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FMO1章 第10節『夜想曲♭キバの鎧』≫2

2024年4月21日

[作品トップ&目次]


 潰れた街を見たカルデアの一同は檄文の配布を諦め、一気にキバが占拠した村へと向かうことに決めた。
 ヤガ達は強者に従う習性がある。あれだけの圧倒的破壊を見せられた者達に叛逆を促すのはほぼ不可能だと判断したためだ。

 余計な寄り道がなくなった分だけ到着は早まり、日をまたぐ前に到着はできた。

 まずは遠巻きに観察すると、日は暮れたが人通りはまだある。特に変わった様子はなく普段通りという雰囲気だ。
 元々盗賊達は有力者達に匿われていたことを鑑みると、彼らが捕まっても街そのものに大きな変化はないのかもしれない。
 それは同時に、キバの情報を集めるのに骨がおれるという意味でもあった。

殺戮猟兵オプリチニキがきたばかりの街で、人間がうろつくのは警戒と通報の恐れがある。まずできることと言えば僕が霊体化して噂話に耳を傾けることかな」

 言ってはみたものの、この手はかなり非効率で運の要素も大きい。時間が経過すればやがて皆寝静まり誰もいなくなるだろう。

「霊体化?」

 それは士にとっては聞き慣れない言葉だった。すかさずマシュからのオペレーター的なフォローが入る。

『通常のサーヴァントなら、霊体化によって魔力を絞って一時的に姿を見えなくすることができます』

「ほう。俺はできないみたいだが?」

『以前シャドウ・ボーダー帰還時に軽く身体検査を行った結果、士さんはサーヴァント反応こそありますが強い魔力要素を持った人間に近しい状態となっています』

「なるほど。士はまるでレイシフトした魔術師か。マシュ君のような疑似サーヴァントに近い状態だね。君らしいよくわからない特別製だよ」

「そう言うのは鳴滝に言え鳴滝に」

 士自身、自分の身体が詳しくはどうなっているのはよくわかっていない。ただ普通に生活して戦える。それだけハッキリしていれば今は十分だとも思っていた。

「それだと余計に情報収集が厄介だ。僕なら単独行動のスキルもあるし……おや、マスター君は何を見てるのかな?」

 会話に混ざってこない立香の方を見ると、じっと何かを見つめるよう街の方を観察していた。

「ああ、あれ見て。あの立て札、遠いけど日本語に見えないかな?」

 安全を考慮して街からは多少距離を置いており、周囲も暗い。ここから文字を判別するのは不可能だ。
 けれど確かに、立て札にはおぼろげながら見知った文字の感覚がある。

「確かに……僕が確認してこよう。二人は待っていてくれたまえ」

 そう告げると早速霊体化によって海東の姿が立香には視認できなくなる。それから数分程で彼は再び姿を表した。

「確かに日本語だった。そしてあれは僕らへの『果たし状』だ」

『は、果たし状……! それは決闘を申し込む際の東洋式作法というアレかね?』

 顔を見なくてもテンパってるとわかる声色でゴルドルフが尋ねる。
 海東は問いかけへの答えとして立て札に書かれていた文字を読み上げた。

「『叛逆者達へ、町外れの教会にて待つ。キバ』。それだけだった。ちなみに、ご丁寧に地図まで書かれていたよ」

「俺達がキバの名前に反応してくるのを待っていたってわけか」

『ふむ、それだと『キバ』という名前そのものが罠の可能性すらある』

『下手に向かうと万全の状態で待ち構えているのでは?』

「あいつらはそんなに暇人か?」

 完全に怯えきっているゴルドルフの言葉を、士がバッサリと切り捨てる。

『ミスター門矢の言葉にも一理ある。罠にしては悠長で確実性に欠ける手段だ』

『はい。そもそもマスターがここへ来るという確証がありません』

 日本語なら仮面ライダーほとんどは読める。だが来なければ意味がない。
 来たとしてもいつになるか不明瞭な叛逆軍に対して、しかも仮面ライダーが率いているという理由で書かれた立て札。

「彼らがどこでキバの名を知ったのか。そもそも何故キバだったのかも気になるところだ」

 キバは本来人類に敵対する存在ではない。この世界ならむしろ人類とヤガの関係を取り持とうとする可能性すらある。キバの変身者たる人間的な資質とは元来そういうものだ。

「よし、行ってみよう」

 意図の読みにくい行為に対して、立香が答えを出した。その態度にゴルドルフが狼狽する。

『正気かね!?』

「キバは本来味方なんでしょ?」

「ああ、それは間違いない。俺を最初に誘ったのは紅渡だからな」

 紅渡。仮面ライダーキバの変身者。普通に考えれば、世界白紙化に味方するのはまずあり得ない人物だ。
 キバの変身者ならもう一人心当たりはあるが、こちらも味方であることには変わりない。

「なら、敵に捕まっているのかもしれない」

『それなら助け出せばこちらの戦力になってくれるかもしれません』

「だとしても、教会にキバ本人がいるとは思えないが……それでも向かうかい?」

「たとえ直接会えなくても、何か手がかりはあるかも」

 立香の決意はもうしっかりと固まっているようだ。そう悟ると海東は再びマシンディエンダーへと騎乗した。

「今の僕はサーヴァントだからね。マスター君の判断なら従うさ。位置も頭に入っている」

 従うと言っても、海東に渋々従うといった気持ちはなかった。
 成果を得るために危険へ踏み込む決断は、むしろ親近感すら覚える。
 ディエンドライバーだって、その意気で大ショッカーに忍び込み入手したものだった。

