あらすじ
第20話「微笑む天使、笑えぬ真実」のネタバレ感想・考察
宝太郎(本島純政)らのもとに鏡花(福田沙紀)がやってきた。訝しがる宝太郎らの前でスパナ(藤林泰也)の師匠だという鏡花は、宝太郎らも知らなかったスパナの過去を語り始める。
「すべての始まりは10年前…」そのころ宝太郎やりんね(松本麗世)のように強くなれないと思い悩むスパナの前に両親が現れた。久々の“親子の再会”を喜ぶスパナだったが…!?
黒鋼スパナは焦っていた。
素人でしかなかった一ノ瀬。
保護対象のはずだった九堂。そのどちらもが
「仮面ライダー」として自分より強い力を手に入れたこと。もっと力を……。
もっと強さを!!そう翳るスパナのもとに
長い旅に出ていたはずの両親が突然現れる。両親との再会に笑顔をこぼすスパナ。
自分にも守るべき、帰るべき場所があるかもしれない。しかしそれは、天使が与えた、淡い夢。
スパナに対する、最も卑劣で残酷な罠。冥黒の遣い、闇の天使が嗤うとき
スパナの慟哭が虚しく響くーー。
本当に牙が抜けたのはラケシス
相変わらずラケシスは、グリオンがアトロポスだけを贔屓する態度に不信と不満感を募らせる。
グリオンはそういった態度を隠そうともしないので、状況は悪化しかしない。
しかもグリオンの狙いはラケシスの獲物だったスパナに向いた。
グリオンは力で圧倒するだけでなく、スパナの心まで容易く折ってのける。
自分では何度やってもできなかったことを、たった一回で達成されてしまった。
最初から持っている情報量に差があったとはいえ、グリオンとの格差を見せつけられたも同然だ。
牙の折れた猟犬は惨め過ぎるというラケシス。
一瞬嘲笑の笑みも見せたが、それも含めてとてもつまらなさそうだった。
むしろどこか病んでいるようにすら見える。ある意味では人間臭さすら感じた。
アトポロスがりんねに執着していたように、ラケシスはスパナに対して偏執的な感情を向けている。
本当は自分がスパナを跪かせて、許しを請う姿を見たかったはずだ。
それを最初に成し遂げる達成感は永遠に失われてしまった。
力で従わされて理不尽な仕打ちを受けて、本当は自分がやりたかったことまで奪われる。
それをただ眺めることしかできない。本当に牙が抜けた存在は彼女自身なのだ。
黒鋼スパナが被っていた仮面の本質
今回は話の情報量が多く濃密で、よく1話でまとめられたなと思う。
その反面、スパナと両親の団欒シーンがあまりなくて、彼の怒りと絶望に少し感情移入しにくいのが難点だった。
ただし、スパナが怒りと憎しみに支配されていく演出自体はすごく上手い。
それを外から眺める感覚になってしまうのが惜しいと感じた。
いざという時は案外あっさりりんねを見捨てたスパナだったが、家族は切り捨てるなんて選択肢はまるで出てこなかった。
仮面ライダーになれないスパナの憤りは、『自分で戦う強い意思』や『自分が誰より優秀である自負心』の現れだ。
そのプライドをかなぐり捨てて、一番ライバル視していた宝太郎に助けを求める。
両親が土に還るまで、何度も「助けて」と叫び続けた。
十年間積み上げたものが全て崩れさり、弱い少年時代へと逆戻り。
そして過去の再現により、封じられていた記憶が甦った。
鎖とは、その対象を捕らえるしがらみの象徴としてもよく扱われる。
(それはそれとして、公式がスパナを縛る鎖に対して『もっと腕にシルバー巻くとかさ!』と遊戯王ネタに走ったコメントをしたことは語り継いでいきたい)
スパナを捕らえていた鎖とは、彼を逃さない過去や仮面ライダーになれない焦燥。
それらを黒い炎が焼き尽くす。
マルガム化でヴァルバラドの仮面が剥がれ落ち、その内にあったのは醜い顔。
それは強い憎悪と、剥き出しの感情だ。
仮面ライダーになれず、覚悟で宝太郎に負けたことでひび割れかけていた仮面の中身が、白日の元に晒された。
黒鋼スパナが『いなかった』の理由
両親と違い、枝見鏡花はとのやり取りは、これまでの積み重ねがあるので、十分に共感性がある。
人格矯正のため記憶を消すというのは、一般的な感覚では最後の手段だろう。
かつてスパナが暴走した際は、それだけ手が付けられない状況だった可能性が高い。
しかも鏡花は記憶を消した後も責任を持ってスパナの面倒を見ている。相応の覚悟と責任があった上での実行したのは間違いない。
スパナの性格は、過剰なまでに冷徹で割り切り方が極端だ。それを彼なりの『美学』として昇華していたのも、黒い炎を制御するためだった。
結果として、超A級錬金術師の称号という一定の実績も得ている。
その上で、鏡花が黒い炎の制御を課題として抱えていたままだったのは、仮面ライダーになれない焦燥が表層化していたからではないかと思う。
みくびっていた宝太郎は仮面ライダーとして迷いのない成長が見えた。
保護対象だったりんねまでスパナの『先』を行った。
自分への自信と美学への揺らぎ。
これ自体は過去に起因するだけではない、スパナの精神的な弱さだ。
また、今回のマルガム化はいつもと少し違っていた。
マッドウィールは悪意に引き寄せられたのではなく、自分からスパナの身を案じて近付いる。マルガムになったのはその結果だ。
道具と呼ばれながらも、そこには彼らなりの信頼感があったのだろう。
ボールを友達と呼ばなくても、道具として大事にしていたのなら、それは態度や行動に現れる。
しかし、師匠の覚悟も、戦友の想いも、憎しみがすべて破壊して、より強力な暴力装置になった。
スパナは鏡花の意図を理解しても、それは嘘の上に成り立つものであるため許せない。
理性で制御していた頃よりも強い力は、もはや仇を討つ方向にしか向いていない。
「復讐に美学はない。明日を生きろ」
スパナはかつて自らの口で語った美学を、根底から完全に否定した。
故に「そんな奴、最初からいなかった」なのだ。
それでも鏡花は、これまでの積み重ねてきた嘘が作ってきた時間を信じようとしている。
これは、黒鋼スパナが脱ぎ捨てた仮面をもう一度被る物語だ。
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