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バロン達のアジト内部は、外の廃村風景とは違って、しっかりと補修されていた。外装は殺戮猟兵の目を欺くため、あえてそのままにしているのだろう。
中には隠れ家としては見合わない高価なインテリアも所々に見かけた。
悠はそれらの情報から、叛逆軍との組織的な差異を認識していく。
そして最も驚いたのが、運ばれてきた料理だった。流石に豪勢とまではいかないが、メインの肉料理以外にもスープやサラダの盛られた皿が並ぶ。
肉も下ごしらえや飾り付けがしっかりとされていて、食べる前に目で楽しませるように作られている。
「すごい……」
思わず立香が漏らしていた。見た目だけなら、汎人類史でもそこそこのレストランでもないとお目にかかれない代物だ。
明日の食事を皆に行き渡らせるのにも困窮している叛逆軍ではまずあり得ない。
「さっきのお詫びだよ。君達の実力を試すためとはいえ手荒な真似をしたからね。遠慮なく食べてくれたまえ」
そう言って海東も着席して、テーブルには悠も含めたライダー四人とマスター、そしてヤガのパツシィが並んでいる。フォウは立香の足元付近にいて、スープの入った小皿が置かれていた。
「いただきまーす!」
「フォーウ!」
立香は言われた通りに遠慮なく食べ始めた。士も何やら思うことはあるようだが、しっかりと食事に手は付けている。
二人はこの世界の野性的な食事にまだ慣れていない。特に立香はカルデアでの食事も切り詰めているらしいので、がっつくのも致し方ないだろう。
「美味しいです!」
「僕の心尽くしを楽しんでくれて光栄だ」
「この料理、海東さんが作ったんですか?」
「ああ、もちろんさ」
悠もスープを掬い上げて口に運ぶと、芳醇な香りとコクが広がる。
まさに美味だ。
サーヴァントは食事をしなくても死ぬことはないが、アマゾンの特性上、食事なしだと十全に力を発揮できない。そう言う事情を差し引いても、悠は残してきた叛逆軍のヤガ達への罪悪が沸いていた。
「さて、食事をしながらで構わないので改めて自己紹介といこう。僕は海東大樹。仮面ライダーディエンドだ」
海東が目配せすると、バロンと名乗った男は食べる手を止めて、
「……駆紋戒斗。アーマードライダー・バロンだ」
耳慣れない単語に藤丸立香が首を傾げる。
「アーマードライダー?」
「呼び方の問題だよ。戒斗も仮面ライダーと思ってもらって構わない。士はいいとして君はどうかな、アマゾン君?」
「叛逆軍のリーダーを務めています。水澤悠……仮面ライダーアマゾンオメガです」
続けて藤丸立香とパツシィ、そして通信越しにカルデアの者達が名乗る。
そのままの流れで話し合いは開始された。悠達にとってはようやく本題に入れたと言えるだろう。
けれど結果から語るならば、二つの組織が同盟軍として合流するには至らなかった。
双方共にイヴァン雷帝に反抗する意思を有するのは事実だが、発起の理由が異なる。
戒斗側のヤガは元貴族達であり、皇帝のやり方反発して離反した。
そのため彼らはヤガの中でもプライドが高く、一際大きく強き者を尊ぶ。
悠のまとめる叛逆軍は弱いが故に逃げて集まった者達だ。家族を切り捨てられず、守るため村から離反した者達も少なくない。
そのためヤガという種族の中では特殊で、比較的選民意識の低い者達が多くなる。
根本的な思想が真逆なのだ。下手に同盟を結び合流すると、不協和音で仲間割れを起こす可能性が高い。
駆紋戒斗がリーダーとなった時、納得できなかった一部の者達が叛逆軍との合流を選び離反した。
だが彼らも叛逆軍の実情を知ると、どちらの有り様を拒んだ。そうして行き場を失い盗賊へと堕したのだった。
「俺達が檄文を配った時にでくわして蹴散らした連中はお前達の元仲間だったわけだ」
「連中の始末は俺がしている」
「始末って……もしかして」
「ここへ来るまでに鋭利な武器で貫かれたヤガの死体を発見しましたが」
「俺がやった」
戒斗の回答に迷いはなかった。
刺し貫かれたヤガの傷跡はバロンのスピアによるもので間違いないだろう。
「弱者を踏みにじる者は許さない。それが元ここにいた者ならばなおさらだ。奴らのけじめは俺が付ける」
立香は盗賊によって壊滅させられた村を直接見ているため、戒斗の行為と責任感が間違いだとは言い切れない。
しかし、全て飲み込みきれない自分がいるのも事実だった。
『駆紋さんは、バーサーカーの中でもナイチンゲールさんに近い雰囲気を感じますね』
鋼の信念を持つクリミアの天使。その意思の強さが故にバーサーカーのクラスに収まってしまった女傑だった。
あの強固な意思に似た性質が、駆紋戒斗からは感じられる。
「ならば、僕達叛逆軍と駆紋さん達で、どのように連携を取るかですが……」
話し合いの末、協力関係は密に連絡を取り合いながら個々に動くということになった。組織は二つのまま、協調して皇帝を討つ。
