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カルデアの一行は、パツシィの情報を元に叛逆軍のアジトへと向かう。
吹雪の中を進む道行きにさしたる問題は起きなかったが、途中に経由した村で一悶着があった。
そこは叛逆軍のアジトへ向かうには避けて通れぬ場所に位置している。
そして、この村の警備を担当する者に立香達は呼び止められたのだ。
彼らは叛逆軍へ参加しようとする者達に対して、ここを通ることを黙認する代わりに、通行料と称した対価を要求して稼いでいるようだった。
「おい、出すのか、出さないのか。どっちだ?」
「持ち合わせがない」
守衛のヤガが問うてくるのを、士が素っ気なく返した。
「だったら金じゃなくても、代わりがあればそれでもいいぜ」
「クレジットカードは作らない主義だ」
「クレジットカードは使えないと思う……」
間違いなくそういう意味じゃない。
士もわかって言っているのだろう。立香のツッコミに対してやれやれと肩をすくめる。
「ならどうする?」
「逃げよう。できるだけ穏便に!」
「いきあたりばったりな旅だな。ま、俺も人のことは言えた義理じゃないが」
そもそも、こちらは支払わないなら通報すると脅されている身だ。無理をしてまで要求に従う必要はない。
「変身」
士はカードを取り出して、かけ声と共に戦闘スーツを装着する。
「なんだお前、うわ!」
ディケイドへと変身すると、素早い身のこなしで守衛のヤガから弓を取りあげる。そのまま力任せにへし折ってその残骸を捨て去ってみせた。
「よし、逃げるぞ」
士が告げると、目の前に揺らめくようなオーロラが出現した。
それがスライドするように動くと、無人のバイク――マシンディケイダーが出現する。
「マシュ、お前は後ろに乗れ」
「……はい。失礼します」
サーヴァントにならない状態だと、マシュの身体能力は立香よりも低い。彼女が後ろに乗るのは必要な措置だろう。
「俺達はどうすんだよ!」
守衛のヤガは逃げていったが、あれは仲間を呼んですぐ戻ってくるはずだ。
逃げ切る足は他にあるのかという意味でパツシィが問う。バイクにまたがった士は明瞭簡潔に答えた。
「走れ」
「ですよね!」
なんとなく答えを察していた立香は、その言葉と共に駆け出した。
パツシィは逃げながら「おいおいマジかよ」と愚痴っているが、立香は必死の表情ではあるものの、どこか落ち着いてもいる。
気を抜かなければ、この場はこなせると確信している者の顔だ
狂化されたヘラクレスを誘導するための逃走劇など、これまでもっと危険な状況で逃げ回ることは何度もあった。今さらこの程度でパニックになりはしない。
士も一方的に置いていくような真似はせず、立香の様子を観察しながらスピードを抑えている。
「逃がすな!」
守衛の報告を受けて、武装したヤガ達が何人も出てきた。
だが弓を構えるより先に、ライドブッカーのガンモードで、彼らの足元を撃ち威嚇する。
相手が躊躇っている間に、立香達は距離を広げてなんとか逃げ切ることに成功したのだった。
「ぜぇ……ぜぇ……もう追ってはきてないみたい」
「それよりなんだよ、その乗り物は」
モーターバイクなんて、それこそ近代も近代の産物だ。パツシィが知っているはずもない。
「俺の世界じゃよくある乗り物だ」
「そんなのが当たり前にあるのかよ……」
「でも、このバイクどこから出したの?」
「さあな。こんな時にあれば便利だと思ったら出てきた」
その発言からしてどうやら感覚的にやっているらしい。
変身を解除した士がバイクから下りる。マシュもそれに続くと、再び出現したオーロラが、出現時と同じ要領でバイクを消失させた。
『たぶん宝具の一種じゃないかな。ライダークラスだし、近代ならバイクが出てもおかしくはないかも。前例もあるしね』
カルデアでもバイクを宝具として扱うサーヴァントは存在する。なんだったら、そこから更にライフルで相手を狙撃する者までいた。当人達は決して近代の人物ではないのだが。
「とにかく、先を急ぐぞ。ここからはまた歩きだ」
仮面ライダー。その名が示す通り、門矢士の霊基はライダーのサーヴァントとして現界している。
彼らにとってバイクは基本武装であり、自分達の存在を示す物の一つ。それが宝具として具現化するのはさほど驚くことではないのだろう。
つまり彼の愛機マシンディケイダーもまた、共に旅する相棒としてここにあるということだった。
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