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FMO1章 第7節『Armour Zone』≫1

2024年4月20日

[作品トップ&目次]


 パツシィは立香達がシャドウ・ボーダーに戻る時に一旦別れて、先に叛逆軍のアジトへと一人で帰ってきた。

 故郷を捨てた彼は、今や叛逆軍の一員である。
 戻ったその日から、新入りとして日々の仕事を覚えるためにあくせく働いていた。

 けれど、荷物を持って部屋を行き来する作業に、早くも嫌気がさしているところだ。

 荷物運びが苦痛なのではなく、原因はその途中にすれ違う者達だ。
 無邪気に遊ぶ子供達。
 幼い子どもをあやす母親。
 穏やかに農園を耕す老人。

 ――こんなもんかよ。

 それが叛逆軍に対して彼が抱いた素直な感想だった。
 砦に住み込んでいる数はそれなりにいる。

 だが中には子供や老人も多く含まれていて、戦える者は半分いればいい方だろう。
 これではまるで、

「難民……だな」

 ここへ来る前にはあった皇帝ツァーリに逆らう命知らずの叛逆軍レジスタンスという想像は、いとも容易く打ち砕かれた。
 胸の中に黒くて粘着質なドロドロとしたようなものが溜まっていく。
 これじゃあ、俺は何のために……。

「これは、地図か?」

 ふと机の上に置かれていた紙が目に付いた。
 アジトを示したものかと思ったが、場所が現在地と大きく異なる。
 よくよく見るとアジトを移動させるつもりで、準備を進めているようだ。

「俺には関係ねえな」

 本格的な移動が決まればそのうち正式な通達があるだろう。
 その時に考えればいいことだ。

「ご苦労様」

 荷物運びを再開した背中に向けて、誰かから声をかけられた。振り向くとそこにいたのは水澤悠だ。
 全体的に線の細い優男。そう見える姿が仮初めであることは、ディケイドとの戦いで理解している。
 この男の本性は、魔獣よりも獰猛な獣だともカルデアの連中から聞いた。

「ただの雑用だよ」

「見ての通りここは人員不足だから。とても助かっているよ」

 叛逆軍だというのに、雑務をこなす者すら不足している。それでも組織の規模だけは増加傾向らしい。

「俺に何か用か?」

「カルデアの人達が戻ってきた」

「そうか……」

 立香達が戻ったと聞いて、自分の頬が緩んだのを、パツシィは自覚していた。
 叛逆軍がこんな難民の引取先になっていたとしても、立香達は別だ。

「今からカルデアの人達と次の任務について打ち合わせをするので、君にも同席してほしい」

「わかった。すぐ行く」

 荷物を置くと、背を向けて歩きだした悠の後を追う。先程までの黒い憤りはもう収まっていた。

 ●

 普段悠達は大型のテーブルがある広間を会議室として用いており、戻ってきたカルデアのメンバーもそこへ入ってきた。
 パツシィが機嫌良さそうに彼らを出迎えている。

 先程悠が声をかけた時の彼は、どこか険しい表情だった。
 叛逆軍に加わる多くのヤガは、老人か家族連れの避難者が多いものの、稀に血気盛んな若者が単独か仲間と共に入団を志望する。
 悠達にとっては戦力増強としてありがたい話だが、そういう者は叛逆軍の実情を見て落胆してやる気を失うケースがほとんどだ。

 パツシィもその手合いと同じ雰囲気を感じたので、悠は彼をここへ連れてきた。
 もちろんこれはパツシィのご機嫌取りだけが目的ではない。

「任務ご苦労さまでした。報告はパツシィから聞いています。おかげで他も含めた辺境の村は大部分が味方についてくれました」

 まずはカルデアの面々に労いの言葉をかけた。
 関係上、カルデアは叛逆軍の一部であるが、実質は別組織との同盟だ。
 そのため、個別に叛逆軍入りしたパツシィとは違って、丁寧な言葉遣いで応じている。

「マシュさんは前線からは離脱されたのですね」

『はい、申し訳ありません』

「そちらにはそちらの事情があるのでしょう。深く問うつもりはありません」

「で、俺達をここへ通した理由はなんだ? おつかれさま会ってわけじゃないだろう」

 門矢士のぶっきらぼうな物言いに促されて悠は頷き、早々に本題を切り出すことにした。

「味方は増えましたが、残念ながら戦える者は未だ多くありません」

 仲間になったと言っても所詮は村人。それも辺境のため若者の数も少ない。

「ま、そうだろうな」

「皆さんが檄文を配布してくださっている間に、ある勢力から連絡がありました」

 叛逆軍はアジトの位置を殺戮猟兵に悟られないよう、同時にいざというときのリスク分散として、離れた位置に倉庫や中継の連絡地点を確保している、
 彼らからの連絡はその中継地点を通してのものだった。

