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FMO1章 第4節『藤丸立香という少年』≫1

2024年4月13日

[作品トップ&目次]


 立香達は叛逆軍に案内され、彼らのアジトへと辿り着いた。
 途中何度か魔獣に出くわしたが、ディケイドとアマゾンという二人のライダーがいれば大した障害にはならない。
 むしろ食糧や貴重な素材として使えるものは回収した。

 叛逆軍は皇帝ツァーリに村を焼かれて、家族と共に逃げてきた者達も多数いる。
 そのため叛逆と銘打ってはいても、メンバーには戦えない女子供や老人も多い。
 彼らを生かすための食糧や物資も必要なのだ。

 それでもアジトは見つかりにくいよう隠され、もしも攻め込まれた時の備えもされている。
 長年雷帝に歯向かい続ける者達の意思が形になったような砦だった。

 アジト内へと入ってからは、立香らは叛逆軍から途中で狩った魔猪の肉を分けてもらい食事を始める。
 新所長から毒抜きの方法を教わったマシュが焼いたものだ。

「マスター、お味はいかがでしょうか」

「うん、なかなかいけるよ」

「魔獣の調理は初めてでしたが、それなら良かったです」

 もともと立香が毒に強い体質になっているということもあるだろうが、遭難慣れしている新所長のサバイバル知識が役立ったのは事実だ。
 本人はメタボ体型で貴族育ちだが妙なところで逞しい。

「そうか? けっこう癖があるぞ、この肉」

「味付けが悪かったでしょうか?」

「いや、マシュじゃない。肉そのものの味だな」

 文句を言いつつ、士も肉にかぶりついて食べてはいるようだ。

「カレー粉があったら大抵の癖や臭みは誤魔化せるんだけどね」

「お前、見かけよりタフだな」

「あはは、マスターやってると毎回スタート地点が安全とも限らないし、物資にも限りはあるから。最低限のサバイバルはジェロニモや他のサーヴァント達から習って訓練したんだ」

「先輩は長い旅の間、様々な英霊から特訓を受けていました」

 途中の村でヤガ達に追いかけられた時、速度を落としていたとはいえ、パツシィと共にバイクへ追いついてきた。
 背後からは他のヤガ達も追ってきていたのだ。それなりの体力とガッツがなければできることではない。

「ふうん。そういえば、マシュはそれだけでいいのか?」

 彼女の皿にも魔獣料理は乗せられているが、士達のそれに比べて量は明らかに少ない。

「わたしは疑似サーヴァントとはいえ、食事はそこまで重要ではありません。備蓄はできるだけ温存しておこうと思います」

「そうなのか」

 今は士もサーヴァントとなっているため、同じく食事は必要のない体であるはずだ。
 特にそんなことは気にせず、いつものように食べていた。

「すみません、士さんはまだサーヴァント慣れしておりませんでした。わたしの説明不足です。士さんは特殊な状態のため食事の必要性なども考慮して、先輩と同じ量を用意させていただきました」

 本来戦闘員は一番エネルギーを必要とする。必要か否かが未知であるなら、優先的に回されるのは必要措置だろう。

「便利なんだな、サーヴァントってのは」

「代わりにサーヴァントは魔力が動力源です。そのため魔力が尽きれば消滅します。食事は肉体よりも精神面の回復要素がメインでしょうか」

 美味い食事は精神安定剤の役割を果たす。ストレスの強い環境に赴き戦うサーヴァントにも、食事はちゃんと意味がある。
 もっとも魔猪の肉では精神的な回復より、むしろストレスが溜まるかもしれないが。

