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家族に向き合う物語性
冒頭から仮面ライダー50周年を語りつつそれ以上にコロナを連呼したきたが、これは本当に重要な要素だ。
セイバーの時は制作にもコロナの対策に力を入れ、苦しい状況だからこそ明るいヒーローを描いた。
前者はとても重要なことで演出面にも様々な影響や変化を与えている。けれど直接的に作風やテーマとはまた別の話だ。
家の中に閉じ込められる状態になってしまった子供達が夢を持てるよう重苦しい展開はある程度押さえつつ、物語そのものをテーマに据えた物語。
セイバーが終わると、エンディングと共に現実も爽やかな解放感に溢れていれば最高だったが、現実は理想に追い付かなかった。
コロナ禍での生活が当たり前になり、日常の変異にも感覚が麻痺している。
そういう現在の社会性を作風に取り込むにも、直接コロナ禍の世界にすると生々しくなり過ぎるだろう。
社会云々以前に仮面ライダーは娯楽作品である。特にメイン視聴層である小さなお友達が、コロナ禍を家で過ごす中でも、目一杯楽しめる時間であることが理想だ。
『孤独のグルメ』みたいに配慮が必要な番組でもないのだから、テレビの中ですら嫌な現実を直視させる必要はない。
その上で、子供達が憧れるヒーローとして、コロナ禍に負けないメッセージを伝えたい。故に少しばかり視点をズラす。その結果が『家族』だった。
コロナ禍によって、メインの視聴者層である子供達は休校や休園等がいつくも発生している。
これまで働きに出ていた人がリモートによる業務に切り替わっていく。
休日だって外出自粛でずっと家の中の人達だってたくさんいる。
そうして家族と過ごす時間が増えていく。
子供がいる家庭を前提とするなら、そうなる可能性は飛躍的に上がる。
それがたまのバカンスならば、自然と家族との時間を大切にしようという気持ちにもなるだろう。
しかし、コロナ禍で外にも出られない閉塞感の中では、一緒に過ごすことで逆に嫌な面が目に付いたり、日頃から溜まっていたストレスが爆発したりのケースをよく見かけるようになった。
コロナ禍根の中で家族の大切さを伝えたいという意思は、公式サイト等でも直接語られている。
しかしだからと言って「子供向け番組だから家族の大切さをメッセージにしてるんだねー」と完結してしまうのは少々拙いと私は思う。
ここで更にもう一歩踏み込んで考えたい。
仮面ライダーはメインの視聴層は子供だが、同時にその家族も対象に含まれる。
これは以前に『仮面ライダーは子供向けか大人向けか』でも細かく考察した。
(リンクは前記)
身も蓋もないことを言えば、子供に玩具を買い与えるのは『親』であり、親子で仮面ライダーにハマってくれたら売上向上に繋がる。
家族で過ごすことを半ば強制される時勢で、家族で観る番組だからこそ、今一度、親子や兄弟の繋がり、大切にすべき絆、家族とは何かを問う。
『家族』というテーマ性は、掘り下げればそういう意図が見てくるのではないだろうか。
他にも仮面ライダーにおいて、主人公の家族関係が掘り下げられることはかなり稀だ。
大体既に両親が死別していたり主人公が記憶喪失だったりが多い。直接死んだと描かれていない場合は、高確率で全く触れられずガチスルー決め込んでくる。
ぶっちゃけ非日常の世界に生きる仮面ライダーは主役に特殊性を強く求められるため、日常の象徴たる家族はかなり相性が悪い。
今回はあえてその家族をガッツリ描いており、それがリバイスの特殊性を際立たせる要因となった。
そういう家族をテーマに据えたホームドラマの視点で考えると、五十嵐家は一見すると理想的な家族である。
しかし伏線として闇がいくつも見え隠れしていた。言わば中のいい家族関係はそれ自体が闇を際立たせるための仕込みみたいなものだ。
では、家族構成を改めて整理してみよう。
●五十嵐家
家族経営で『しあわせ湯』を営んでいる。
木下氏が銭湯好きでスーパー銭湯のワーキングスペースで書くこともあるそうだ。
ダメ元で提案してみたらそのまま通っちゃったらしい。
こういうメジャーじゃない仕事しているのって仮面ライダー味を感じる。
