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追ってくるヤガ達から無事逃げ切った立香一行は、先程の村についての考察を交えながら先を急いだ。
パツシィの住むヤガ・スモレンスクに比べて、使用している道具が古い。銃器が普通に存在する中で弓矢を使用していたように、あの村は明らかに時代が逆行して中世にまで戻ったようだった。
パツシィによるとヤガ・スモレンスクの町は旧種の時代の技術で作られたものらしい。
そのため、今のヤガ達では当時の技術を模倣することはできず、補修を繰り返して今まで残されてきた。
文明や文化の差に思うところはまだあるが、叛逆軍の本拠地へと近付いたため、議題はコンタクトの取り方へと移る。
決まった手順はシンプルかつストレートなものだった。
まずはパツシィが叛逆軍へ志願を申し出て、そこからのツテで立香達を紹介するというものだ。
すでにパツシィは覚悟を決めていた。
藤丸立香という魔術師と、彼の行ったサーヴァントの召喚を見て、パツシィに見えていた現実は変わった。
そして仮面ライダーという存在は、皇帝が支配する世界を変える夢の片鱗を見せたのだ。
言い換えるなら、立香と出会ってしまったことで彼の人生観は大きく揺らいだ。
前を向けたのか、それともヤガとしての歯車が狂ったのか。それはパツシィ自身にもわからない。
自分達が関わったせいでパツシィを危険に巻き込んでしまったのではないだろうか。
立香は少し悔やんでいたが、士は彼らの姿を眺めるだけで特に声をかけるような真似はしなかった。
ともかくパツシィはもはやただの案内役ではなく、共に雷帝を打倒する仲間となったと言える。
そして彼にとっても叛逆軍から信用を得て、仲間へと加わる手土産として立香は必要な存在。
なので、彼らの強さと安全性を叛逆軍へ伝えた上で、全員で戦列に加わるという流れだ。
パツシィが単独で先行してアジトとなっている村へと入り込み、立香達残りのメンバーは少し離れたところで待機する。
しかし彼は暫く待っても戻ってこず、代わりに現れたのは叛逆軍と思われる武装したヤガ達。
そして立香達が旧種だとわかるなり銃を向けてきた。
「おい、何のつもりだお前達」
武器を向けられても焦る様子を見せない。堂々とした佇まいで質問のみを投げかける。
「ここ最近入った情報だよ。イヴァン雷帝の側近に魔術師が入ったそうだ。旧種のサーヴァントもな」
「俺達は違います!」
確認のためにフードを脱がされた立香はなんとか説明しようとするも、警戒しているヤガ達は話に耳を傾けようともしない。
「悪いな。だが容赦はできねえよ。こっちにはそんな余裕もねえ!」
「さて、これはどう対応する? 藤丸立香」
士は何かを見定めるように立香を見つめている。
こうなったら戦うしかないだろう。
しかし向こうに敵意はあっても敵ではないのだ。できるだけ危害は加えたくない。
「士さん、峰打ちでお願いします!」
その言葉を聞いた士は呆れ顔をしながら腰に変身ベルトを巻く。
「俺の武器に峰はないぞ。だがまあ、いいだろ。変身」
『Kamen Ride Decade!』
「こいつ、変身したぞ!」
「マジかよ! くそ! 気を付けろ」
ディケイドへと姿を変えた士は、ライドブッカーを剣モードで起動する。
この刃は両刃式なので、柄に近く刃のない部分で近くのヤガを打つ。
「ぐああっ!」
「気を付けたところで無駄みたいだな」
ディケイドの力なら、たとえ峰打ちでもでも骨をへし折れて、殺害も容易くできてしまうのだ。
だからなるべく力を抑えて、大きな怪我をさせることなく戦闘不能にする程度に加減している。
逆に言えばそれだけ手心を加えても、さして苦戦もしない相手でしかない。
ヤガはクリチャーチを倒せる銃撃さえ気をつければ、ディケイドにとって大した相手ではなかった。
一匹ずつ距離を詰めて打撃を入れていけば、ものの数分で周囲にいたヤガを全員叩きのめせる。
「ま、こんなもんか」
『気を付けて。この反応、増援だよ』
「ヤガなら何匹きたところで同じだ」
『そうとも限らないよ。なぜならこの反応は……』
銃を携えて駆けつけたヤガ達。
しかし、その中心にいる者は他と明らかに違う姿形だった。
茶髪に染められた髪に、目鼻立ちは立香や士と同じく東洋人のそれ。年齢は立香よりも幾つか上に見える。
「この人も日本人だ……」
世界焼却の旅ではほとんど出会うことのなかった現代日本人を、こんな異世界地味た場所で連続で見ている事実に、立香は驚きを隠せない。
「よくも仲間を!」
先走ったヤガが一人銃を構えたが、青年は腕を伸ばし待ったをかけた。
「ここは僕に任せて。皆は仲間達の介抱を」
「……わかりました」
仲間達への思いからか、わずかな躊躇いを見せたものの、ヤガ達は彼の言葉に大人しく従う。
「お前が叛逆軍のリーダーか」
「待ってください。俺達は戦いに来たわけじゃなくて、仲間になりたいんです」
青年は立香の説得を無視して、取り出したベルト型を腰に装着した。