「なんだ、その小僧は?」

 途中から会話に参加しなくなっていた立香は、いつの間にかヤガの子供と見つめ合っていた。

「顔、つるんつるん。痛くならないの?」

「うん、全然平気だよ」

「もしかして、幽霊ゴースト?」

 ああ、そういやあいつは確かに顔がツルツルしてたな、と士はある幽霊型ライダーを頭に思い浮かべている。

「おーばーけーだーぞー!」

「キャー!」

 立香は食べ終わった肉の串を皿に置くと、手首をだらんと下に向けて、子供に向き直って幽霊の振りをしていた。
 子供は嬉しそうにはしゃいで逃げ回っている。微笑ましい光景だ。

「やっぱりタフだな、アイツ」

 極寒の地で物資もままならない危機的状況。そんな中でも子供とじゃれ合う心のゆとりがある。

「あの和やかな雰囲気については……先輩が最初から持っている魅力だと思います」

「ほう?」

 士が立香を眺めているとマシュが補足した。
 彼女は微笑ましく見守る目で立香を眺めている。

「わたし達が正式なグランドオーダーとして向かった第一特異点、オルレアンでのことです……」

 そう切り出して、マシュは語りだした。

 マシュ達はフランスの地で召喚されたサーヴァント達と巡り会った。
 旅をすれば寝泊りもするし、食事だって皆でする。
 キャンプ地を決めて、夕食の準備やその食事会の中でマシュ達や英霊達は様々なことを語り合った。

 それは皆が知る歴史の裏側。
 あるいは他愛ない雑談。
 歴史に名を刻んだ英雄達と談笑しながら、彼らの生前過ごした出来事に耳を傾ける。そんな夢のような一時だった。

 その夜、マシュはたまたま夜風に当たりながら休憩していた立香を見つけた。
 そこでの話題も、やはり英霊達とのキャンプについてだ。

 旅の目的はあくまでも聖杯の回収。戦いは激しく当然辛いことも多い。
 何よりも世界焼却を防ぐという、自分達にしかできない重役を任されている。
 そもそもにフランス自体、聖杯を巡る戦いに巻き込まれて多くの人達が命を落としている最中だ。

 故にマシュは、責任と良心の呵責からくる罪悪感に囚われていた。
 世界はこんなにも危険な状態なのに、自分はこんなに充実した時間を過ごしていいのか。この感情はとても罪深いものではないか。

 これは人類の存亡をかけた戦い。一時たりとも気を緩めることなんて許されないのに……。

 けれど、

『楽しかったよね』

 月明かりに照らされ輝く立香の笑顔。
 マシュが胸の奥にしまい込もうとしていた気持ちを、そのまま代弁しくれた。

『はい……!』

 彼女の心に爽やかで心地いい風が吹き抜けて、罪悪の闇は霧散する。

 自然に湧き上がるこの気持ちは、そこにあっていいものなのだ。
 世界を救いたい使命感。
 旅を楽しんでいる気持ち。
 どちらも嘘偽りのない自分なのだと、立香はごく自然な笑顔一つで教えてくれた。

 つらいのも楽しいのも、ただありのままに、自分の感情を受け止める。

「先輩はいつも、そうやって旅を楽しんできました。きっと、今も」

「そうか……」

「あ、すみません! 一人で長く語ってしまいました……」

「いや、肉の癖を紛らわせるには、丁度いいスパイスだった」

 マシュが気付くと、士の皿も残っているのは骨だけになっていた。
 不満を漏らしつつも、ちゃんと食べきったらしい。

「お待たせしました」

「ああ、こっちも食べ終えて暇していたところだった」

 水澤悠が、ヤガ達との食事を兼ねた今後について相談を終えてこちらへとやってきた。
 とてもついさっき食べ終わったとは思えない態度で、士は彼を迎え入れる。

 それに合わせて子供と遊んでいた立香も、こちらへと戻ってきていた。
 食事を終えてひとまずは落ち着いたが、本題はここからなのだ。


ぐだ男とマシュのやり取りは『Fate/Grand Order-turas realta-』の第三巻を参照。
当作品にとても大きな影響を与えています。
オススメのコミカライズ作品なので読んでほしいです。
マリーのシーンで泣きしました……。

 


 

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