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仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド【ネタバレ感想・考察】壊れてもなお続く夢の本質

2024年2月2日

仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド(パラリゲ)の概要

Open your eyes

For the 20th φ's

目を覚ませ The time to go

強くある為に─────

夢の続き見せてやるよ

作品の概要

『仮面ライダー555』の20周年を記念して制作された『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』は、テレビ本編最終回から20年後を舞台にした正統な続編である。

令和5年5月5日に制作が発表され、監督・脚本はテレビ本編と同じく田崎竜太・井上敏樹、そして白倉伸一郎氏が担当。

副題の「リゲインド(regained)」は「取り戻した」という意味で、ファイズの劇場版『パラダイス・ロスト』とは逆。
人類が世界の主導権を取り戻し、オルフェノクが迫害される側に陥っている世界観を描く。

主要キャラクターである草加雅人・北崎は本編で既に死亡しており、主人公である乾巧も死ぬ未来が示唆されており、正統続編でありながら大きな矛盾が生じている。
そのため、彼らがどのように物語に関わってくるのかも、作品公開前から注目されていた。

作品のあらすじ

園田真理は、菊池啓太郎の甥・条太郎、海堂直也、そして草加雅人と共にクリーニング店「西洋洗濯舗 菊池」を経営しながらオルフェノクを庇護していた。

政府により企業再生されたスマートブレイン社は、オルフェノクの殲滅を目指す企業へと変貌し、かつてのラッキークローバー北崎が社長に就任。

追いつめられたオルフェノクを救うため、草加と海堂は仮面ライダーカイザとスネークオルフェノクに変身し、殲滅隊隊長の胡桃玲菜(仮面ライダーミューズ)と交戦する。

そこに現れたのは、数年前に真理たちの前から姿を消し、消息不明になっていた乾巧。
彼は新たなファイズ・仮面ライダーネクストファイズに変身し、スマートブレイン社の尖兵として襲い掛かる。

彼らの再会は、オルフェノクと人類をめぐる新たな物語の序章に過ぎなかった……。

『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』のネット評価

高評価の意見

多くのファンが、この作品を通じて20年の想いが報われたと感じている。
とくに、最終回に対する未解決の感情を抱えていた視聴者にとって、20年の時を経たアンサーとなった。

本作はシリーズの根底にあるテーマとキャラクターの深い掘り下げにより、高い評価を受けている。

キャラクターたちの感情表現が細かく描かれており、主要人物の内面的な葛藤や成長が観客に深く共感を呼んだ。
20年を経た乾巧の声色や、草加雅人のスマイルが当時よりも進化しているとの声も合った。

井上敏樹氏の脚本は、その特徴である複雑で予測不可能な物語展開が『ファイズらしさ』として受けいられていた。
また、物語の展開やキャラクター間の関係性が一気に加速した点も、多くの視聴者を引き込んだ要因の一つだ。

これらの要素が組み合わさることで、『仮面ライダー555 パラダイス・リゲインド』はただの続編を超え、見事に『555』の世界観を新たなステージへと導いた。

ファンにとっては、長年の思いが結実した作品であり、『555』シリーズの魅力を再確認させるものとなった。

低評価の意見

一方で、脚本に対する批判的な意見も見られる。

尺の短さも手伝い全体的に勢い重視な展開が目立つ。
その影響もあったのだろう、物語の辻褄が合わない点や、キャラクターの行動が理解し難い場面があったとの指摘がある。

本作の脚本がファンの期待を満たすものではなかったと感じる声もあり、よりファンの意見を反映した脚本の募集などを求める声も見かけられた。

新型555のデザインに対する否定的な意見もあり、変身ベルトやフォームのデザインが過去の作品と比較して劣ると感じるファンもいる。

ただし、全体的な評価はポジティブな傾向にあるため、全体的にみれば批判的な意見は少数派に留まっている。

半田健人氏たちが物申した問題点について

制作発表でファンが荒れた事件

パラダイス・リゲインドが発表された当時、半田健人氏(乾巧役)が一カ所だけ台本で気になる部分があり、芳賀優里亜氏(園田真理役)と二人で、白倉Pと田﨑監督に直談判したという発言があった。