「なるほど、さっきの反応はこれか」
さっきのヤガ達は変身に驚きはしたものの、変身そのものに対してのリアクションは意外と薄かった。
何も知らなければパツシィや守衛のヤガみたいにもっと大仰に驚いて、警戒度合も上がるはず。
ディケイド相手に対応が早かったのは、同じようなものを知っていたからだ。
『OMEGA』
青年がベルトのグリップをひねると機械音声が鳴り響く。
「アマゾン」
『Evolu-E-Evolution』
呟くような、しかし力強い一言と共に彼の体から周囲の雪が蒸発する程の高熱が発せられた。
同時に青年は人間から異形の存在へと変貌していく。
「俺の知らない仮面ライダーアマゾンだと……!」
それは士の知るトカゲ型の野性味あふれるアマゾンライダーと似ているが、細部の形状は大きく異なっている。
野性的な緑の異形地味た姿でありながら、無機質で機械的なプロテクターを装着しており、複眼も釣り上がった攻撃的なデザインだ。
「はああっ!」
『アマゾン』がその場から飛び跳ね、一気にディケイドとの距離を詰めた。
速く、そして鋭い突き。
一発をしのいでも次々と矢継ぎ早に打ち込んでくる。
「ふんっ」
休まない打撃を、横腹への蹴りで止める。
素早い反応で受けられはしたが、警戒するように『アマゾン』は一旦距離を取り、ディケイドの周囲を回るように駆け出す。
「ちょこまかとせわしない」
『Attack Ride Blast!』
『アマゾン』の足元へ、銃型に変えたライドブッカーでマシンガンのような連射を放つ。
だが、弾丸は駆け抜けたその一瞬後を撃ち抜いていく。速くて捉えきれない。
「っち。あのスピードは厄介だな」
ライドブッカーを開いてカードを手に取ろうとするが、その大部分は黒く本来の能力を失っている状態だった。
以前の士なら『アマゾン』の野生にも十分に対応できる力を持っていた。
しかし世界漂白以降、ディケイドのまま扱う力を除いた、ほとんどのカードは効力を失っているのだ。
ベルトもマゼンタカラーのネオディケイドライバーから、旧式の白に戻っている。
もう一つの切り札である『ケータッチ』も今は起動しない。
新たな旅の始まりの時に、ディケイドの力は大きく失われていた。
『Attack Ride Slash!』
クリチャーチを切断した時の高速斬撃。
『アマゾン』は腕にあるヒレ状のカッターで受け、弾く。
「『予測回避』だ!」
逆に攻め返すような『アマゾン』の前蹴りが、ディケイドの腹に迫る。
しかしディケイドの体がふわりと浮かび、蹴りよりも早く後方へと跳ぶ。
まるで『アマゾン』の攻め手を予め読んでいたような動きだった。
今の動きは士自身が意図したものではない。
声の主を確かめるように振り返ると、後方に控えていた立香が広げた掌を広げ、士へ向けて腕を伸ばしていた。
「アシストくらいはできるから」
「なるほど。悪くない」
これが魔術師ってやつの力かとディケイドは理解して、前方へと向き直す。
『アマゾン』は不意の展開に焦ることなく、ドライバーのグリップを引き抜いて、鎌状の武器を構える。
ガンモードに戻したライドブッカーで射撃するが、『アマゾン』はそれを避けながら飛びかかるように距離を詰めて、ディケイドに鎌を振り下ろす。
しかし、それはディケイドの肩口を抉る寸前で止まっていた。
同時にライドブッカーが『アマゾン』の眼前でトリガーを引くことなく静止している。
「やはり、そうですか」
「こっちも大体わかった」
二人は互いにゆっくりと離れながら武器を下ろして向かい合う。
「どういうこと?」
突如戦いが止まって、立香は疑問を浮かべている。
しかし戦っていた二人には何かしら感じ入ることがあったようだ
「あなたからは、本気でこちらを倒そうとする殺気が感じられない」
「それはこっちのセリフだ。明らかに様子見しているだろ、お前」
「ええ、すみません。念のためにあなたの力と意思を確認させてもらいました」
『アマゾン』は変身を解いて元の人間体に戻った。
ほとんど同時に士も変身を解除している。
「いいんですか、こいつらを信用して」
ヤガの一人が警戒を保ったまま、青年へと歩み寄る。
もしもの時は自分が銃で彼を守るつもりなのだろう。
「うん、この人はこちら側の存在だよ。元々、仮面ライダーはそのために召喚されているはずだから」
士は最初、紅渡に仮面ライダーとして戦いへの参加を持ちかけられた。
あの青年はそれを断らずに協力を選んだのだろう。
「初めまして。僕の名前は水澤悠です」
数々の世界を旅した士も知らない別個体のアマゾン。彼の名は仮面ライダーアマゾンオメガ。
ロストベルトで初めて出会った、士以外の仮面ライダーだった。
今回の村毎に技術面の差がある話など、本編と流れが変わらず、かつ話全体に影響のないものはダイジェストにしたり端折り気味で進行します。
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