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【小説 仮面ライダークウガ 感想・考察】13年の歳月を経たからこその名作

2020年5月27日

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社会情勢を取り込んだ新しいゲゲル

ここからはネタバレ有りでの感想になるため注意。

突然だが、少しだけ私が一番好きなアメコミ、『ウォッチメン』の話にお付き合い願いたい。
(なお、ウォッチメンという作品は前日譚的な前置きが長くネタバレらしいネタバレはないよ!)

ウォッチメンは(時代は多少古いが)クウガと同じく現実的な世界観を舞台としており、治安の悪い町で市民の中からマスク被った男がヒーロー活動を始めた。
たちまちブームが巻き起こり様々なヒーローが誕生。彼らはやがてチームを組むようになりマスコミにも取り上げられた。

町で幅を利かせる悪党は次々と駆逐されていく。
そうして町は平和になった……とは言い切れない。
表面的にわかりやすく暴れる悪党は確かになりを潜めるようになったが、その分裏社会で麻薬や売春など地味で目立たない犯罪にシフトしたのだ。

13年後に再活動を始めたグロンギにも、これと同じ現象が起きた。
ライオはリントが誇りを失い腑抜けたからと一条や実加を煽ったが、これは一面的な話でゲゲルを楽しむための口実だろうと思う。

むしろリントは進化した。
それはTV版時代からバルバ(タトゥーの女)達も認めていた事実だ。

グロンギが現れた当初は事態についていけず翻弄されたが、やがて警察は状況に対応して次々と装備を整え、ゲゲルの完遂も難しくなっていく。
そして最後には神経断裂弾が生み出され、クウガの力に頼らずグロンギを倒す手段を得た。

それからさらに13年が経過している。その分科学もより進歩した。
この状態でただグロンギを復活させるだけでは、ダグバ級の規格外でも出なければ人間達だけで事態を収束できる。あらゆる意味でクウガが必要ない。

そのために小説版では新たな仕掛けを二つ追加した。
対グロンギの法案を持ち出し、あえてグロンギに人権を認める。そして明確な殺意の証として怪人の姿を見せないと射殺できないようにした。

流石はゴマアザラシやアニメの埼玉県民にも住民票を認める国である。
グロンギにも生きる権利を与えてしまう発想は実に日本特有のノリだ。
ただし、流石にダグバを筆頭にそれまでの所業を考えると、まともに通るような話ではなく、読者からすれば違和感も強い。

それを政治家として潜り込んだグロンギが汚職を使い成立させましたとして説得力を持たせた。
日本人の政治不信と、グロンギの高い適応力の合せ技だ。

加えてゲゲル自体の性質変化。
かつてのゲゲルは一定ルールに則り短期間に多くの人間を殺害するかを競う。タイムトライアル的な競技だった。

それを今回は、まず準備段階として完全に人間社会へと溶け込むところから始める。
次に年単位の長期スパンで綿密な計画を立てる。そして個々の能力を使い一定ルールに沿った大規模なテロを起こしていく。中にはダグバの三万人すら可愛く思える大殺戮を一発で引き起こす者も現れる。

しかも、かつてはゲゲル以外の殺しはルール違反だったはずだが、今回は正体隠ぺいのためなら躊躇わずゲゲル外の殺人も実行している。

ゲームとしての完成度と計画性が共に段違いで向上。仮面ライダー史上最悪なテロリスト集団と化した。
これには元祖悪の秘密結社(テロ組織)ショッカーも真っ青で思わずゲルショッカーになってしまうね!

そのテロ内容も実に凝っている。
最初は機械の誤作動に見せかけた殺人。
もう七年前の作品ではあるが、当時から精密機器の誤作動事故は定期的に話題となっている。
そこに隠された意図としてゲゲルを絡めた。

二つ目はアイドル。
当時と言えばAKB48が高い人気を得ていた時期だ。

現代アイドルはファンとの距離感が近さが売りの一つ。○○券や大量買いによってファンが支え、国民的アイドルへと押し上げていく流れを書いている。
そしてファン達との最大の交流場であるライブをゲゲルの会場に選んだ。

芸名も伽部凛(トキベ・リン)であり、ファンのコールは自ずと『リント ギベ(人間は死ね)』になる。このコールの最中にファンを皆殺しにするのだ。外道。まさに外道。
かつての雄介でもこれを実行されたらマウントポジション不可避では?

そして最後は政治家。
汚職と政治不信については先程語った通り。

しかも社会的な流行を上手く使い、毒素入りジュースを世に充満させる。
仕上げは160万人というもはや想像もできない人数を一瞬で殺害。当然、その際に起こる二次被害とパニックは更に甚大なものとなるだろう。

どれもこれもが人間の、そして日本社会に根付いた計画的な犯行。
この社会性を重視したゲゲルは、同時にクウガらしいリアリティを伴う。

時代によって変化するグロンギとゲゲル。
わかりやすい遊び感覚の暴力から、社会の暗部に絡んだ複雑で捕まえにくい犯罪へのシフト。
まさしく小説版を13年後の現代クウガ足らしめている要素だ。

【次ページ:一条薫が小説版の主人公である重要性】

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