後、ヒーロー戦記観た時は50周年で色々と拾ってきているので、仮面ライダーキバから拾ってきたのかなとちょっぴり思った。
一輝:
主人公で長男。
銭湯の仕事を引き受けている。
大二:
次男。フェニックスに所属。
つまりは政府直属の特務機関への就活に成功したエリート。やったぜ。
さくら:
末っ子。クールを装う空手ガールのJK。じょしこうせい。
幸実:
母親。状況から察するに実質的な経営責任者。
元太
父親。不人気の動画クリエイター。実質残念なYouTuber。
以上の布陣だ。
一~二話ではあまり目立った出番はない妹さくらは、本作におけるメインヒロインポジションである。
格闘技をやっているのは今の時勢的な理由で、守られるだけのヒロインは避けたため。
主人公の五十嵐一輝は、家族と実家で経営している銭湯を大切にしている真面目な好青年だ。
けれど冒頭で、抜群のコントロールながら行儀悪く足で風呂桶を片付けていた。
後に、一輝の夢はプロサッカー選手だったと判明する。
一輝は自分の夢を諦め銭湯を継ぎ、弟の夢を応援していた。
弟の大二は、一輝にサッカーの才能があったと知っており、自分だけ夢を追うことに気後れしている。
何気にサッカー選手夢見ていたライダーは二人目だ。
さらに言えば映画でサッカーやっていた仮面ライダーもいるのでワンチャンあるぞ!
それでも兄弟としての関係は良好であり、どちらが悪いわけでもない。問題は父親だ。
設定でこそ不人気の動画クリエイターとなっているが、撮影している内容は加工や特殊な技術を要するものではなく、縄跳びなどチャレンジしている系だ。
要するに不人気YouTuberだろうけど、それは無職かほぼ無職のどちらかだよ!
例えば、YouTuberは仮に収益化されているとしても、一定額が貯まらないと振込されない。
毎月、振り込み最低額の8,000円が収入でも、およそ8万再生(収益額はその都度変化する)は必要になる。
そもそもYouTuberだと収益化は中々に敷居が高いので、それすら届かない者が大多数であり、それはただの無職だ。
なお、動画をやっているのは一攫千金目的であり、要するにダメ親父のしわ寄せを長男がくらっている状態なのでは?
しかしながら、父親は明るくそれなりに良い雰囲気で家族をやっている。
さくらは何気に容赦ないことを言っているものの、逆に言えば軽口でダメ親父扱いできるのは関係が良好な証だ。
家族の立ち位置がそれぞれ現状に至った経緯はかなり気になる要素だ。
もう一つ、第一話の中で家族の闇が生まれた。
夢に向かって進んでいくはずだった大二は、変身に失敗して悪魔を生み出した者を見てしまい、いざという時に臆して変身ができなかった。
そして、家族を守るために一輝が変身して、目の前でリバイスドライバーの資格者となってしまう。
単に役割を掠め取られたのなら、そこにあるのは裏切りと憎悪だ。
けれど大二はメンタルの弱さから役割を果たせなかった。少なくともその自覚がある。
かと言って人間の心はそんな簡単に割り切れない。役割を取られたという逆恨み的な感情だってゼロにするのは難しい。
しかも弟として、一輝を組織に所属するよう説得しなければならない。
こうなると兄に対する信頼や尊敬は丸ごとコンプレックスになり得るのに、更にそれを積極的に刺激する立ち位置になってしまった。
これはもう心中穏やかなわけがない。
なお、家族という設定が固まるまでは、一輝・大二・さくらの三人はそれぞれ別組織に所属しているキャラクターだった。
当初のさくらは殺し屋だったそうな。丸くなったなぁ。
大二もキャストインタビューで仮面ライダーになると答えていたので、元々リバイスのコンビを除けば、三人ライダーとして登場する予定だったのかも。
となると、最終的にさくらも変身する可能性は残っているぞ。
とまぁライダーになるからこそ大二はほぼ必ず兄という壁とぶつかる。
信頼と劣等感を抱えたまま家族の関係は切れない。
不出来な弟としての自分への葛藤。それこそが仮面ライダーになるための通過儀礼だ。
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