このページにはプロモーションが含まれています 仮面ライダー 感想・考察

仮面ライダーセイバー 剣士達の輝く瞬間こそが真の物語【感想・考察】

2021年9月4日

ファンタジー創作とワンダーワールドの創り込み

仮面ライダーセイバーの最もわかりやすい特徴は、物語の舞台を地球とワンダーワールドの二つに置いたことだろう。
これまでもウィザードなどでファンタジー要素はあったが、本作は仮面ライダー初の完全な異世界ファンタジーである。
(劇場版などピンポイントな舞台設定を除く)

キングオブアーサーなど特殊なロボなど販促的な事情を除外すれば、SF的な設定による世界観の構築はほとんどなかった。
これは言葉にするより案外難しい。

SFとファンタジーの違いは、そこに科学的な説明があるか否かだ。
例えば馬に角が生えたユニコーンが登場するとして、SFだと『異なる生物同士の遺伝子を組合せた』みたいな設定ができる。
対するファンタジーは神秘の一言で片が付く。

これは一見便利に見えるが、言い換えると論理的な説明ができないとも言える。
魔法だって神秘だし、それを扱える聖なる剣も神秘だ。
敵対する魔物だって神秘。

あれも神秘! これも神秘! 神秘! 神秘! 神秘!

この神秘はもっと砕けた言い方すると『そういうもの』である。考えるな感じるんだ。

「全ての設定が『そういうもの』です」で言い切る世界観とは、同時に恐ろしくチープでぺらっぺらだ。
実のところ雑でもなんでもそれっぽく理屈を付けられるSFの方が世界観を組みやすい。

例えば一時代を築いたファンタジー作品『魔法少女リリカルなのは』はアイテムを使って変身する魔女っ娘ものだ。
しかし、敵と戦う力がどんどんエスカレートしていくにつれ、武器の形状も近代化していき、魔法は一種の計算式となっていく。

力の源流を魔法としているが、最終的に作り出された世界観はどう見てもSFだった。
しかもリリカルなのはは、シリーズを追うごとにSF面ばかりが強化され、円盤の売上もアニメ三期まで倍々ゲームに膨れ上がっていった。

どうしてそうなったかと考えると、純粋なファンタジーよりもSFの方がハッキリした理由付けができて、世界観に説得力を持たせやすいためだろうと私は思う。
全力全開でモビルスーツかなと疑いたくなる巨大ビームが放たれる。
その理屈が『なんかすっごい神秘のパワー』より、『戦闘中に使用する魔力を予め再回収しやすいように加工しておき、終盤にそれらを一気に回収して必殺の一撃を放つ』の方が説得力があり、観る方もロマンを感じやすい。
なお、このロマンをSFでは『センス・オブ・ワンダー』と呼ぶ。

ファンタジーで壮大な物語を生み出そうとすると、『なんかすっごい神秘のパワー』をそのままに、設定に説得力を持たせられるかが鍵となる。
本作で言えば、例えば『プリミティブドラゴン』が素晴らしい作り込みだったと思う。

『なんかすっごい神秘のパワー』を『禁書』の一言で置き換えて表現する。このセンスがファンタジーには大事だ。
そして暴走するのはライダーのお約束事みたいなものだが、その理由は『物語のドラゴンが孤独に苦しんでいるから』だった。
明らかに何の理由にもなってなくてまさに神秘なのだが、孤独は視聴者に共感性を与えて、一見なんかそれっぽい説得力が出てくる。

それに対して主役の神山飛羽真は、作家として物語の続きを生み出すことでドラゴンの心を救い、更なるパワーアップまで果たした。
これもやっぱりこれも科学的な説明には全くなってないのだけど、作品としてはキャラクターの設定も上手く扱った説得力に溢れた解決方法だ。考えずに感じられる!

演出面も観ていて気を配っているのがわかる。
プリミティブドラゴン時は必殺技以外にCGはあまり使われていない。
これまでの剣士らしい動きを一切排した荒々しさや、剣の刃部分を素手で掴んで振り回すといった、理性が吹き飛んだ戦いを主体にしていた。

私は初見の時、パワーアップ回なのに珍しく演出にCGが少なく、こんなところまで予算を抑えだしたのかと首を捻った。
動きの演技はすごく良いのだけど、ファンタジーっぽい派手さには明らかに欠けている。

その後、暴走を抑え込んだ再強化のエレメンタルドラゴンが登場。
こちらはエレメンタルで様々な魔法効果をふんだんに使う。CG演出大放出!
二段構えの強化を意図して、最初の暴走はあえてCGを最小限に抑える。その上でプリミティブのパワー+エレメンタルの魔法を合わせる。わかりやすく説得力もある強さの表現だった。

プリミティブ単体だとライドブックを掴み掌握するような状態だったのも、エレメンタルによって握手に変わる。
設定だけでなく画作りでもファンタジー的な魅力をこれでもかと表現していた。

聖剣やライドブックに対する設定や表現は、ファンタジー要素を強く意識した上で見事に作り込んでいたと個人的な評価はかなり高い。

ただ残念だったのは物語の舞台であるワンダーワールド側だった。
武器やライダー周りに比べて、こちらの設定はかなりスッカスカだ。

設定がないわけではない。むしろ世界の成り立ちや物語に直接かかわる面はかなり作り込まれている。
ワンダーワールドの消滅が地球の消滅に直結するまでの流れは、わかりやすくてラストに向けてどうにもならないの閉塞感を与えた。

しかしこれらは全て『ワンダーワールドとは何か』についてばかりで、肝心のワンダーワールドは具体的にどういう世界なのかがサッパリなのだ。
異世界ファンタジーなのに、異世界がただそこにあるだけで中身がない。なろう系の異世界ファンタジーだってもっと中身あるわ!