そうなると必要なのは素早く連携するための連絡方法だ。
連絡用に飼っている魔獣を使役し匂いを覚えさせるという提案があったものの、そこには大きな落とし穴があった。
魔獣が、叛逆軍とカルデアのメンバー全員の匂いを覚えられなかったのだ。
海東が「大体わかった」と理論を展開する。士が不機嫌に睨んだが彼はまるで意に介さない。
魔獣は敵対種を避けたがる。
そのためアマゾンである悠には近付かず、ヤガの匂いも覚えられない。
藤丸立香は極寒対策として体全体を魔術礼装で固めているため、そもそも匂いすら漏れない状態だ。
最後に士は、世界の破壊者という役割が仇となり、本能的に魔獣が避けようとしてしまう。
「ならば、僕が君達に同行しよう。この子は僕の匂いなら覚えているからね」
「なんだと?」
「フォフォーウ」
露骨に嫌悪感を示したのは士だった。
逆に組織として貴重な戦力を失うはずの駆紋戒斗は平然としており、特に口出しもしてこない。
「いいんですか?」
「勝手にしろ。この男が決めることだ」
スープの皿を空にしたフォウを膝に乗せ、自分の食事を分けていた立香が思わず問うが、戒斗はバッサリと切って返した。
『ライダー召喚能力を持つ大樹さんがこちらに付いてくださるなら、戦力的にも大変助かるお話だとは思いますが……』
「僕はトレジャーハンターだよ。何処かに根を生やすつもりはないさ。それにね」
と、そこで区切り海東は士へと視線を移し、ニヤリと意地悪気な笑みを作る。
「士が力を失っているなら助けが必要だろう?」
「力を失っているって、士がですか?」
「おや、マスター君にカードのことを教えてないのかい?」
「今は必要ないと思っていただけだ」
「意地っ張りだね」
海東はやれやれと肩を竦める。ぶっきらぼうな士とどこか軽薄な雰囲気のある海東の二人は対照的な人格だ。
「それよりお前だけカードが使えるのはどういうことだ。それに何故俺がカルデアにいると知っていた」
「まあ落ち着きたまえ。順番に答えよう」
海東が先の戦闘でも使っていた、ビーストが描かれたカードを見せる。
「君のカードが使用不能になったのは世界白紙化の影響によるものだ。汎人類史が白紙になり異聞帯に侵食されたことで、君が繋いできたライダー達との絆も全て消え去った。ディケイドライバーの強化もね。ジオウの歴史改変以上に厄介な現象だよ、これは」
「だが、お前は使えている。カードだけじゃなく、ネオドライバーもな」
「それは僕の霊基が座に登録されたことで、ライダー達との繋がりも戻ったためさ。座にいるライダーの力なら全部使える」
「そんなの俺は聞いてないぞ」
説明を受けた士は、自分のカードを何枚か引き抜き見つめる。
カードは黒い背景で、旅を始める前と同じくブランク状態のようだった。
「知っていたとしても君は旅を選んだろう?」
「………………」
士は無言だったが、それがそのまま返答だとでも言うように海東は続ける。
「僕はお宝を失わないため、そして新たなお宝を得るため座への登録を選んだ。士は旅を選んだ。そういうことだよ」
門矢士と海東大樹の二人には浅からぬ因縁があるのだろう。立香にもそれはわかる。
そして白紙化を契機に、二人は決定的に別の道を歩みだすことを選んだのだとも。
「二つ目の回答だ。士がカルデアにいるのを知っていたのは情報提供者がいたからさ。誰かは薄々わかっているんだろう?」
「鳴滝か」
「ご明察。彼は一度ここへ現れて、僕にカルデアの到着と士が共にいると伝えていった」
『割り込みを失礼。ミスター鳴滝が今何処にいるのかは把握しているかな?』
「いいや。彼も神出鬼没だからね。ただ今回ばかりは僕達に全面協力するつもりのようだ。裏で色々と動いているんじゃないかな」
「だろうな」
『それは残念だ。色々と興味深い人物なので、一度対話してみたいのだがね』
鳴滝とは士を召喚という形式でこちらへ送り込んだ人物だったはず。
彼は抑止力やサーヴァントに関わらず、彼自身の意思で活動しているようだった。かなり謎多き人物だ。
「士の居所がわかったのなら、下手に探してすれ違うよりここに来てもらった方が確実だ。それにイヴァン雷帝を倒すのなら、叛逆軍ともコンタクトを取る必要はあったからね」
どうやら今回の筋書きを作ったのは海東らしい。
荒っぽいやり方ではあるが、おかげで叛逆軍とバロン達、そしてカルデアが同志としてまとまったのも事実だった。
サーヴァントとしての実力も申し分なく、他のライダーを召喚する能力まで保有している。
カルデアとしては彼を拒否する理由がない。
「それじゃあ、暫くよろしくお願いするよ、マスター君」
「こちらこそ、お願いします!」
「フォーウ!」
藤丸立香が海東に頭を下げる姿を、士だけは心底嫌そうな表情で見ていた。
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