多分これは、それだけファンの皆さんに楽しんでもらう目線で作っていますという意思表示もあったと思われる。

しかし、
『断じて容認できない』

『第1戦はねじ伏せられた』

『これはもうわれわれが立ち上がるしか阻止できないよね』

『僕らにとっては『555』がたった1つの仮面ライダーなんです』

『育てたのは俺、俺とファンだ』

といった、結構強めな言葉で事態を語っていた。

また、前年の仮面ライダーオーズ10周年作品『復活のコアメダル』にて、制作側とファンの間で解釈の違いが起こり、賛否両論で大きく荒れる事件が起きていた。

これにより少なくないファンたちが半田健人氏を英雄視しながら、仮面ライダーの制作陣は『復活のコアメダル』から何も学んでいないのかと、X(旧Twitter)を中心に批判の声が相次いだ。
(ちなみに、この時のわたしは『実際の作品を見て面白いか否かを評価すべき』という旨のポストをしたと記憶している)

実際はどうなったのか

映画本編にて、問題になったシーンは削られずに放映されている。

パンフレットだと半田健人氏はどのシーンかは暈かしていたが、芳賀優里亜氏の方がハッキリとラブシーンの部分だったと語った。
まぁ作品解釈で賛否両論になり得て、かつこの二人が深く関わるシーンとなれば、もう消去法でラブシーンだと確定できるけど。

パンフレットにて、半田健人氏は結果としては杞憂に終わった。プロのスゴさをまざまざと見せられたという旨を話している。
完成した映像について、芳賀優里亜氏も似たような意見だった。

元々『心配してるようなことにはしないから。こっちもプロだから』と一蹴された一戦目からしてそういう会話があり、それに対するアンサーのようにも取れる。

また、そもそも本シーンは監督が追加したわけではなく、元々の脚本からあった。

衝撃的なシーンとして狙ってやろうとしたわけでもなく、井上敏樹氏は年齢制限の枷を外すとラブシーンは別に珍しくない。
なんだったらTTFC限定配信だった龍騎は、男同士のラブシーンがあった。小説、漫画なで仮面ライダーのシナリオを担当すると大抵でてくる。

そのため、田﨑監督はこれを井上敏樹氏からの挑戦状として受け取り、どう撮れば正解かも悩んだと語っていた。

その上で、白倉Pも含めた四人でのディスカッションも行い、完成品はオルフェノク化した二人によるラブシーンで、灰色をした蔦のようなものが絡まり合う映像となっている。

半田健人氏は制作発表段階での話に比べると、パンフレットではかなりトーンダウンしており、監督を褒めるニュアンスがかなり強くなっていた

半田健人氏はXでも積極的に本作の情報発信をしている。
自分の発言が原因で仲間が貶される光景を見て気持ちがいいわけないだろう。

またすべての話を統合すれば、別に監督は最初から半田健人氏の話を無碍に扱っていたようには見えない。プロとしてどう撮るかというのも、試行錯誤しているのは明らかだ。

個人的には、当時の半田健人氏がしていた話のトーンは、白倉Pが宣伝でよくやる炎上スレスレのトークによる話題作りに近かったと感じた(自覚的だったかはまた別の話)。
ゆえにファンたちがそれに釣られた形になったのは否定しない。

それを差し引いても、一方的な意見だけを聞いて、もう一方を悪者としてリンチのような叩き方をするのは、よろしくないと今でも思っている。
制作チームが丸ごと同じわけでもないため、『復活のコアメダル』で不安だったからというのは、あえて悪い言い方をすれば無知や言い訳の類だ。

ただまあ、そうやってファンが手のひらグルングルン回して大騒ぎするのは、良くも悪くも平成ライダーからずっと続いている文化である。
ファイズでそれをやるのは、なおさら懐かしい気持ちになったのも否定できない。

わたしのブログは仮面ライダーに関する歴史や文化について、記録や解説をしていくことも重視している。
SNSでは本作はかなり高評価であり、当時のことを無かったように扱う人たちも多いだろうと考えて、あえてここに実際に起きた出来事とその顛末をここに記しておくことにした。

20年を経たファイズの在り方

完成されたキャラクターたちが見せる夢の続き

本作の感想には『あの頃のファイズだ』という意見が多かった。これらのほとんどは高評価なので悪意はまったくない。

ただ、わたしはどちらかと言えば、本作を観て20年で変わった部分の方が強く意識を引っ張られた感が強い。

例えば二十年経った真理は、元々の夢であった美容師については、劇中でまったく触れることがなかった。
あきらかに、啓太郎から引き継いだクリーニング店にこそ強い執着を抱いている。

また、草加雅人ともかなり近しい距離感で接していた。
消えた巧が大きな原因になっていることは間違いないにせよ、草加の気持ちに対して、自分からも誤魔化さずある程度応える態度を取っている。

