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仮面ライダー滅亡迅雷 正義は悪意を包括する【感想・考察】

2021年4月3日

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AIの心を殺す行為は理想の合理性

『仮面ライダー滅亡迅雷』はAIの軍事利用についてが物語の主軸になる。
人工知能による兵器の操作といえば、既に様々な作品で取り扱われてきた分野だ。

有名どころでは『新機動戦記ガンダムW』のモビルドールあたりだろうか。
「人間の代わりに人工知能が戦争するなら、今までより人道的じゃないの?」という思想は、まぁ誰しも一度は考えたことがあるだろうと思う。

現代でまだ達成されていない理由は、単純に人工知能が未だその水準に達していないためだ。
これがゼロワン世界だと、ヒューマギアが人間とほとんど遜色ない行動が可能になっている。

しかし今度は最先端の人工知能ヒューマギアは、進化して心を持つように至る。
それこそ安易にヒューマギアを戦争に投入すると、滅亡迅雷.netがいなくてもいずれ如く人類に反旗を翻すのは目に見えている。

そこでZAIAは新たにマスブレインシステムをヒューマギアへと導入して、そのタイプを『ソルド』と名付けた。
マスブレインシステムはヒューマギアの思考を並列化させて、個ではなく群として意志決定を行う。

ゼロワン世界のシンギュラリティは自己判断を持つことで萌芽する。
自己判断を持った時点でその個体は他とは異なる行動を取り始める。

マスブレインシステムは個がそれぞれ相互監視しながら、群として最適な状況判断を導いていく。
つまり絶対に『自己判断をさせないことでシンギュラリティを防ぐ=ヒューマギアの心を殺す』システムなのだ。

ヒューマギアの自由意志を根本から奪う行為に迅は大激怒する。
だが迅もまたソルド、それも最初の一機『ソルド・ゼロ』。誰よりも自由意志を尊重した迅こそが、何よりも自由意志を許されない兵士型ヒューマギアだったのだ。

そのため、迅にも当然マスブレインシステムは対応している。
劇中だとインストールされているから〇〇対応スマホみたなものじゃないだろうか?

ソルドなのに最初から入ってないのかよ! というツッコミを入れたい人もいるだろうけど、迅は長らく外で個別活動している。
仮にマスブレインシステムが入っていても確実に最初期型でバージョンが古く、どちらにせよ再インストールする描写があるのはむしろ自然だろう。
マスブレインシステムが完全に脳内会議化していて軽くギャグかと思ったけど、これはもう人間がわかる形で描かないと小さなお友達どころか大きなお友達でも理解が難しくなるので仕方ない。

要は迅が「〇〇したい!」と思ってもシステムで「××する」と決定されると、体は勝手に後者を実行してしまう。
人間の兵士に置き換えると、死にたくないと思っても『敵前逃亡は銃殺』の枷をかけられるに近い状況だろう。

ゼロワン世界というかヒューマギアだと『個の尊重』が重要視されるため、とてつもなく非人道的行為の扱いを受ける。
けど、この群で行動を決定する思想自体は、『REAL×TIME』で登場したナノマシンとほとんど同じである。
形やサイズが違うだけで、ナノマシンも高度AIを搭載されたマシンだ。

劇場版ではエスの意志がナノマシンを完全支配下に置いていたが、元々の医療用マシンだった時代だと命令系統は別口にあったため、よりソルドに近い存在だった。
ナノマシン達ならOKという判断は人間の観点でしかなく、形や役割を置き換えたことで巧妙に違和感を消して、話を単純化していたのだとわかる。
言い換えればマスブレイン思想は、『REAL×TIME』のナノマシンで積み残したネタをやりたかったのかもしれない。

ナノマシンを比較対象にするとマスブレインは一方的にネガティブな印象になってしまうので、別の近い思想ネタで考えてみよう。
今度は『ゼロワン』ではなく別の有名SFアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズよりタチコマくん達だ。
(フチコマもいるけど、こっちのがある意味有名なので……)

知らない人向けに説明すると、タチコマは思考戦車と言われる量産型の乗り物であり、ヒューマギア同様に自ら考えて学び行動もできる。
昨今で言えば、モルカーが直接言葉を話せると想像すればわかりやすいかもしれない。

特徴的な設定として『タチコマ』としての個性はかなり強く、子供っぽい喋り方で好奇心旺盛。言葉以外にも身振り手振りでジェスチャーも多用する。かなりコミカルで、全く人型じゃないのにかなり人間臭い。

しかしながら定期的に全てのタチコマは記憶と経験が並列(共有)化されて、機体による個体差を無くしている。
また並列処理時には、管理者により不要な記録の削除も実施されており『ラーニング』自体も人間によって制御されている。

これによって皆人間臭くてコミカルで可愛らしいのに、群で見ると皆同じで見分けが付かないのだ。
まさしくソルドと同じような運用で、しっかりと管理されている兵器でもある。根本的に戦う車だし。

それでも視聴者視点だと、この管理行為はゼロワンと違い全然残酷に見えない。
人間には道具として扱うことと、キャラとしての愛着が矛盾なく同居できるためだ。

このように個性的なのに没個性な運用をされていたが、登場人物の一人『バトー』が個人的な拘りで扱うタチコマを固定しており、燃料に高級な天然オイルを与えていた。
本来与えるべき合成オイルとの成分差によって誤作動を起こし、消去されたはずのメモリーが残って、その情報をタチコマ達が独自判断で並列化。そこから各個体が独立した個性を持ち始める。

この現象によって引き起こされるトラブルを危惧されたタチコマ達は、全員ラボ送りで解体。一部だけが民間企業で使用される流れになった。
生き残ったタチコマ達はバトーの危機を知り、民間の仕事を放棄して自分達の意志で救出作戦を展開する。

その後、個性獲得による自己判断の可能性を見出されたタチコマは再び量産され組織へと戻った。
更に数々の経験から、『死』の概念を理解しようと思考を巡らせだす。

本来AIであり、死の概念がなかったからこそ自らの損壊も恐れなかったタチコマ達は、最終的に自分達の意志で全機の『命』を引き換えに多くの人命を救った。『手のひらを太陽に』を合唱しながら……。

ぼくらはみな生きている
生きているから歌うんだ

出典:手のひらを太陽に

タチコマ達は『思考戦車』という役割をこなしながら個性を獲得し、やがて死の概念から命の意味を得る。ヒューマギアの『シンギュラリティ』を起こしていたのだ。

徹底した管理で安定した『道具』として最適化された動きを保証する。
与えられた役割から己を見出して、本来あり得なかった最善以上の結果をもたらす。

どちらが正しいかは別にして、意志の並列化によって自己確立を抑止するマスブレイン思想の本質は理解しやすくなったのではないだろうか。

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