「ある勢力、とは?」

「実は我々叛逆軍以外にも、イヴァン雷帝と殺戮猟兵オプリチニチと敵対する者達がいます」

「そうなんですか?」

 この世界に来て日が浅いカルデアなら知らなくて当然だろう。
 それにあちら側に所属する組織の面子を考えると、連絡が来るとは悠も考えていなかった。

「僕達は農村出身のヤガ達がメインですが、向こうは逃亡した兵士や元貴族達が主体です」

「戦えるメンツならそっちの方が揃ってそうだな」

 兵士はもちろんのこと、元貴族なら相応の備蓄や武器を持って離反した可能性もあるだろう。

「ええ……しかし、問題もあります。彼らは叛逆軍とカルデア所属の仮面ライダー、つまり僕と士さんとの顔合わせを、同盟関係を結ぶための条件として提示しました」

『ちょっと待った。仮面ライダーと直接指名されたのかい?』

「ええ、そうです。もちろん、僕らからは士さんに関する情報は伝えていません。そもそも、彼らとのまともなやり取りはこれが初めてですから」

「それじゃあ、どうして士さんのことを知っているんですか?」

 カルデアがこの地へ来て士を召喚したのはここ数日の話。それにディケイドは殺戮猟兵オプリチニチとも未戦闘だ。情報が漏れる要素があまりに少ない。

「だいたいわかった」

『士さんは何かわかったのですか?』

「どうもこうも会えばいい。そいつらは敵じゃないんだろ」

 質問には答えず結論だけを語った。そのスタンスのせいで場はむしろ混沌が進む。

『カルデアの存在を察知している上、二人しかいない重要戦力たる仮面ライダーを出せと言っておるのだよ? 罠の可能性だってあるではないか!』

『私はミスター門矢に賛成だ。ここは会っておくべきだろう』

 焦った様子の新所長の疑念を、ホームズはあっさりと切り捨てた。

『あ、この探偵もわかったくせに説明しないパターンだね』

 ジト目のダ・ヴィンチを彼は悠然と笑って流す。見事なまでのマイペースさだ。

『憶測でしかない話なので、まだ語るのは控えているだけさ。ミスター門矢も恐らく私と同じ結論だろう』

「まあな」

「もどかしい……」

 自己完結する二人から置いてきぼりにされたマスターがポツリとつぶやいた。

 彼らはいつもこんな調子なのだろうかと悠も少し心配になる。
 せめて助け船になればと、自分が出せる残りの判断材料を提示することにした。

「彼らが罠をかけてくることはないと思います。僕は一度遠巻きであちらのリーダーらしき人物を見ています。吹雪でハッキリとは判別できませんでしたが、その人は現代風の服をきた旧種ヒトでした」

『また現代の服装で、仮面ライダーの存在を知っているということは』

「そいつも仮面ライダーだな」

「可能性はかなり高いと考えています」

 仮面ライダーは皆、汎人類史を救う使命を自覚して召還される。皇帝ツァーリ側に付くことはあり得ない。
 それにサーヴァントであるのなら、それだけで仲間にすべき最重要戦力だ。

「ますます会わないわけにはいかなくなったね」

「ええ、ですが……僕がここを離れてしまうと、アジトを守る要がいなくなってしまう」

 檄文の配布をカルデアに任せたのだって、リーダーでサーヴァントでもある悠が、拠点から離れるわけにはいかなかったためだ。

「それならここは俺達に任せて、リーダーは行ってきてください」

「ヤシキアさん……でも」

 悠の脳裏に、かつて自分が守ろうとしたアマゾン達を思い出す。
 あの時は仲間達を守り抜くことが叶わず、一人、また一人と消えていった。そんな現状に絶望したアマゾン達は溶源性細胞という凶行へと走った。

「元々は俺達だけでなんとかやってきたんだ。それに、これは叛逆軍にとってまたとない大チャンスなんです。ちょっとは信用してください」

 悠がヤシキアと呼んだヤガは、彼がここに来る前のリーダーだった。
 今もこうして主要な会議に参加している。そうでなくとも色々な業務を任せている今の叛逆軍には欠かせないメンバーだ。

 ヤシキアが言うことは正しい。
 それに、こちらの戦力がジワジワと増やしていけばどうなるか。そのせいで皇帝ツァーリが脅威と判断して、本腰を入れて叛逆軍の排除に動いたら、ジリ貧での敗北は火を見るより明らかだ。

「……わかりました。ではアジト内の指揮はヤシキアさんに任せます」

 カルデアを仲間に引き入れた以上、叛逆軍はもう止まれない。なるべく早く態勢を整えて、皇帝ツァーリの軍勢に痛烈なダメージを与える。
 そのためにも、今後は危険な橋を渡る必要が何度も出てくるはずだ。
 その度に考えることは大事だが、ただ躊躇うだけではゴールには辿り着けない。

「それとパツシィにも同行してもらいたい。サーヴァントのリーダーはともかく、ヤガが一人はいないと向こうのヤガ達からの警戒が強まる。それに君は狩人と聞いているよ。道中に仕留めた魔獣の肉を捌いてほしい」

 サーヴァントは食事がなくても問題はないが、立香はそうもいかない。
 叛逆軍には食糧の余裕がないため、あちらへ到着するまでの糧は現地調達する。

「わかった。それなら俺の得意分野だ。つー訳でまたよろしく頼むな、藤丸」

「こちらこそよろしくです!」

「よし、ならば我々はこれより、同盟交渉への出立の準備を始める!」

 水澤悠の号令が、次なるライダーと邂逅する任務の始まりとなった。


悠の話し方に丁寧語とそれ以外でのブレがあるのは、当人が人(ヤガ)の上に立つことに不慣れと苦手意識(アマゾンズシーズン2の事件)があるためという設定。
後、ヤシキアの立ち位置は独自設定です。(理論上は前リーダーらしき人物が誰かしらいたはず)

 


 

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