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天才が壊す作品の魅力
ゴジラS.Pは典型的な怪獣作品であると同時に、怪獣の生態とアーキタイプから世界の謎を解明するSFミステリでもある。
そしてジェットジャガーを使った怪獣プロレスを入れて視聴者を飽きさせないようにしながらも、ミステリ側に大きくウェイトを置いているのが本作の特徴であり魅力だ。
ミステリである以上は謎を追う者が必要となる。
その中核を担うのが何でも屋で甘党の坂田銀時有川ユンと、大学院生にミリも見えない童顔系残念美人な神野銘。そしてペロ2だ。
(正確に言えばペロ2は主人公ではないものの、ユングと共に非常に重要な役割を担っているのではないかと私は考えているが、こちらはまた後で語る)
銘がいないと結構むさ苦しい作品になるので、アニメ感バリバリの美少女が必要なのは間違いなく、野暮ったい雰囲気は作品の外連味ともマッチしている。
しかしながら、純粋な特撮好きで萌えアニメに抵抗のある人は良い感じに突き放されている気もするので、この辺は塩梅が難しそうだなと思う。ただまあ、これが明確な欠点と言うわけではない。
怪獣の謎と戦いをユンが受け持ち、銘はアーキタイプの謎を解明していく。
最初の電話でコンタクトを取って以降、二人は互いを知らないままチャットを交わし続ける。
微妙なニアミスを続ける展開は古くからあるが、それをネットのSNS時代に上手くコンバートした形式だ。しかしこのシーンはもっと面白い見方も色々できると思う。
このやり取りはそれぞれ別の場所で別の物を追う繋がりを作り、情報を共有化することで話が展開する二人のシンギュラポイントでもある。
二人のチャット会話は会話とほぼ同じ速度で、スタンプでの反応も込みで尋常じゃなく早い。
だからこそ対話シーンとして成り立つのだが、二人にはこの速度のやり取りが日常レベルで当たり前の行為に見える。
(これが表現上必要な演出ではなく本気で高速なのは8話の映像でも証明された)
二人は専門分野こそ異なるものの凄まじい同格の天才であり、それをわかりやすく示すシーンでもあるのだ。
物語の登場人物はかなり多く設定も複雑だが、この二人を主軸に置き、わかりやすい喩えも含めてくれているおかげで専門知識がなくても楽しめる作品になっている。
だが、これはこれで作品のリアリティを上条当麻のように「その幻想をぶち殺す!」しちゃうのだ。
なろう系小説作品の話をしよう。
かつて小説家になろうでは、『SNSではツイッター一択で、インスタグラムなんて文字を見ただけでキラキラした光を浴びて塩になってしまうような陰キャ少年が、トラックと称される奇跡の神造装置を通じて、中世ヨーロッパに極めて近く限りなく遠い世界にて二度目の生を受ける。あるいは転移して人生を謳歌する』という異世界転生ジャンルが大流行していた。
なお、それ今もなお流行っているクソジャンルと罵詈雑言でツッコミ入れた人は、まずは自分が流行から周回を二週半くらい遅れていると事実を受け入れることから始めよう。
今アニメ化されている無職転生は初期も初期モデルのなろう系だ。
彼らの中でも現代知識やアイテムを活用して、異世界を成り上がりしていくことを現代知識チートなどと呼ぶ。
残念なことにそれらの知識は多くが有名な大百科サイトの内容丸写しだったり、『〇〇とは』とググって出てきた一ページ目の情報を穴だらけのザルで掬い上げたものが多い。
そんな付け焼刃の知識で異世界の生活を乗り切れるわけがないし、知識と実践は別の話。ド素人が野球の参考書読んでも己の技術力には何の影響も与えない。
それでもなろう系の主人公は大活躍しているのが物語としての現実である。
主人公のスペックをそのままに無敵のヒーローとして大活躍させたいなら、相対的に周りを下げるしかない。
ゴジラS.Pでは微妙にオタクっぽくて陰と陽なら間違いなく日陰に生きてそうな若者達が、とんでもないチートスペックの知能で活躍している。
何故ユンはナラタケなんてとんでもスペックの自動学習AIを開発できたのだろう?
