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アズがリオンに殺された理由
本作では二つの大きな衝撃があったが、その内の一つがアズの死だった。
天津がアークを暴走させたが、その後アークは独立した行動をとっている。衛星の本体まで破壊されると、今度はアズがアークを伝播する役割となった。
アズとはアークを運ぶウィルスで言えば感染源、つまりは諸悪の根源みたいな存在である。
真っ当に考えればアズを止めるのは善意でもって人間とヒューマギアを取り持つ飛電或人が誰よりも相応しい。
そうでなくても悪意の根絶を目指す滅亡迅雷.netやA.I.M.S。もしくは仮面ライダーと名乗りコンクリートジャングルを徘徊するニートゴリラ。そのいずれかだろう。
しかしアズを終わらせたのはアズが『悪意』を察知して感染した、あるいは取り憑いたはずの相手、リオン・アークランドだった。アークの由来となった悪意塗れのストレートな邪悪である。
悪意がより強い悪意に殺されたとも言えるが、これはもう一つ別の見方もあるように思う。それはリオンの立てた計画を整理すれば見えてくる。
最新テクノロジーの軍事利用はTV本編で天津垓も画策していた。
少しTV本編を振り返ると、天津が目指していた1000%な計画は、人間をレイダーとZAIAスペックにより武装化させてマギアを倒すことで売り込む。
ヒューマギアを仮想敵として据えた計画だった。
実のところリオンの計画は、レイダーをソルドに置き換えると大体そのまま成立する。
仮想敵は滅亡迅雷.netに狭められただけで、意図して暴走させたヒューマギアである点も実は同じだ。
出てくるソルドマギアのデザインも、レイダーをリファインしているのでめっちゃわかりやすい。
直接ヒューマギアを戦争兵器にする方が利便性は高く、戦場における人間の犠牲も減るだろう。
天津には人工知能に対する愛憎があったためできなかったことを、精神的なしがらみのないリオンは実行できた。
ZAIAのCEOであるリオン・アークランドは支社長の計画を更に一歩進めることに成功したと言える。
要するに天津以上に冷淡で罪悪感の欠片もないよこのサイコパス!
リオンが恐ろしいのは、もう一つ作中にあった既存の概念をアップデートしたことであり、しかもこちらが計画の真骨頂であるとさえ言えるだろう。それがアークが学習して突き詰めた『悪意』だ。
人間は人間である以上誰しもが心の中に悪意を有する。
そしてヒューマギアも心が芽生えれば、同時に悪意も持つようになる。
悪意は完全に消滅しない故にアズもまた死なず、次の悪意を探し求める。
物質として存在しながら概念を具現化したような存在だからこそ物語的に『死』を与えづらい。
かつて或人は悪意を乗り越えたが殺せなかった。
人間の愚かさと、ヒューマギアの純粋が故の脆さを知った上で、相互理解を大切にしたからだ。
或人に悪を許さず根絶する覚悟があったなら、天津は許されず1000%破滅しており、滅も破壊されていただろう。
或人の本質は正義ではなく善意。善意では悪心を変えることはできても裁けない。
裁いた時点でその善意は悪意に変わってしまう。
そこでリオンは『悪意』に対して『正義』という新たな概念を持ち出した。
後出しじゃんけんになってしまうのだけど、私はTVでゼロワンの終盤を見ている時に、滅の動機は悪意とも呼べるが、どちらかと言うと正義感の暴走だよなと思っていた。
物語ではない現実の話で、子供が他人の勝手な理由で惨殺されて、親などの被害者遺族が『犯人を殺してやりたい』と思うのを、私達は「気持ちは痛い程わかる」「それは正しい怒りだ」と同情する。
この心の働きは、程度の差こそあれ老若男女問わず生じる現象だ。
人間の思考には『自分達のグループを守り慈しむ』習性があり、これは家族、民族、クラスメイトなどのグループ、全てに当てはまる。
普段スポーツに興味がなくともオリンピックなどがあると日本人は日本人選手を応援しだす。試合する姿を見て共感して『感動をありがとう』と言うのも、この習性が作用しているのだ。
当然中には「自分は応援しない! 無駄に主語が大きい!」って人もいる。むしろ私もその類で、それならそれで「なんであいつら赤の他人をあんなむやみやたらと応援したがるのだろう?」と抱えていた疑問がスッキリしないだろうか?
これはもう単純に、どこまで自分の族するグループとして受け入れられるかどうか、共感性の話だ。オリンピックの単語で「じゃあ自分は日本人カテゴリーなので日本人を応援すべきだな」と脳が判断する。
逆にこれが著しく欠如した人間はサイコパスと呼ばれるタイプが多い。
共感性とは基本的に「皆で協力し合おう」や「仲間を応援しよう」と言った熱血王道モノみたいな流れになる。
わかりやすく言えばキン肉マンの『正義超人の友情パワー』とか『悪行超人と戦いでマットに沈んでも、観客の声援で再び立ち上がる!』みたいなノリだ。
だが、この共感性には深い暗黒面もある。
それが先に書いた正義の暴走だ。
人は自分が共感できるグループを守るため、外敵と判断したグループに属さない者には苛烈な攻撃性を持つ。
被害者遺族の話に戻るが、この手の理不尽な事件が起きると多くの人は遺族に対して同情の念だけでなく、殺人犯に対する怒りを持つ。「こんな極悪人はさっさと死刑にすべきだ」と憤慨する者も少なくない。
これは私達が『人殺しは許せない文明人』クラスタにいるためである。
同様に芸能人の不倫が発覚すると多くが激しく炎上する。これは『日本人の守るべきモラル』クラスタから外れた人だからだ。
だけどあまりに燃え過ぎると「皆、叩き過ぎだろ」と異を唱える者も増えだす。それだけ攻撃が過剰になっており、この炎上内容や規模によっては心を病み自殺する者も現れる。
これが正義感の暴走であり、この状況を簡潔に表した名言が仮面ライダーには存在する。
正義のためなら
人間はどこまでも残酷になれるんだ出典:仮面ライダーオーズ
SNSだとこの現象はより顕著に可視化できる。
政治クラスタは自分と噛み合わない主張に対してはかなりキツく攻撃的な発言を繰り返す人が、探せばそりゃもうザクザク出てくる。
一部のフェミニストが主に二次元を排除しようとする発言をすると、自分達を守るためオタククラスタはかなりの攻撃性を見せる。
そして段々『フェミニスト』という大枠そのものを攻撃の対象と定めて、内容もより問わず過敏に反応するようになっていく。
『仮面ライダー』クラスタだって、ちょっとつまらないと思う人が増えてくると一瞬で荒れるのは、正直見飽きるくらい見てきた。
この現象はクラスタ規模が大きくなっても有効で『民族』や『国』に発展していく。
民族紛争や戦争が悪いものと考えている人はすごく多いのに何故起きるのか。そして決してなくならないのか。
(細かい要因は様々あれど)それらの説明が全部『正義感の暴走』で説明できてしまう。
正義の中に悪を攻撃する性質がある。
人は正義のためなら何処までも残酷になれる。
リオンがアークを元に仮面ライダー滅亡迅雷を生み出したのは、正義とはその中に『悪意』をも有する上位概念だから。
悪意(アーク)は正義(仮面ライダー滅亡迅雷)を生み出すためのパーツであると言える。
そうして悪意は正義の一部となり意味消失した。
ここまでくると悪意の伝道師も役割を終えて舞台から降りるしかない。
そして退場させる者がその最大要因になるのはごくごく自然なことだろう。
悪意(アズ)は正義(リオン)の生贄となったのだ。
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