「さっさと行くぞ。乗れ、立香」

 士も既に出発準備を終えていた。もし罠だとしても、それごと突破すればいい。
 リスクを恐れず渦中に飛び込むという意味では、士と海東は似た者同士と言えるだろう。

「うん、行こう」

「フォフォーウ!」

 フォウも出発進行と言わんばかりに元気よく鳴いて、二台のマシンはキバの待つ教会へと向かう。

 そうは言ってもさほどの距離はなく、バイクでなら五分と要しない距離だった。
 念のため安全な距離を保った状態で降りて、先に変身してから慎重に教会へと近付いていく。

『これは……音楽でしょうか? マスター警戒をお願いします』

 それは教会の中から聴こえてきた。風に乗って届く旋律は、中にいる者が音楽家、それもバイオリニストであると示している。
 紅渡はバイオリン職人であり、本人も相応に演奏ができる人物であると道すがら士達から聞いていた。

「中にいるのは何人?」

『教会内で検知できるのは一人。この霊基数値は……恐らく仮面ライダーだと思われます』

 ディエンドとなっている海東の問にマシュが回答した。周囲に敵性反応もない。
 つまり立て札を設置したキバと思わしき人物は、たった一人で隠れもせずバイオリンを奏でているのだった。

「まさか本当にライダーが僕らをお待ちしているとはね」

「なんだか、寂しい音色だ……」

 それは立香の直感的な感想だった。

 近付く程にその旋律ははっきりと知覚できるようになっていく。
 美しく、そして何処か儚げですらある旋律。聞き覚えのない曲だけれど、何故か自然と心に染み込んでくる。

「この曲は……」

 しかし士にとっては違ったようだった。緊張の糸が張り詰めた表情で扉の前に立っている。

「知ってる曲?」

 小声で立香が問うた。
 士は答えない。その沈黙がそのまま答えだった。

 ●

 教会の中で、一人の男がバイオリンを奏でている。
 教会の内部は濃い闇が覆っているが、それでも長い間使われていないのがわかる程に荒れていた。

 昼も夜もなく悪天候で吹雪が吹きすさぶこの世界では、月明かりも届かない。
 その代わりとして祭壇には蝋燭台が立てられている。

 その光が照らす中に、教会には不釣り合いだろう見るからに豪華な椅子が置かれていた。
 そこにバイオリンの演者が足を交差させるよう組んで座っている。

 不意に教会の扉が開かれた。その音に男は来客だと気付くが演奏を止める気配はない。

 バイオリンには弾くべき時と、聴かせる相手が必要だ。

 今はその弾くべき時だった。
 聴かせるべき相手は、今しがた教会へと足を踏み入れた者達ではない。

 それは彼が生前に命が燃え尽き寸前まで、心から愛した二人だけだ。
 けれど、今はそのどちらもこの世界にはいない。

 夜闇に音色が染み込んでいくように、男の想いも誰に伝わることなく静寂だった大気を揺らしている。
 男にとってはそれで良かった。最も音が響く夜に、風へ乗せて贈り届けるように男は音色を紡いでいく。

 ●

「……開けるぞ」

 立香と海東が小さく頷くと、待ち受ける運命を隔てる一枚を解き放った。

 士達が入ってきても、演者は目を瞑ったまま手を止めない。
 威風堂々と、自分こそがこの場の主であると言わんばかりの振る舞いだ。

 やがて奏でられるエチュードは終わりを告げ、弦はバイオリンから離れていく。
 目を開いた男は、静かな、けれどはっきりと聞こえる声で告げる。

「時が来た……」

 それに呼応するよう、バイオリンと弦は光となって消失した。
 そして暗闇の中を何かが飛翔してきて、男の周囲を回る。

「喜べ、絶滅タイムだ!」

 それは演者の男とは異なる声。飛翔していた赤きコウモリ型の存在キバットバット二世が発したもの。
 手を掲げるとキバットは男の手に収まり、近付けられたもう一方の手を噛んだ。

「ガブリ!」

 男の体内に魔皇力が注入されていき、黒い血管のような跡が手から全身へと広がっていく。
 それと同時に二本の鎖が腰に展開して、変身用のドライバーを構築する。
 その頃には魔皇力の跡は頬にまで伝わり、紋様の如き様相を生み出していた。

「変身……!」

 キバットの目が黄色に点滅しながらドライバーへと嵌め込まれる。蝙蝠が何かに掴まる時のような逆さでだ。
 循環した強大な力は赤と黒の鎧と化して、男の身体を覆う。

 鎧の名は確かに『キバ』と呼ばれる物だった。ファンガイアの王のみが纏うことを許された闇のキバ。

「世界の破壊者……お前達はこの手で終わらせてやる」

 されど、彼は王に非ず。
 命と引き換えにキバの鎧を手にし、王を討ちとった男――紅音也。
 仮面ライダーダークキバが、破壊者に終末を告げた。

 


 

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