂取みたいで、食事の一部と化していた。

強くなるためならば手段を選ばず、またそこに迷いもない。
ならば、女子供でも大人を倒せるぐらい強力な噛み付きを使わない理由はない。
言い換えればジャックにとっては骨延長やドーピング、噛み付きはいずれも強くなるための『手段』だった。

死の淵に立つジャックの異常な強化は、それだけで神の子アライJrを容易く粉砕せしめる。
(あの流れでジャックが圧勝するとかマジで思わないよ!)

しかし、地球史上最強の肉体を持つピクルは、現代人が到達できる人体強化の限界を遙かに超えていた。
本部の武術は、噛み付きを潰し、圧倒的な肉体差を覆した。

そうして、二度目の骨延長で肉体強化の限界値に達したジャックは、次の手段として『武』に目覚めたのだ。

これだけだと『もっとはよ武術の有用性に気付けや』って話ではある。
実際のところ、ジャックはこれまで肉体強化と噛み付きで武術家達を粉砕してきた。

渋川の達人技や、神の子の闘拳術をフィジカルで圧倒してきたのだから、鍛錬を肉体強化へ極振りするのは当然だろう。
(刃牙は武に負けた例外的な存在だが、範馬の血の要素が大き過ぎる)

肉体改造では届かない超肉体の壁。
肉体改造の差を覆す武の証明。

この二つを体験して初めて、ジャックの選択肢に武が生まれた。
本部以蔵の影響は、宮本武蔵への勝利とガイア小物化以外でも大きかったのだ。

ジャックが武を志す場合、ネックになるのは噛み付きである。
噛み付きはジャックにとって武の代替品的な存在であり、切り離すことが難しい。

それに、ジャックにとって既存の武術とは、噛み付きを恥とする連中によるお上品な手段でもある。
本部の武器術は、恥も外聞もないって意味でもジャックにとって有用性があったのだろう。

故に既存の武術で噛み付きを扱うものは、基本的に存在しない。
なら、作っちまえばいいじゃん。噛む武術を。

【感想・考察】バキ道

引用元:餓狼伝18巻

ある意味では羆より現実的というか、羆より強いからなぁジャック兄。

そして古代相撲(ていうかバキ道の主題というトンデモねーもん)を生贄に捧げて、噛道の強さを示したジャックが狙うのは弟の刃牙だ。

父親超えの前に、まずは兄弟喧嘩のリベンジをするのは、本人のプライド的にも順当な流れだろう。

不自然な肉体改造に、噛み付きを主軸にした不自然な武術を突き詰めるジャックに対して、刃牙は自然体であることを重視する。

刃牙道では、自然体でこうなった時はこう、ああなったらそう返すと、深く考え行動を決めるのではなく、身体が動くままに任せる。
日常の中で武を楽しむスタンスだった。

宿禰との決着戦はあまりに自然体過ぎて、めちゃくちゃ失礼な態度に見えていたが、行為そのものはキチンと繋がっている。
そして平常通りの動きで、宿禰の打撃を受け流しカウンターの一撃で仕留めた。
古代相撲として実戦性を武器としながら、アスリートのように備える宿禰より理には適っている。

相撲道はともかく、刃牙のスタンスは道として徐々に固まりつつある。
自然体主義と不自然主義、二つの範馬道がぶつかり合うッ!

……と思ったら原人がキターッ!
全然キレイに締まってないし、そもそも締めのラスト三話に主人公が全然絡んでない! 君達本当に闘う気ある?

それはさておき、下水のジャングルに潜んでいたピクルだが、今や地上でも狩猟生活を営んでいる。
ちゃんとズボンを履いて、一般市民と遭遇したら笑顔で挨拶する。良い子!

もういきなり女性を襲って種を仕込まないだろう。
国家権力と敵対することもなく、お帰りいただくしかなかった侍と違って、ピクルなりに他者を気遣いながら現代に適応している。

ピクルはジャックが目指していたピュアファイターの極地的な野生児だ。
しかしピュアであることは即ち素人である。

しかもピクルは、刃牙がちゃんと勝てていない希少な相手だ。
弟の功績を越えてのリベンジと考えても、ステップアップとして正しい順番とも言える。
まさしく次回作はジャック・ハンマーが『道』を歩む物語!

かつての理想を体現した野生を、噛道は越えていくことができるかっ!

総評

  • ピクルや武蔵編に比べて既存キャラの犠牲がかなり少ない
  • 新キャラは全体的に魅力不足
  • 武蔵編ラストから持ち上げた相撲の魅力を活かせていない

Twitterでも色々と作品語りしています。よければフォローしてね!

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