評論家から不評でも大人気になった理由
※ 本記事には軽度のネタバレが含まれます。
最大公約数的に『皆が頭の中に思い描くマリオを3Dアニメにしたらこうなります』をクオリティ上げてド直球にやった作品。
ぶっちゃけストーリー自体は半ばあってないようなもの。
ただしこれは悪口ではなく、変なモノをなるべく混ぜ込まず、映画一本の中でひたすら『マリオ』を作ることに極振りした結果だ。
本作が好評な理由は『余計なことをしなかった』に尽きる。
ドンキーなどで設定の改変はあるものの、それは本作を一本の映画として収めるために必要な要素だった。
その上で、改変した部分にも『マリオ』らしさの味付けはしっかりされているので、コレジャナイ感はある程度抑えられている。
本作は映画評論家からの評価が総じて低いことから(評論家が)少し燃えた。
実際に作品を観ると、映画評論家はこうならざるを得ないのもよくわかった。
他作品を例に出せばわかりやすい。
例えば『鬼滅の刃 無限列車編』だ。
これは日本で興行収入400億を突破した傑作としてあまりに有名だが、同じく評論家の反応は芳しくなかった。
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ただし、鬼滅だと「作品の一部を切り出して映画化したんだから当然だ」と考える人は多い。
これはその通りだろう。
テレビアニメや原作漫画という予備知識があることを前提にしている。
最初から映画としてシリーズ化されていない時点で、それらを加味して評価すべきと言うのは筋違いだ。
マリオもこれとよく似ている。
本作はマリオブラザーズをゲーム感ごとそのまま映画に落とし込んだ。
マリオブラザーズを知っていて、楽しんできた者達の理想像を追求した作品性なのである。
予備知識なしで純粋に楽しめるのは、小さなお友達ぐらいだろう。
これも結局は、映画外の予備知識を前提にしているのだ。
数多の作品を同じ評価軸で平等に扱わなければならない評論家は、鬼滅と同じく、その前提知識は無しで評価せざるを得ない。
そうなると本作に残るのは『割とガッツリ子供向けの内容で、うだつの上がらない配管工のオッサン達がなんやかんや世界を救う物語』である。
美しいアニメーションも評価の対象にはなるだろうが、これもゲームの没入感を頑張って再現しているので、画だけを単独でみると評価は落ちる。
もちろんゲームとしての『マリオ』は、大人から子供まで幅広く楽しめる作品性も重視されているので、『マリオ』としてはシナリオ性も正しい。
あくまで根本的な評価軸が違い過ぎるのだ。
その上で言えば、本作の欠点は『マリオ』として大正解し過ぎて、『映画』という根本的な評価軸は投げ捨てていることである。
『マリオ』への愛着が、まさに本作への評価に直結するのだ。
ピーチ姫はポリコレか?
映画評論家から支持を得られなかったもう一つの理由として、ポリコレの希薄さもあった。
これもオタクとしては喜ばしい要素でしかないのだけどね!
本作だと唯一ポリコレ的と言えなくもない要素は、マリオよりも強くて優秀なピーチ姫である。
前半では「こいつTASでは?」というスーパープレイを披露した。
ただし、ポリコレを強く意識したキャラクターは、男勝りな性格から他人に対して過度に攻撃的な性質を持つパターンがある。
本作のピーチ姫は勝ち気だが、それ以上に弱気に優しく強きに厳しい、正義感溢れるヒロインだ。
映画だとやや極端なきらいはあるのだが、ゲームのピーチ姫も、時代が進むごとにアグレッシブさが増していった。
パーティーゲーム系だとプレアブル化することは珍しくない。
スーパーマリオUSAなど、アクションメイン作品でも、キノピオと共にプレイヤーキャラだったこともある。
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スカートを使った滞空も、当時のアクションが意識されていてテンション上がった。
(最近のマリオシリーズは詳しくないから、他でもやっているかもしれないけど)
そのため本作のパーティー編成も普通に納得できる範疇だった。
女の子が見ても楽しめる、格好良いスーパーヒロインに落とし込まれている。
それとピーチ姫は、マリオと視聴者に細かな世界観を説明して、話の進行役を担うナビゲーターの役割でもあった。
マリオは事件に巻き込まれてついていく流れで、むしろ主体的に動いているのはピーチ姫の方だった。
それでいて、あくまでメンバーの一人以上の活躍はせず、マリオを食うような過剰な活躍もしていない。かなり上手い具合のさじ加減だった。
とはいえピーチ姫の活躍にしっかりと割を食った者もいる。
本作は『スーパーマリオブラザーズ ビギニング』的な立ち位置だ。
本来だと初期のマリオは、クッパによって囚われの身となったピーチ姫を助け出す物語である。
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重箱の隅をつつくような話になってしまうのだけど、マリオ初期の守られるプリンセス的なヒロイン像は、ポリコレだと古臭い思想扱いされている。そういう事情は無視できないだろう。
現代では、お姫様がやると反感を買う古風なヒロインの役回りを、本作ではルイージが担っていた。
アクション面だけで言えば、ルイージは半ばピーチ姫と役割を挿げ替えた感は否めない。
しかしながら、ルイージの性格からあまり違和感がなく、このおかげで雑なメロドラマが展開されることもなかった。
名前通りにマリオブラザーズとして兄弟の絆を大事に描いてくれたのは嬉しい。
続編を十分に作れる大ヒット作となったので、次回はもっとルイージも活躍できるシナリオになるのを願おう。
総評
とりあえずマリオブラザーズやマリオカートが好きで、本作に興味をもった人なら観ておいてまず損はしない。
ストーリーとかドラマ性とかどうでもいい! とにかく映画で『マリオ』をやるんだ!!
そんな清々しい割り切りが全編から感じられた。
これまでマリオブラザーズというゲームに、高尚で小難しいシナリオ性などあったか? なかっただろう。
だからこの作品にもマリオが冒険するための動機と、誰しもが「これぞマリオだ!」と思える世界観の作り込みさえあればいい。
そしてマリオは世界的に有名で人気のゲームだから、それがそのまま作品評価に直結している。
云わば、約束された勝利の剣を引き抜き、正しく使った結果が本作なのである。
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