ゼミ生の皆様こんにちは、語屋アヤ(@ridertwsibu)です。
スーパーヒーロー戦隊をモチーフにした漫画作品『桃の園』がスタートしました。
しかしこれがSNSを中心に得策ファンから不評を買っています。
今回は本作のレビューとその問題点、炎上理由の考察・解説をしていきます。
レッド尊ピンク卑の世界
まず、桃の園がどのような作品か、その世界観や描こうとしているテーマ性などを、第一話のストーリーを元に解説します。
桃の園の世界観
この世界の戦隊だと女性はピンクにしかなれず、そしてピンクの役回りは戦闘のサポートだけです。
けれど女性たちはそれを『伝統』として受け入れています。
『女性でもヒーローになれる』が希望であり、そのための枠がピンクで、その事実に対して純粋に感謝している状態です。
そしてピンクを養成する学園も存在しており、それが舞台の中心。
ピンクになるための女子が集う場なので『桃の園』というわけですね。
主人公はかつて怪人に襲われたところをレッドに助けられ、強い憧れを抱きました。
そのためピンク枠になろうとしながら、同時に『レッドを超えるピンクになる』という夢を持っています。
しかし周囲からはまるで理解を得られず、男尊女卑的な思想が染みついています。
このように世界観は露悪的な戦隊モノ(あえてスーパー戦隊とは言わない)です。
無意識下の差別の壁にぶつかる未熟な主人公
あくまでもレッドを越えるピンクになるために、独学で鍛錬を積んできた主人公の花岡さくら。
しかしピンクの役回りは仲間のサポートであり、授業のカリキュラムもそれに沿ったものとなります。
とくに戦闘訓練では、相手を弱らせることまでで、トドメは本来レッドの役回り。
実際にレッドのように倒してしまうとまったく評価されません。
さくらにとっては完全に矛盾した環境とすら言えます。
そんな環境への憤りからか、自己満足で動いて本来ならトドメ役のレッドでも、そこまではしないレベルの行動に出てしまいました。
想いの強さと環境のギャップ、そこに本人の未熟さが相まって、ヒーローではなく自己満足のために動いてしまったわけです。
そして伝統的なピンクとしてのメンバー入りを目指すか、退学かを問われ、さくらは悔しさを滲ませつつもピンクになると誓いました。
『常識を覆して自分がなりたい真のヒーローを目指す物語』の出だしとしては、上手くまとまった王道の展開と言えるものでした。
戦隊モノに対するパブリックイメージのズレと間違い
本作は第一話からして、スーパー戦隊好きからはか少なくない不評を浴びています。
なんだったらスーパー戦隊を一部分しか見たことがない人からも大方同様の評価を受けているといっていいでしょう。
何故のこの評価を受けているのか、ここではその本質を解説します。
スーパー戦隊への敬意を感じない露悪系作品が起こす問題
戦隊モノのパブリックイメージを抽出して、あえて露悪的に描くという手法は昔からあります。
最近で言えば、アニメ化まで果たした戦隊大失格がその典型です。
そして戦隊大失格も特撮ファンからは、『戦隊モノのパブリックイメージだけを題材に使った別物』扱いの評価を少なからず受けています。
この二つの共通点は、戦隊モノのパブリックイメージを舞台にしつつ、あえてヒーロー作品らしくない設定で露悪的に扱っていることです。
とりわけ『女性がピンクにしかなれない』は『イエローはカレー好き』レベルで古臭いイメージであり、ファンによっては馬鹿にされているようにすら感じてしまいます。
また、スーパー戦隊ファンも個々に一定のパブリックイメージは持っています。
だから過去作のキングオージャーやドンブラザーズには、パブリックイメージから外れた斬新な作品性を感じて、最新作のブンブンジャーに実家のような安心感を得たファンが多いのです。
スーパー戦隊ファンのパブリックイメージは歴史の積み重ねと、その中での変化や傾向も含まれており、詳しくない一般層のそれとは異なります。
この食い違いが特撮ファンにとってはストレスになってしまいます。
「どうせ戦隊モノなんて〇〇でしょ」と好きなものを雑に扱われている気分になり、反論したくなる人が多数現れたり、その程度の解像度でパロディを描いてほしくない気持ちが湧き上がったりするのです。
これは特撮ファンに限らず、大切なものを雑に間違った知識で扱われれば当然のように起こる現象でしょう。
東映特撮は女性ヒーローを大切に扱っている
わたしも桃の園はあまり好意的な感想は持てませんでした。
ただそれは、単純に古いパブリックイメージで逆張りしているからだけではありません。
わたしが嫌だなと思ったのは逆張りの方向性です。
ゴレンジャーの中に当初ピンク枠ができたのは、女の子もヒーローになりたいという意図を叶えるためで、ヒーロー=男の子のものという流れを破壊しました。
本作はむしろ逆に戦隊の中にピンク枠が用意されているのは光栄なことで、力で劣るピンクはサポートに徹するのが当然。男尊女卑が伝統化している世界観で描いています。
実際のスーパー戦隊は時代が進むにつれ、女性用のカラーはほとんど制限らしい制限がなくなっていき、変則的ですが女性がレッドに変身した事例もあります。今や歴代女性メンバーだけで戦隊が組めるぐらいのカラーバリエーションが存在しています。
最近だと、一話目の主人公に近い立ち位置は、実質女性メンバーが担うパターンもちょくちょく入ってくるようになりました。
これは制作サイドにとっても挑戦だったとも語られており、商売である以上は番組の人気を保持しつつジェンダーロールを克服するのは、決して容易なことではないのです。