草加も草加で、結構巧のことを評価していた。
昔の草加なら表面上は巧を褒めても、すぐに裏で悪い顔をする。
もしくはパラダイス・ロストノリで『もういない巧じゃなくて俺を頼れ』オーラを出しまくっていただろう。

悪いオーラを出さず、それでも俺は真理に尽くすよ感でアピールできている。
戦力的な意味での巧に対する評価は、多分本心でもあるだろう。

どちらかが行方不明だった期間を考慮しても、仲が悪いなりに真理や啓太郎たちを含めて十年以上やってきたのだ。
皆、それなりに関係のバランスは取ってきたのではないだろうか。
(草加はアンドロイドだとしても、プログラムが発動しない限り、過去から連続性のある記憶と自我を持っている)

海堂はもう成長しまくりだ。無軌道な性質は残しつつも、きちんとラーメン屋を経営しており、結構繁盛している。

それだけでなく、若いオルフェノクたちのリーダーとなって、しっかりと導いている。
名前は出さなくても、木場が抱いていた、そしていつしか自分も抱くようになっていた理想を、誰よりも真摯に続けているのだ。

同時に音楽とはまったく異なるラーメン店を開いているのも興味深い。
リバミスでは音楽に関わる仕事を行っていたが、呪いが解けて木場の理想を引き継いだ人生と考えれば、むしろこっちの方がずっとしっくりくる。

それはそれとして、胸の中華がかつての口癖「ちゅーか」から取ったものだと気付いたあたりで笑いが堪えられなかった。
井上敏樹氏は、まさかそのためにクリーニング店をラーメン屋にしたの!?

北崎の本名と性質的な変化

本作で最も大きな変化があったのは、間違いなく北崎だろう。
これについては、『かつての本編とは別物に近い存在』だと言っても大多数が納得する。

北崎はラッキークローバー最強の『北崎さん』からスマートブレイン社社長の『北崎望』になった!

これについては北崎の演技にも明確な変化があり、喋り方などにどことなくかつての雰囲気は残しつつ、中身はキッチリとスーツを纏った社長になっている。

かつての北崎は、触れるものがすべて灰になる性質から生じる精神的な歪さと圧倒的な強さから、得体の知れない異質さが滲み出ていた。
北崎さんという、あえて本名が不明な部分も、その空気を作るのに一役買っていた。

しかし本作の北崎望は政府が完全に管理・掌握しているアンドロイドなのだ。
ゆえにかつてのような不気味さは完全に消失しており、北崎望という秘密を持ちえない『機体名称』になっている

管理された人形に不可思議さなどないのだ。

変わらないファイズらしさ

もちろん、これらの変化は元々あったファイズらしさがしっかりと再現できていることが前提での話だ。

井上脚本の空気感はまさしくファイズそのものだ。
新キャラたちによる『噛み合っているようでいて噛み合っていない若者たちが、ちぐはぐな共同生活を送る』のもファイズらしさの再現だろう。

真理の飛び降り自殺未遂や、草加が真理をビンタするシーンなど、セルフパロディ的なシーンもある。

とくにプログラムが発動して戦闘マシーンとなった草加が、真理をビンタしたことでかつての記憶が一時的にでも蘇るのは、まさに草加自身の持つ意思がアンドロイドとしての命令に抗おうとした証でもある。
(これは演者である村上幸平氏が演技プランを考えた)

また、変化を利用した逆説的なファイズらしさというのも、パラリゲにはあった。
ファイズネクストのごつい、進化しているけど何かファイズとは違うデザイン。
しれっと通常装備にファイズブラスターを使っていて、その強さは否応なしに伝わってくる。

そしてワンタッチであのアクセルフォームまで発動できる。
けどこの演出はちょっと我々の知るアクセルフォームとはちょっと違うかな~?
いや、これはこれで悪くないんだけどね? でもね、ほら、なんかデザインもさ……。

そんな感じでファイズだし、スマホの新型も嬉しいけど、やっぱこれ何か違うよねぇと感じてしまう。
しかしこれは、(少なくともネクストファイズのデザインは)明らかな演出プランだったと思い知らされる。

終盤で巧がかつてのファイズに変身したら、あのスタイリッシュな格好良さがものすごく際立ったのだ。『これこれ! これがファイズだよ!!』と思った者は大勢いる(確信)。