第一話では飛羽真達の前に、とても幻想的で美しい景色が広がった。
こんな世界があるのかという、まさしく未知の異世界に対する感動だ。

そこからワンダーワールドの中が掘り下げられていくのかと思ったら真逆で、序盤こそワンダーワールドの侵食で異世界の冒険パート的なシーンがあった。
だけど中盤に入り人間が直接メギド化し始めると、ワンダーワールドは部分的にちょっと見えるだけになっていく。
終盤は再びワンダーワールド内の事件も起こるが、その時にはほっとんど森ばっかり。後はたまに荒野っぽいの。要は国内で撮影できるそれっぽい風景である。

いやまあ正直この展開は読めていた。そんな予算があるわけないよとわかっていた。わかっていたけど、ないなりに異世界アピールしてくれるのではと期待もちょっとあった。
ジオウが『レジェンドから逃げない』と言って、本人が出演できなくてもそこにいるかのような扱いをしたように、工夫を凝らしてくれたら嬉しいな。みたいな感じで。

それが結局、ワンダーワールドの内部ではなく外側ばかりを掘っていく。
異世界の作り込みとは、『この地方にはこのような地帯が広がっていて、なのでこういう生態系が出来上がっている』という世界を丸ごとを創造することに等しい。
これは同時に物語の作り込みでもある。

私も趣味ではあるが、物語の創作している。
なので、この作業は作り込めば作り込む程に途方もない知識と練り込み、整合性が必須であり、そのくせ超地味な作業であると理解している。
だからこそ作り込まれた異世界とは凄まじい感動があり、それは練り込まれた独創性の高いSF世界にも決して引けを取らない。

飛羽真はワンダーワールドに選ばれた作家だ。
故にそういう真に大変で面倒くさい世界創りについて語ってくれないかなーとか思ったりもした。

異世界という魅力的で広大な舞台がそこに広がっているのに、結局やっていることは現代ファンタジーの域を出ない。
というか序盤にあった異世界の可能性が後半に入って萎んでしまった残念さがある。

「君が勝手に期待して勝手に裏切られただけでしょ」と言われれば、そらまあそれまでだ。素材を調理する方向性の話でしかない。
それでも仮面ライダーセイバーは、ファンタジーからは一切逃げなかったが、異世界ファンタジーからは逃げたという印象がどうしてもある。

逆に現代ファンタジーとしては、多彩な聖剣は最初から最後まで上手く機能し続けていた。
ノーザンベースの聖剣はそれぞれに個性豊か。
次に出てきた光の剣は、聖剣自体がライダーでありインパクトも十分。
同時期にウルトラマンで生首剣? ありゃもう純粋に運がなかった。

後半に入って出てきたサウザンベースのライダーは、煙化や『時間の流れを操る』といった一段上の強さで、映像としても見ていて面白い。
公式HPでは時間操作の詳細な解説もある。設定を外だししまくるのはどうかと思う面もあるが、聖剣の詳細な機能は本編内で語る事柄なでもないので、こういう裏設定は大歓迎だ。
そして読めば読む程、令和になってキングクリムゾンをこれ程わかりやすく言語化したことに対する感動が半端ない。

というわけで、小説版か漫画であたりで、蓮が修行で新しいワンダーワールドを冒険する話とか作りませんか?

スポンサーリンク


【次ページ:セイバーには多人数ライダーが噛み合わない

次のページへ >

人気記事

何故アメリカでゴジラが愛されるようになったのか【解説・考察】 1
2014年にハリウッドでギャレス版ゴジラが公開され、2021年には『ゴジラVSキングコング』が激闘を繰り広げました。 流石に注目度の高い人気作だけあって、様々な場所で様々なレビューが飛び交っています。 ...
【感想・考察】ゴジラ-1.0 王道を往くマイナスの本質とは 2
2016年、庵野秀明監督は懐かしくも革新的なゴジラを生み出した。 シン・ゴジラは純国産ゴジラとして、間違いなく新たなムーブメントを迎えた。 しかし、そこからゴジラの展開は途絶える。 新作はアニメ方面や ...
【仮面ライダーアギト 考察】伝説の続きが創った平成ライダーの基礎 3
ドゥドゥン! ドゥン! ドゥドゥン! アー! 令和の世で需要があるのかと思っていたクウガ考察でしたが、本編だけでなく小説版まで予想以上の反響をいただけました。 中にはブログを読み小説版を購入してくださ ...
仮面ライダーBLACK SUN 敗者達の希望と悪の連鎖【感想・考察】 4
第二章:差別や社会風刺を扱うリアリティ問題 時代錯誤の差別観 BLACKSUNに出てくる怪人差別に対抗する集団『護流五無』は、どう見ても学生運動のノリで運営されている。実際に1970年代前半は学生運動 ...
5
第二章:パターン化とプレバン商法、或いはドンブラザーズに至る進化 コンプライアンスによる縛りプレイ 第一章では『仮面ライダーの賛否両論が起きているのは基本的に同じ』と説明してきたが、現在と過去では異な ...

-仮面ライダー, 感想・考察
-,