これから見てもわかるようスーパー戦隊シリーズは、女性だからという差別的な扱いにならないよう、ジェンダー観をアップデートされてきました。
また、ピンク枠はサポートでレッドがトドメ役といったイメージ自体が、本作特有のものでしかありません。
一般的に『皆で倒す』の方がスーパー戦隊では主体です。
レッドが主役として目立つのは事実としても、番組的に女性だからサポートとして控えろといったことはあり得ません。
パブリックイメージにこれらの露悪的な虚構を上乗せすると、両者の境界が曖昧化します。
その結果、スーパー戦隊に詳しくない読者の一定数が『男尊女卑がパブリックイメージの一部』と捉えてしまう可能性があるのです。
元ネタに対する逆張りパロディは、作品の切り口としては有効でしょう。
しかし、パロディ元に悪いイメージを植え付けかねないやり方は、元ネタへの敬意がないどころか風評被害を与える行為だと思います。作者にその意図がなくともヘイト創作になり得るのです。
だからこの作品を描くべきではないと言いたいわけではありません。
もっと設定や世界観作りを煮詰めることで、パブリックイメージと描きたい設定は、混同しない形で切り分けられたのではないでしょうか。
そういった努力や気遣いこそが元ネタへのリスペクトであり、それをないがしろにした作品作りが個人的に低評価となった理由です。
逆張りや露悪的でも特撮ファンから高い評価を得られた作品
リスペクトを重視したことで、設定的に露悪的な扱いになっても、特撮ファンからの人気もキチンと得た作品はあります。
その一つが『天体戦士サンレッド』です。
ガラの悪くてヤンキー気質なサンレッドに、人が良くて親切な悪の組織フロシャイム。
サンレッドは単体のヒーローだけど、アカレンジャーを意識しているのがわかるデザインです。
そして、元々はちゃんと戦隊らしいチームを組んでいたという設定もあります。
基本的なヒーロー像は拾い上げつつ、あえてその真逆に位置するキャラ設定を入れていく逆張り作品です。
同時に露悪さに対するカウンターをしっかり入れており、それが世界観や人間味に反映されています。
例えばサンレッドは彼女のヒモで、家でゴロゴロしてうrのに、ろくに家事もしません。
これは『いつ現れるか不明な怪人達を相手に、無償のヒーロー活動をしていたら、まともな定職には就けない』のメタネタを利用しています。
仕事問題を設定上どう回避するのかは、戦隊モノ以外でも特撮だとよくあるネタであり、特撮ファンからしても否定的な要素ではないのです。
なにせサンレッドの後には、実際にヒモをネタにしている仮面ライダーも登場したからネ!
そしてサンレッドでは『ヒーローが忙しくない世の中だから平和なのだ』という理想も同時に説いています。
露悪さの中に、しっかりとヒーローの良い面も人情物語的に入れ込んでいるので、特撮ファンは『この作者はわかってる』と安心して読めるわけです。
サンレッドは全体的な、ギャグのノリと柔らかで可愛らしいタッチの絵。そしてダメ人間でも根っこはヒーローらしい性格をしているなど、人情味のあるキャラ作りで露悪さを上手く中和できているため、批判が起こりにくいのです。
作者がスーパー戦隊に詳しくないまま雑に扱っている可能性
こうしたスーパー戦隊の逆張り系は、スーパー戦隊が特別好きなわけじゃなく、舞台装置としてパブリックイメージの『戦隊モノ』を使っただけとも考えられます。
そのため特撮ファンはそもそも読者として対象外であり、同じく雑なイメージを持った人が狙いの層というパターンです。
桃の園も最初はそんな感じで捉えられていたのですが、作品が配信開始された翌日に作者の方、がX(旧Twitter)でそれを否定するようなポストを行いました。
『桃の園』想像以上の反響ありがとうございます…!!
全員女子の戦隊ものも知っている私がこの時代にこの作品を描いている理由、早くお伝えしたくてドキドキしております。とりあえず私がプロットから作っていますので、戦隊ファンの皆様、私以外の方を批判する行為はお控えくださいね。
— ころころ大五郎 (@korokorokoroko) August 6, 2024
しかし、これによって本件は収まるどころか余計に激しく炎上する結果となりました。
何故ならスーパー戦隊に『全員女子の戦隊もの』は存在しないためです。
特撮ヒーロー(ヒロイン)作品に詳しいファンたちでさえ『何のこと言っているんだ?』と作品を絞れず困惑する始末です。
一応女子―ズなど探せばあると言えばありますが、これらはスーパー戦隊のパロディ作品か、形式が近いだけの別物です。
これらを広義の意味で『戦隊モノ』として捉えている可能性があります。
元々の不評理由からして、スーパー戦隊への解像度の低さによる、パブリックイメージの食い違いや、リスペクトの無さに対する批判です。
そこからさらに存在しない作品を示したために、よりスーパー戦隊を『戦隊モノ』という雑な括りでしか扱っていないと思われる流れになりました。
まとめ
桃の園が特撮ファンから不評の理由は以下になります。
- スーパーヒーローのパブリックイメージをフォローも無しで露悪的に扱っている。
- 作品内だけの露悪的な戦隊設定とパブリックイメージが混ざり合い、スーパー戦隊への風評被害になりかねない。
- 上記二つの問題がありながら、作者がスーパー戦隊で正確性に欠ける知識を披露して、悪い方向に説得力が生まれてしまった。