しかも菊池啓太郎の甥である条太郎が、ファイズのケースを持って来るのもすごく大事。この画というかイメージが超大事。わかってるじゃねーかでファンの間で解釈一致。

そして巧の「俺はやっぱり、こっちでいくぜ」で我々は「やっぱりたっくんはこうじゃなくっちゃ!」と心の啓太郎が炸裂。

さらにはファイズの窮地に駆けつけるのはあのオートバジン!
巧は昔からバジンに対しては言葉数が少ないけど、そこから滲むツンデレな感情。

この畳みかけに強烈なファイズ感を見出すのだ。

差別というテーマ性でみたファイズ

生存競争が生む差別

ファイズにおける差別観というのは、一見わかりやすそうで非情に難しい部分であるとわたしは思う。
なぜならば、視聴者からしても多くの目にはオルフェノクが『わかりやすい悪』として映るからだ。

人から蘇生して人外の怪物になり、本能的とも言える衝動から人を殺傷する。
根底にある問題が大き過ぎて明確な解決方法もないため、人間とオルフェノクの和解はかなり難しい。

しかしながら、『だからオルフェノクは全て倒すべきだ』という意見も、決して根本的には解決にならない。
オルフェノクは生まれたくて生まれるものでもなく、発生自体がランダムだからだ。

また、人間の心を維持して社会性を持ったオルフェノクたちも、少数とはいえ確かに存在している。

時間をかけて人間性の喪失を解決する方法が見つかれば、寿命の延長や超人的な能力による社会の発展など、得られる恩恵もかなり大きい。
まさに人類の進化形となり得る存在だ。

これはリアルにある事象から補助線を引くと、問題の解像度が上がる。
現代でかなり近い立ち位置にあるのは『生成AI』だとわたしは思う。

生成AIは文章のイラストの生成において、これからの進化の可能性も踏まえれば、確実に人類を新たなステージに引き上げるツールだ。
しかし著作権による倫理的な問題や、便利過ぎるが故の深刻な悪用などの問題が後を絶たない。

そのため、生成AIは絶対に使うべきではない。存在してはならない違法ツールとして抹消すべきだという過激な声も少なからず存在する。

けれど一度生まれた高度な技術は現実的に消すことはできず、むしろ発展を繰り返して、徐々に浸透していっているのが現実だ。

強調しておくが、これはイデオロギーの問題であり、どちらが絶対的に正しいという話ではない。

それでも事実として、一年にも満たない期間で否定する側と推進する側の間には深い溝ができ上がった。
彼らが和解することは事実上不可能なぐらいに、互いの悪い面ばかりを上げへつらい誹謗中傷し合っている。

人間とオルフェノクの関係もこれと同じだ。
オルフェノクがその力で老人を助けても、すぐさま害獣のように通報されてしまう。

海堂は人を襲うオルフェノクだって、自分たちが先に出会っていれば変えられたかもしれないと言った。
だが、ランダムに発生して即人を襲う習性がある以上、それは現実的な対応ではない

片や目の前の脅威と問題から強い拒絶反応を示し、片や起こっている問題に目を瞑り理想の未来像をゴール地点とする。

真に大切なものは互いの歩み寄りと対話なのだが、それを唱える者の言葉は、対立し合う者たちの耳に届かない。

これもそっくりそのまま現在の生成AI界隈で起きていることだ。

そう言った中立意見は両サイドがそれぞれ自分の都合の良いように解釈し、攻撃材料にしてしまうからだ。そして、両サイドからの攻撃も当然のように浴びる。

これは以前の木場たちも立場に通じる。
人とオルフェノクの間に立てば利用されるし、どちらからも攻撃対象になってしまう。

パラダイス・ロストではオルフェノクが優勢と化し、人類を滅亡させようと追い立てた。
パラダイス・リゲインドは人類が優勢な世界で、オルフェノクをあぶり出し潰していく。

正解がない問題においては、優勢な側が不利な側を虐げる。
折り合いの付かない生存競争は多数派が社会の正義であり、同時にそうした構造自体が差別を生み出すのだ。

差別とは感覚が生む忌避感

人間は、一度感覚的に不浄なもの受けいられない者と感じると、そこに忌避感が生じる。
園田真理は、人間でありながらオルフェノクと和解して庇護する存在だ。

しかしその根底からオルフェノクに対する忌避感が完全に消えることはない。
パラダイス・ロストやTV本編では、巧がオルフェノクだと言われる(その事実に直面すると)強い拒絶を示した。

