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FMO1章 第6節『天へと届く始まりを』≫2

2024年4月20日

[作品トップ&目次]


 立香の旅は再開された。
 目的は前回と変わらず、不可思議な事象だらけなロシア領の解明だ。

 新人類として生きるヤガ。
 五百年の時を生きるイヴァン雷帝。
 世界を包む大嵐。
 そして謎の大樹。

 調査すべきことは幾つもある。
 幸いにも、カルデアは水澤悠の率いる叛逆軍の共闘を取り付けた。
 彼らに協力して、皇帝ツァーリに近付くチャンスを得る。

 これらの方向性に大きな変更はない。
 前回との違いは、マシュの姿がボーダーからの通信映像であることだ。

「しっかし、やっぱり今日も容赦のない吹雪だね」

 時間は正午を回ったところだったが、吹雪のせいで暗く昼か夜かの見分けもまともに付かない。
 迷わないようにマシュが地図と叛逆軍のアジトを示すポイントを表示してくれた。
 それを確認していると、士が手と声で静止を促す。

「待て、何か音がする」

『この音は……』

 耳を澄ますとそれは立香の耳にも届いた。
 映像の音声越しにでも伝わったのだろう。マシュも感づいたようだ。

 何か重たいものが雪を均しながら這いずる音。それも地から響くような重々しさ。

「相当な大物みたいだな」

 音が近付くにつれ、吹雪の中から巨大な影が現れた。
 長大な蛇の体から、いくつもの頭部が生え伸びている。
 これまでもあのタイプの魔獣とは幾度か戦っているが、いずれもサイズ通りに強靭な膂力を有していた。

『もしかすると、あれがパツシィさんの言っていた』

「ジャヴォル・トローン?」

 この世界について、パツシィから聞いた情報の一つだ。
 村を一つ潰すという話の大型魔獣であり、あの巨体に相応の狂暴性があれば十分に現実味がある。
 幸いなことに、そのサイズ差故にまだ立香と士は捕捉されていないようだ。

『戦闘するか迂回してやり過ごすのか、選択はマスターにお任……』

「丁度いい。行くぞ」

 マシュの言葉を遮り、士はシニカルな笑みを浮かべて大蛇へ向かって歩きだした。

『待ってください、士さん!』

「いや、いいんだ。このまま放置すると近くの村が襲われるかもしれない。戦闘するよ。マシュは分析をお願いするね」

『マスターがいいのなら……。はい、データ収集に全力を尽くします』

 立香は士のすぐ後ろに続く。
 昔に比べれば魔獣と遭遇しても冷静でいられるようになったと思う。
 しかしここまで大型だと話は別だ。油断すると足が震えだしそうになる。

「俺を止めるか迷わないのか? 今なら気付かれずやり過ごせるかもしれないぞ?」

「迷いましたよ」

 今戦えるのは士一人だけ。
 超大型の魔獣と戦えば、勝てたとしても消耗はするだろう。本来の任務遂行に支障をきたすかもしれない。
 自分達の歴史が漂白されてしまったのに、襲われるとは限らない近隣の村を守るのは、本当に正しい決断なのか。

「その割には止めようとしなかったな」

「止めません。士さんを信じてるから」

「ほう……」

 士の方は迷わず行った。
 ならば自分はそれに付き合う。仲間サーヴァントの判断を信じると決めた。

「後で苦労するかもしれないし、戦ったことを後悔しない保証もない。けど、それは後で考える」

 今までだってそうだった。絶対の答えなんてない。

「士さんが本当にやりたいことなら手伝います。その代わり、格好悪いですけど後で困ったことがあったら助けてください」

 気が付けば、後を追っていた体は士の隣に立っていた。
 ごく自然に。いつもしてきたことを言葉にする。

「それが一緒に戦うってことだと思うから」

 もういつ気付かれても不思議ではない距離だ。
 ここまで近付けば、爬虫類特有の粘膜でぬらつく鱗に覆われた黒と青の体躯や、禍々しく尖った幾つもの牙まで見える。

 恐い。
 けどやはり迷いはない。

「そうか。ならやるぞ」

「うん、戦いを――」

「契約ってヤツをだ」

 不意を打たれた士の申し出に、少し驚いた表情で立香は彼の顔を見つめた。

『契約を? それはつまり……』

「カルデアのこと信じてくれるんですか?」

「いいや。肥えてるオッサンは気に食わないし、探偵は胡散臭い」

 モニターから不服そうな新所長とホームズ、そして二人をなだめるダ・ヴィンチの声が聞こえてくるが、今はあえて気にしない。

「だが、お前のお人好しとお前を信じる後輩は信じられる」

 そのためにずっと見てたんだからな。と、士は小さく付け加えた。

「それに、マシュと約束したからな」

 立香を守り、いつかマシュの写真を撮る。

『士さん……』

 ジャヴォル・トローンの頭が揺らめき、その一つが立香達を捉えた。

「ほら、もう時間がないぞ」

 士はいつものようにベルトを装着すると、そこにカードを装填。

「変身!」

『Kamen Ride――Decade!!』

 仮面ライダーディケイドへと姿形を変えた。
 戦いが、始まる。
 立香は手の甲を外側に向けて、契約の詠唱を唱えだす。

「告げる――」

 ●

 立香が何か呪文みたいな言葉を唱えだした。契約の詠唱というものだろう。

「汝の身は我が下に」

 だが、まだ時間がかかりそうだ。その間にやられてしまったら元も子もない。
 ライドブッカーの銃で巨獣を撃つ。

「我が命運は汝の剣に」

 これで倒せる相手じゃないのはわかっている。
 立香から離れて、こちらへ気を引くためだ。

 ――くそ、少し体が重い。

 こちらの世界に来てから、カードを使う度に少しずつ体から力が抜けていくようだった。

 水澤悠はカウンターとして世界に喚ばれた存在だが士は違う。
 そのせいで外部からの魔力供給ができない。
 細かい構造を理解しているわけではないが、士もその理由は感覚的に把握していた。

「聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば」

 巨獣の頭部と牙がいくつも迫ってくる。
 一発目を避けても次から次へと。
 これ以上は防ぎきれない。

「我に従え! ならばこの命運。汝がカードに預けようッ!」

 立香が叫んだ。
 その瞬間、体からダルさが消えた。

「せや!」

 いや、むしろ力が漲ってくる。
 至近距離でデカブツの目に向かって銃を連射。
 嫌がっている間に距離を取り直す。

「いいぜ、その誓いってやつを受けてやる!」

『Attack Ride――Illusion!!』

 ディケイドの周りに、分身が何人も出現した。
 カードを使っても力が抜ける感覚がなく、肉体に負担がかからない。

 再び襲いかかってくる巨獣の顔を、ディケイドが次々と斬りつける。
 巨獣が攻めれば攻める程、一方的に裂傷が増えていく。

 獲物を喰らうはずが、小さき餌に翻弄されている。
 魔獣の怒りに火がついたのか。ジャヴォル・トローンが一際大きい頭部を持ち上げると、大きくしなりをかけて振り落としてきた。

 ディケイド達は散開するが、逃げ遅れた数名が砕け散る。
 しかし、それらはイリュージョンのカードが作り出した虚像。
 本物のディケイドは、叩きつけられた頭部に飛び乗ってイリュージョンの効果を解除した。

 巨獣は体を持ち上げて頭部を跳ね上げる。
 慣性の力に逆らわず、ディケイドは自らも跳び上がった。

 巨獣よりも更に高く。
 視界の端に小さくなった立香が映る。

 最初の一枚目に立香を撮ったのは、鳴滝が信じた者を監視する、その始まりをここだと決めたから。

 二度目はカルデアという場所が自分の居場所なのかを知るため。
 結果はやはり違った。
 それでいい。自分の世界じゃないから、そこにはやるべきことがある。

 いつもそうだ。
 新たな旅は突然始まる。

 世界はただ通り過ぎるだけを許さない。
 戦うことを求めてくる。
 自分が何をするべきかは、そこから見つけていく。

 救い続けた。
 戦い続けた。
 その途中で己の旅は死が終着だと定めて、その通りの終わりを迎えたのだ。

 あの時の安堵感を、己はまだ覚えている。
 それ程までに自分は擦り切れていたのだとようやく気付けた。

 やっと安心して休める――けど、終わりの先があった。

 そこに藤丸立香がいた。
 自分と同じ、世界のために戦う運命を背負う旅人。

 ただ、それだけじゃない。
 バカみたいなお人好し。
 自分じゃない誰かのために戦って、悪くない笑顔をする男。

 ふとした拍子に、ずっと共に旅をしてきたを思い出させる。
 マシュは姿や性格が大分違うが、あの少女を連想させた。

 ――こいつらがこの旅で何を見つけて、何処に辿り着くか。

 それを見届けてやってもいいと思う。契約する理由はそれで十分だった。

 宙を舞う一瞬でそれだけのことを考えたわけじゃない。
 けれど刹那の時間、士の心によぎった心の流れと感情を言葉にすればそうなる。

 ディケイドは新たに引いたカードをバックルに装填する。

『Final Attack Ride――De! De! De! Decade!!』

「はあっ!」

 次々と巨大な輝くカードが並ぶ。それらには全てディケイドを示すクレストが描かれている。
 蹴りの姿勢を取ると、吸い込まれるようにそのカード達を通り抜けていく。
 一枚通り過ぎるごとに、光が魔力となりディケイドの体を纏って強化する。

 ディメンションキック。
 幾多の怪人を倒してきたそれは、分類するなら対人宝具。
 しかし、ディケイドとは存在そのものが対界宝具の素質をその身に宿す存在。
 ならばその破壊は巨大な魔獣にも及ぶ。

 強大な魔力の塊となったディケイドは、ジャヴォル・トローンの体に蹴りを打ち込んだ。

 ●

 巻き起こる爆発に、砕けた魔獣の身体が降り注ぐ。
 胴体部分は逆巻くような炎に包まれていた。

 腕で身を庇いながら、立香はその様子を眺めている。

『すごい……! 爆散と共に、敵性反応の消失を確認しました』

「あれがライダーキック……」

 仮面ライダー達の多くが使用する必殺技だと、都市伝説で聞いたことがある。
 巨大な魔獣すら一撃で倒すその威力は、まさに必殺と呼ぶに相応しい。

『敵性情報も分析できました。体内にアルコールを生成するようです』

「だからあんなに燃えているのかな」

 真偽のほどは定かではないが、ディケイドの力は間違いなく本物だった。

『それと士さん……仮面ライダーディケイドの分析も現在進めています』

『数値と戦闘力だけ見ても、クラスはライダーだけど戦闘力は三騎士級。セイバーにも引けを取らないね!』

 ダ・ヴィンチの言葉に立香はただ頷いた。
 じっと見つめる視界の先、炎の中からディケイドが現れる。

「お疲れさま、士さん」

 変身を解いた士はふっと笑みを見せ、煙の上がる背後を振り返って、一言だけ告げた。

「これが反撃の狼煙ってやつだ」


今度こそ、第一章第一部完!
第一部は士と立香が中心でしたが、第二部からは新たなライダー達も参戦してもっと賑やかになります。

 


 

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