あれは明らかに世間一般に流通していないオーバースペックの代物だ。していたら世界はもっと大変革している。
ゴジラS.P世界でも一般的に巨大ロボットは色んな町工場で気軽に制作されているものではなければ、軍の怪獣退治でイェーガーも出撃しない。
ジェットジャガーは『ゴジラVSメガロ』同様にずば抜けた天才が生み出したロボットである。
そんな者が町工場で何でも屋に近い仕事の傍らに、ヤバイAIを無料配布しているわけだ。
突出した天才がいるのはいいが、何故突出しているのかの理由がない。
社長の大滝吾郎は非常に良いキャラしていてジェットジャガーでの戦いもすこぶる面白いのだが、ラドンでもアンギラスでも窮地になるとユンが活躍して見せ場を持っていく。
主役を際立たせるための嚙ませ犬的なポジションになってしまっているのが非常に残念だ。
逆に他のキャラをユンに付いていける領域に引き上げると、話の流れで出てきて無茶振りに応え唐突に大活躍した弓道女子になる。要するにめっちゃ浮く。
もう一人の主役も全く同様かそれ以上にトンデモ設定だった。
世界クラスの才人達が何年もかけて手探りに進めてきた謎だらけの研究を、毎回一定以上の成果を出して解明していく一般女子大生。彼女の発想と知力は何処から沸いてきているのか。
『ビオロギア・ファンタスティカ』という本来存在しない生物を研究する学問を専攻している設定はあるが、中身は本編でもかなり抽象的にしか説明されていない。
(そもそも学んでるだけでどうにかなるなら銘である必要はなく、事態は何年もかけずに進展している)
しかもなまじ謎の解明と解説がわかりやすいため、周囲の人物は皆『こんなことも理解できない馬鹿』として映ってしまう。
実はこの辺、シンゴジでは驚くことに馬鹿や無能は基本的にいない。
政治家は良くも悪くも政治家として活躍する。
日本の政治に対して『ぶっちゃけ総理って誰がやっても国は回りそうじゃね?』みたいな漠然としたイメージを持つ人は少なからずいると思うのだが、映画内では『総理死亡からソッコで交代して業務続行』の流れを本当に実行した。
外国に対する押しの弱さも露呈しながら、同時に粘着質な粘り強さの面も見せている。
自衛隊や科学者達もまた同様に、理不尽の塊に対して彼らなりの仕事を遂行していた。
皆が皆、未曽有の危機を前にして失敗したり成功したりの果てにゴジラの封印に成功する。
これはあくまでシンゴジの『現実VS虚構』を形成する要素であり、ゴジラS.Pにこのレベルの綿密なリアリティは必須ではないだろう。
なら別に主役二人が非現実的な天才でもいいじゃないかとはあまり思えない。
なろう系も実のところ、あのリアリティの無さはストレスなくファンタジーを楽しみたい読者層が主体なので、好きな人からすれば『だがそこがいい』と思って読んでいる。
スーパー戦隊の作品に対して「仮面ライダーより子供騙しでつまらない」と批判しても、そりゃお前を対象とした番組じゃねーからだよって話だ。
しかしゴジラS.Pはアニメの外連味を取り入れながら、怪獣とSFミステリのリアリティはかなり丁寧に作り込まれていて、それを面白さの源泉にしている。
その主軸に理由なく突出した天才で話を強引にグルングルン回すと、周囲にその影響が大きく生じてしまい本来持っていて欲しいリアリティを損なってしまうのだ。
ただ、途中でリアリティレベルを下げておいたからこそ、最後の「考えるな! 感じるんだ!」と言わんばかりの大逆転展開を実行可能にしたとも言える。非常に際どいバランスの上に成り立つ作品だった。
【次ページ:シンギュラポイントの意味と本質】
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