わかり合いたいと思う気持ちと、一度生まれた忌避感は人間の中で矛盾せず両立してしまう。

真理がラストで、「条太郎もオルフェノクになればいい」と軽口を叩けるのは、自分がオルフェノクになり、それを受け入れられたからだ。

これも現実を補助線とすればわかりやすい。
かつてオタクと呼ばれた者たちは、世間からすれば犯罪者予備軍や気持ち悪い連中として、当たり前のように思われていた。

そしてオタクたち自身も、美少女アニメやボーイズラブなどを嗜む自分たちを自虐的に扱う傾向が強い。
気持ち悪い趣味を楽しむ者として、罪悪感をその内に抱いているからだ。

人間サイドで戦い続けながら、オルフェノクであることを隠し続けた巧がこの立ち位置にあった。
自分は違うと思っても、何度人間を助けても、オルフェノクであるだけで十字架を背負うことになる。

忌避感や罪悪感は、それがあった時代を生きた者たちならば、現代でも引きずり続けてしまう。
薄れさせることはできても、当時抱いた感覚をゼロにするのは非情に難しい。

できるのは現在の価値観として、その時代の主流を受け入れることだけだ。そして、その感情を次に引き継がせない。

結局のところ、唯一差別感情を持たないのは、最初から差別があった時代を生きていない者。
差別があったという事実は受け継いでも、抱いていた感情が新世代に共感できないものになった時、初めて差別は過去の遺物になる。

壊れてもなお続く夢の本質

乾巧と真理の夢はもう壊れている

乾巧は最終回で、世界中の洗濯物を真っ白にする夢を見つける。
平成ライダーVS昭和ライダーでも、その夢を叶えるように流しのクリーニング屋をしていた(流しでクリーニング屋どうやるんだろう……)。

それは当然比喩ではある。
世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、みんなが幸せになれる。そんな理想を抱いていた。
しかし二十年も菊池クリーニングで働いていたのだから、そこが拠点であり初心なのだ。

けれど、ずっと戦い続けてきた巧の身体は数年前、ついに限界が来てしまう。
洗濯物に触れれば灰で汚れる。巧にはもう白き夢の続きは見られない。

もう誰かを守ることもできない。
死という終わりを迎える。

だから巧は真理たちの元を去り、静かにひっそりと自分の人生を終わらせることを選んだ。

けれど真理は菊池クリーニングを続けて巧を待ちながら、人の心を持つオルフェノクを庇護する道を選ぶ。

人手が多いとも言えない中で、巧の帰る場所である菊池クリーニングを守る。
さらにオルフェノクを庇護する役目まで持ってしまったら、美容師を続けることは難しいだろう。自分の店を持つなんてもっての外。

真理もまた、必然的に自分の夢を諦めている。
それでも、オルフェノクを庇護していれば、また巧と会えるのではないかと願ったのだ。

けど、少なくとも巧が真理に対して願っていたことではない。
それは巧と真理が長く続けてきた曖昧な関係性からも明らかなのだ。

家族であって恋人ではない関係

巧が姿を消した理由を、海堂は真理が肉体関係を許さなかったからだと非難した。
それが原因だったわけではないにせよ、その事実自体は真理も否定していない。

草加雅人とも同じく曖昧な関係性のまま、三人は長い間過ごしていた。
逆に言えば、彼らは十年以上を過ごせるポジションをそこに確立していたとも言える。

草加と真理は、最近になるまで真理が一定の距離感を保っていたのは想像に難くない。
ならば巧と真理はどうだろうか。おそらくはお互いに肉体関係を望まなかった。

少なくとも真理にとって巧も草加ももうとっくに家族だ。どちらかとくっつけば、それは崩壊するだろう。
そして巧から真理に迫ったこともなく、だから真理も無理に関係を進ませようとしなかったのではないか。

巧は不器用ながらも、年を重ねたことで人間的な落ち着きを得た。真理との会話でも、昔よりはずっと素直に自分の意思を伝えるようになっている。

真理もまた、一人で散歩に行くと言った巧を無理に引き留めたり、理由を強く問いただしたりしない。ただ、その雰囲気から彼の気持ちを汲み取り、引き留める意味を込めてマヨネーズのお使いを頼んだ。

お互い、もうとっくにそういう大人の気遣いができるようになっているのがわかる。
だからこそ、二人の関係が止まっているのは、お互いにそういう雰囲気の意図を汲んでのことだ。

