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【小説 仮面ライダークウガ 感想・考察】13年の歳月を経たからこその名作

2020年5月27日

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五代雄介の見た青空

その苦悩を描き出す役割を負ったのが一条と実加だった。

一条は雄介が苦しみ傷付きながらも、それを笑顔で隠して戦い続ける姿を誰より近くで見ていた。
そして別れを告げず消えてから、13年間の月日が流れる。
帰ってこない時間が、そのまま雄介がどれだけ苦しんでいたかを推し量る結果となり、一条の罪悪感を掻き立てていく。

対グロンギの法案も、元々は警察がグロンギを殺害する免罪符になっていた。
人の形をして人のように思考する。怪物であれ、そこまで発達した人に近い存在を殺害するには大きなストレスがかかる。
それは一条も身を持って知っていた。

新たな窮地に、五代が再びクウガとなって戻ってきてくれたのではと期待する声もあった。
けれど一条はまた思い悩む。

本来、五代が帰ってくる時は、体内のアマダムが消滅した時であるべき。
今回の帰還は、雄介の笑顔がまた遠ざかるという現実でもある。

暴力を誰より嫌い、けれど暴力を振るう選択をした心優しいかつての青年は、その後自分が作った平和な世界から13年間距離を置き続けている。
一条はその苦痛と覚悟を慮り、帰ってきてほしいと口に出せない。

『中途半端はしない』とかつて五代雄介は一条に約束した。
そして本当にクウガとなって戦うことに対して、一切の中途半端をしなかった。その結果が赤い目の凄まじき戦士だ。

皆はそこで終わると思った。雄介は辛い役目から解放されると信じた。
けれど中途半端にしない約束を、雄介はクウガという存在自体にも適用したのだ。

クウガの力とは、本質的にグロンギと同じ。
未確認生命体が日本に必要ないなら、自分もまた消えねばならない。
それは自分の手でグロンギを消し去ったクウガとしての責任もあるだろう。

もし日本に帰ってこられる可能性があるとするなら、それは体内から完全にアマダムが消滅した時だけ。
会いたい人、話をしたい人はたくさんいるはず。雄介は自らの力を完全に封印するまで、その気持ちを抑え込んだ。
その深い痕を一条の視点から深く掘り下げている。

そしてクウガとなって戦うことの恐怖と痛み。
雄介が仮面の下に隠してきた感情を、かつてクウガに救われ、新たにクウガとなった実加が語る。

既に刑事として成長している実加は、けれど覚悟を決めきれず白のクウガのまま戦い続けた。
戦いに対する予想以上の重圧と恐怖に苦しむ。
より力を求めると、その先にあるのが心を失い生物兵器、凄まじき戦士への変貌である。覚悟を決めようにも決められない。

実加が弱いのではない。むしろ刑事としても優秀で努力家だ。そんな彼女でさえクウガの背負う重責には心が折れる。
自分もクウガになったからこそ、実加の口から紡がれる『人外になって戦う経験と苦悩』は生々しい。

彼女はクウガになることの真の恐怖と苦しみを知り、精神的な助けを一条に求めた。
けれど人間じゃなくなってしまい、憧れの人に抱いてもらうことにも抵抗感が生じてしまう。

一条の拒絶が、彼の経歴や生真面目さからくるすれ違いだと判断ができなくなる程に、化物の自分を自分で追い詰めていく。
想像しやすく近いものは、感覚的にまどかマギカの美樹さやかだろう。

これは当然全て五代雄介も味わったことだ。
それも四十を超えるグロンギ達と戦い続けて、人外と戦いの恐怖をたった一人で耐えていた。
ほとんど表にも出さず笑顔を絶やさず、凄まじき戦士になっても自分を保ち、自ら選んだ道をやりぬいた。

我々は13年の時間と実加越しに、雄介の抱えてきた苦しみの本質をようやく理解できたと言えよう。

雄介にとっての13年は孤独と癒しだった。
涸れ果てかけた聖なる泉を少しずつ満たしていく時間。それも終わりが近付き、真の意味で解放の時が近付いていた。

だが、それよりも先に日本で再びゲゲルが始まる。
雄介でさえまたクウガになること、そして13年という時間の積み重ねを壊すことには躊躇いがあったという。
その苦悩も一条と実加の存在によって共感のあるものだった。

雄介が久方ぶりに変身したのは、戦いの果て手にした凄まじき戦士でも、常時発動が可能になったライジングでもなく、ただの赤の戦士だった。
アマダムの消滅は近付いていたのは事実で、13年かけてようやく手放しかけたクウガの重さを再び背負い込む。

聖人だった五代雄介。
その苦悩を知り、その優しさをわかった上で、帰ってこいと一条は言った。

皆が帰りを待っている。
一人で抱えて苦しむな。

望まぬ形で戻ってきた戦士を、それでも引き留める。
心からの言葉は雄介のためではなく自分のため。
雄介に帰ってきてほしい自分のため。

雄介は孤独を耐えていた。
一条は心を出さず待ち続けた。
実加は隠して背負い続けた。

けれど、正しさと自分の気持ちは別だと、一条の先輩刑事でもある杉田は語った。

五代雄介ではなく、自己犠牲を否定した。
一条は雄介のため、雄介は皆のため、誰かのために苦悩を隠す気持ちは尊いものだろう。

けど、押し殺した自分の気持ちを吐き出したことで、初めて気付くこともある。
クウガの居場所は日本になくても、雄介の居場所はちゃんとあるのだと。
二つは別てなくても、天秤は最初から大きく傾いている。

新たなグロンギを相手に、けれど雄介はその手を汚さなかった。一条達が汚させなかった。
もう雄介には一人で背負わせない。胸の痛みも共有できる。

最初から、一条達が雄介に望んでいたのは癒すための旅ではない。楽しむための冒険だった。
だから行くも帰るも自由。

一条は自分の願いを雄介に伝えた。
誰かを求めるワガママは、誰かを想う優しさなのだ。

それに対して雄介は、古代ローマで、満足できる、納得できる行動をしたものにだけ与えられる仕草で返した。
見上げるだけで心安らぎ笑顔になる――彼の青空は旅した異国の果てではなく、ここにあった。

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