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『まんわかコラボ』とスーパーバニヤンが描こうとした神話の本質【感想・考察】

2022年5月3日

根幹はスーパーバニヤンの成長物語

本イベントの主人公はあくまでSバニヤンだ。
しかしリーダーとしての彼女は、お世辞にも有能や優れているとは言えなかった。
あまり結果を出せないまま次々と作品に手を付けて、その尻拭いを他の者達に押し付ける。
なんてことをしながら、他者に対して役割を『決めてあげる』と高圧的で独善による上から目線。しかもそうして割り当てられた役割が借金返済なのだからたまらない。
そしてトドメと言わんばかりに最後は金の像を作って置いていく。その金で借金返済しろよ! ツッコミ待ちか!? てな具合だ。

その実、物語が進むごとに彼女は悩めるティーンエイジャーだと段々わかってくる。
元々彼女はトール・テイルで実体のない存在だ。
幼き頃のバニヤンは無邪気にアメリカを開拓していった。ホラ話だからこそ何でも有りで圧倒的な力を自在に振るう。それが幼児性の万能感として表現された彼女はまさに『無敵』だった。

そんなかつての自分を、成長したSバニヤンは否定する。
地味に結構忘れられてそうだけど、トール・テイルだから無茶苦茶やれる彼女はサーヴァントとして限界すると、己の在り方(開拓)を真っ当するだけでアメリカを破滅させる。
現代では忘れ去られ、そして現実に存在していはいけない者なのだ。
(そんなバニヤンのさらに成長バージョンなんてよく喚び出せたな大黒天)

つまり彼女は『大人になった』のだ。
そして開拓者としてもう一度世界を創造する方法として映画を選んだ。
自分の大きさを物理的なサイズではなく、人間性のスケールに置き換えるためのリーダー。

役割を決める方法論は、相手の自由を奪うようでイメージが悪くはある。
けれど世の中の人間の多くは、自分の役割を自分で決められない者の方が圧倒的に多い。

こういう仕事に自分も一枚噛みたいけど、一から全て自分でやるのは難しい。そして具体的に何をすればいいかわからないことも多い。
だから、何処かの会社に入ってリーダー(社長や上司)に役割を与えてもらう。
方針を定めてメンバーに役割を割り振っていくのは、リーダーとしては基本であり重要な役割である。
なので、本来ならSバニヤンはごく当たり前のことを言っているはずだ。

しかし映画製作におけるプロデュース能力は、開拓者として持って生まれた能力ではない。
そもそも開拓者とリーダーの資質自体別物なので、愉快なアサシンに体力仕事を押し付けるなんて人選ミスをやらかす。
Sバニヤンの中には様々な要素が混ざっているようだけれど、少なくとも他人の才を見出すプロデュース能力はその中にも無かったのだろう。

しかしリーダーシップに必要なカリスマ性はあるので、仲間の数と期待は大きく、始めた以上はそれらを背負ってやりきらないといけない。
彼女は現実の壁にぶつかってもがき、けれどそれを外に出すことなく虚勢を張り続けるしかなかった。それが高圧的な態度と独善性となって表層化していたのだろう。

より正しく生きようとしていたはずなのに、大人になって無敵じゃなくなった=大きくもなれなくなった。
アイデンティティを失った自分の弱さと矛盾を、Sバニヤンは自覚していた。

だから立香にリーダーとして間違った選択をしたらという問い掛けに容易く詰まってしまう。
アニングに虚勢を指摘されると論理的な反論ができない。
立香の指摘に詰まりながらも答えようとする彼女を、同じく人の上に立つマリーは責任を自覚していると評価した。
この時点で、ただ無責任で独善的なだけの歪んだリーダーシップではないのだとわかる(ただしわかりにくい)。

きっと最初は本当にリーダーとして新たな神話(映画)をたくさん創造し続けて、大黒天が望んだような存在になろうとしていた。
だけど段々自分の矛盾と歪みを自覚して耐えきれなくなっていく。
そうしてリーダーとしてけじめを付けるため、まずは皆との約束を守ることを優先して、自らが手掛けた作品のその後の段取りを付けた。その上で最終作品の完成に着手する。