巧は真理に『普通』の人生を送り、幸せになってもらいたかった。
オルフェノクでありファイズとしてあまりに多くの死に触れてきた巧では、真理を普通の幸せは与えられない。

かと言って真理には真理の意思があり、巧はそれを尊重した。大人だからこそ、強くぶつかり合うことも減り、互いの距離感を自然と測れるようになる。
(そこには当然草加も含まれる)

だから、二人の関係はそこで停止していた。

絶望の中で二人は結ばれたワケ

巧は一度死んでオルフェノクになった。
そこからファイズとしての戦いで、仲間たちと出会い、多くの死をみてきた。

そしてついに自分の番が回ってくる。
死ぬはずだった巧は、けれどもスマートブレインの手で命を長らえた。

目前に迫る死を、巧は満足して受け入れようとしていたわけでは決してない。
満足に大往生した気分なら、それこそ真理に看取られて逝くことを望んだはずだ。
死の間際の巧には無念がみえた。

その後、スマートブレインに助けられて、それを強く拒絶する様子は見せていない。むしろ従順に従っている。
かと言って、強く生き続けることを望んでいたかと言えば、それもまたノーだ。

胡桃玲菜が延命措置用の薬を打とうとしたら、巧はそれを拒んでいる。
死にたいなら完全に裏切った振りをしてカイザに倒されるなり、スマートブレイン側を裏切って処刑されるなりすればいい。
そうもせず、ただ中途半端にスマートブレインの命令に従う。

死ぬのは恐いけど生きたい欲求もない。
今自分が生きているのか、死んでいるのか。それすらもうよくわからない。

戦いと死を浴びすぎた心はもう疲れ果て、思考停止して命令に従い、また眠るを繰り返す。
失意の中で、ただそれだけの存在になろうとしていた。

そんな中で真理がオルフェノクとして覚醒する。
しかも彼女は殺戮衝動に翻弄され、自分が異形の存在になった事実に狼狽して、自ら命を絶とうとした。

真理は真理で、自分に恐怖した。畏怖した。それは理屈じゃないとハッキリ言っている。
オルフェノクを庇護しながら、自分はオルフェノクとして生きたくない。自分の矛盾に自覚的で、人を襲わないために死ぬことすら選べない。

真理もまた深い闇に沈んでいった。
巧は真理を説得しようとするが、心が死人の男に言われたくないと突っぱねる。

もうお互いに、夢も壊れて願った道は何処もない。
そうなってようやく、巧は真理を求めた。助けてくれと彼女に縋った。

これは先に語った差別の問題にも関わる皮肉だ。
真理が自分と同じオルフェノクとなって、普通の幸せを選べなくなったことで、ようやく自分の心の内を吐露できた。罪悪感を乗り越えて、彼女を求める言葉が言えた。

真理もまた、巧を受け入れた。
本心の悲鳴を聞いた巧を放ってはおけない。
だけど自分も失意の底にいる。
互いに、互いを慰め合う。

家族の愛か。
男女の愛か。
どっちともとれるし、そうじゃないとも取れる。

ただ言えることは、今この状態だから互いに求め合っている。
だから交じり合う二人の姿はオルフェノク同士なのだ。

NEXT φ's

身体を重ね合った巧と真理は、何かが解決しただろうか。それは否だ。

延命しなければ巧の命はどう足掻いても長くないだろう。生命線は流石にその場の気休めだ。

真理の衝動はとりあえず収まったが、今後また再発するかもしれない。
海堂という異常ケースが生き残ったせいで麻痺しがちだが、オルフェノクの制御がいかに難しいかは、木場がこれ以上なく証明している。

脚本の井上敏樹氏は、差別がファイズのテーマだと語った。
そしてファンの間では、ファイズは夢の重要性を強く語られる。

どちらも決して間違っていない。けれど、その上でわたしは『旅』こそがファイズのテーマであると思う。

身体を重ねても、二人はまだ迷いの中。
真理は答えを巧に問う。考え続けることが答えと巧は答える。

はぐらかしている。誤魔化している。
巧はそれを否定しない。
巧自身にもきっと本当の答えなんてわかっていないからだ。

二人とも、もう愛や恋ですべてが解決したような気持ちになれる年でもないのだ。

そもそも巧と真理の関係だって未だに明確なものではない。

ただ、また前は向けた。
夜空を眺めれば、星が綺麗で、自分たちの悩みなんてちっぽけに思えたから。

彼らはこれからも答えを探し続ける。
懐かしい未来の光景を食卓に写しながら。

ここはまだ、旅の途中。


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