開拓で自然を破壊する悪役として、自分がアニングとプレシオサウルスくんによって倒される物語。
あのしつこく立てていた黄金像も、Sバニヤンが倒されると悪の象徴として機能していただろう。
その後の締めは立香へと託す。立香は立香らしく人間として戦い、聖杯を手に入れて結末はハッピーエンドとなる。

しかし立香の介入によってSバニヤンは勝利してしまう。
もはや正しいと思っていた結末を失った彼女は、かつての無敵だった自分に否定されることで今度こそ果たそうとした。

けれど立香とマシュの声援を受けて彼女は立つ。倒れる度に立ち上がって、本来絶対に勝てないはずの『無敵だった頃の自分』にすら勝利してしまった。
そこでようやくSバニヤンは気付く。
今の自分はかつてのように無敵ではない。弱く小さくなって、失敗も多い。強い者には倒されもする。
けれど、仲間の声援を受けて何度でも立ち上がる。交わした約束は必ず守って、皆が期待する、共に共有できる理想のゴールを目指して走り続ける。

プレシオサウルスくんの成長を待っていたのもあるだろうけれど、悪役に徹するならそもそも問題の起きた仕事は全部放置したまま決着を付けるべきだった。
それができないのも彼女の善性の証明である。

Sバニヤンは自分が役割を決めると言ったが、抗議があればそれを受け入れ対話をして、前向きに検討していた。
異なる意見は封殺するのではなく、とことん話し合う。

炎上を起こす危険性のあるマイクまで引き込み、かつ反乱を起こしてもまた彼を仲間として迎え入れた。
マイクの性質もただの悪として断じるのではなく、個性(トール・テイル)の一つとして受け入れる器の大きさもこれに類するだろう。

そしてライダーにせよアサシンにせよ、案外勝手に動いている。
特にアサシンがプレシオサウルスくんを育成する地図を渡したのは独断だった。
けれど、この地図はアニングが勘違いしたように、結果的にはSバニヤンが望んだシナリオ通りに進む手引である。

これは立香達も同様で、彼女が窮地になれば指示を無視して助ける。そして一対一で手出しをしないと決めても全力で声援を送る。
皆好きにやるけど、それはリーダーを応援するためなのだ。

それこそがSバニヤンが持つリーダーとしての真の資質。
これは多くの『いいね!』を受け取って巨大化(多ければ多いほどパワーアップのバフがかかる)して、かつての無敵だった自分にまたなれる宝具にも顕れていた。
(まあ、そういう『設定』とマテリアルには書かれているのだけれど、展開的に繋がっているのに活かさないのはどうなのか。
また、第三臨にいいね描写がないのは、かつての無垢なバニヤンに戻ったから、宝具時間の短縮も再現してるためだろう)

ただこれについては、対子供バニヤン戦で声援を受けて再び巨大化する流れは入れるべきだったろう。
ビッグバニヤン対ビッグSバニヤンの絵面はかなりトンチキだが、それは多くのFGOユーザーが望む方面のトンチキなのでむしろ歓迎する。

この演出を省いてしまったので、Sバニヤンの成長が形として見えにくくなってしまった。
そのため、嫌なヤツが周りから持ち上げられて肯定されただけのように見えてしまい、モヤモヤが残ってしまう人が現れる要因にもなっている。
吹っ切れて幼くなったままリーダーを続ける心境が見えにくい。

しかしながら、これをやると終盤まで宝具封印という無茶な話にもなるだろう。
では『いいね』で巨大化できることは早めに出して、その本質をボカしつつバニヤン戦まで進めていく……なんて色々考えねばならない要素が増えて、シナリオ調整が難しくなってしまう。
本来ならもっと目立つべきライダーやアサシンの掘り下げの少なさから考えても、ただでさえシナリオ面は尺不足でぎゅうぎゅう詰めになっていたのは想像に難くない。
この尺不足は割と深刻で、基本的なプロットは非常にロジカルでよく出来ているのに、描写や演出が足りなくていまいちスッキリしない感覚を生み出してしまったのではないか。
結果として、その大きなポテンシャルを発揮しきれず、非常に惜しいシナリオになってしまったなぁと思う。

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