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平成仮面ライダーシリーズが今みたいに安定化しておらず、特に挑戦的だった頃、あえて日朝の枠から外れてゴールデンタイムに放送された作品が『仮面ライダー龍騎 スペシャル 13RIDERS』です。
その性質上、13RIDERSはこれまで龍騎を未視聴だった人への導線的役割も担っていました。
一言でいうと、45分間で『龍騎とはこういうものだ』と詰め込んだ作品です。
当時の私は学生でしたが、当時特撮に興味のないクラスメイトの男子達が13RIDERSを観て、『俺の知ってる子供向け特撮と違った!』と興奮気味に龍騎を話題にしているのを眺めて心の中でニヤニヤしておりました。我ながらキモい。
ジオウでライダータイム配信が決定して、今回見直したことで色々語りたい想いがあふれでたので、記事としてまとめました。
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龍騎らしさの集合体
龍騎とは数ある平成仮面ライダーの中でも、特に異彩を放つ作品だ。
クウガに次ぐ特権階級な作品であると考えている。
龍騎は仮面ライダーというブランドのヒーロー性や特別感を徹底的に破壊した。
一般人が自分達の願いを叶えるため、最後の一人になるまで殺し合う。
その願いが切実なものか、欲望を満たすためかは関係ない。
善悪をいっしょくたにした、ヒーローではなく人間の物語が龍騎の真骨頂だ。
13RIDERSには、龍騎らしさの要素は丁寧に全部入っており、これ一本で龍騎という作品の本質は十部理解できる。
導入作品としても非常に優秀だ。
話の密度がかなり高いため、強引な部分は随所にある。
最後の集合シーンとかまさにその極みなのだけど、同時に勢いと特別感もかなりあって善し悪しは意見の別れるところだろう。
ラストのファイナルベントラッシュは絶望しかないが、展開的にはある意味ドリームでテンションが上がる。
他にも時間に対してキャラクターの登場人数が多く、一人単位での掘り下げは流石に弱い。
主人公である城戸真司の掘り下げが中心だ。
その分ストーリー的なブレはなく、非常にわかりやすい構成にはなっていた。
また、テンポのはやさには恩恵もある。
TV本編は全50話という構成上、バトルロワイヤルとしてみると展開の遅い部分がある。
(それを逆手に取ったテコ入れ展開などもあったが)
13RIDERSは良い奴も嫌な奴もパタパタと死んでいく。
むしろTV本編よりもバトルロワイヤルの醍醐味を味わえた。
TV本編視聴者にとっては懐かしいライダー達が、新しい脱落の仕方で消えていく。
特に登場回数が少ないシザースやガイは懐かしさもかなりあった。
魂ウェブ商店限定 SHFiguarts 仮面ライダーシザース
S.H.フィギュアーツ 仮面ライダー龍騎 仮面ライダーガイ(魂ウェブ限定)
特にシザースはそれが顕著だろう。
折角の再登場なのに「ミラーワールドに刑事はいらない」という理由だけで率先して倒されてしまう残念さがたまらない。
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変身者の交代要素
龍騎における仮面ライダーとはミラーワールドで戦う者である。
ライダー達は例外なく、ミラーワールドに住まうモンスターと契約しており、その証としてモンスターのシンボルが入ったデッキケースを得る。
小説版では仮面ライダーではなく『仮面契約者』という設定となっている程だ。
そのため事実上のデッキケースの所有者=仮面ライダーという図式になっており、ライダーという名前の要素は薄い。
またデッキと自分の姿を映すものさえあれば変身できる。他の条件は一切必要ない。
仮面ライダーの特別性を喪失させて既存の仮面ライダーを破壊する要因でもあるのだ。
本作の真司は前任の龍騎が息を引き取る直前にデッキケースを渡される。
物語の最初にデッキケースを譲渡されることで、デッキの受け渡しがルールとして認められていることを明示的に示した。
仮面ライダー龍騎 CSM Vバックル カードデッキ アドベントカード 収納ケースbox ケースのみ
デッキ譲渡による龍騎の引き継ぎは、ラストで蓮のデッキを受け取ることに対する重要な伏線だ。
デッキ所有者によるライダー変更のギミックは後にTV本編でもギミックとして扱われた。
この辺は次回作である仮面ライダー555にも影響を与えているのではなかろうか。
色んな人物達の元を回っていき、ベルトが主人公とすら言われる作品だ。
本作の脚本家も同じ井上氏であることも大きい。
変身アイテムに変身者を限定する特殊性や、登場人物の強い思い入れを示す描写もない。
純粋にただの道具として扱ったのも龍騎が最初だった。
これもやはり、ただの道具をただの人間が使うという図式を作ることで、龍騎という作品からヒーロー性を意図的に消失させている。
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ライダーバトルは現代の競争社会の縮図
13ライダーという番外枠にありながら、龍騎を象徴する名台詞の一つが『人間は皆ライダーなんだよ!』だ。
黒田アーサー氏の演じる高見沢逸郎が、真司へと叩きつけた言葉だ。
大会社の社長で優雅な生活を送っていながらも、ライダーとしてより大きな欲望を叶えるために戦う。
現代社会とは仕事、受験、恋愛。
あらゆるものに競い合いが絡む。
競い合いこそが社会の本質。
それは仮面ライダーの戦いも同じ。
『この世は所詮力のある奴が勝つ』が高見沢の信条である。
なお、本作の中で高見沢の抱く具体的な願いは明かされていないままだ。
それが余計に『信条=欲望』という、権力欲や自己顕示欲を開放している人物像を強調している。
本作限定のキャラクターでありながら、仮面ライダー龍騎における欲望と戦いの本質を突いているため、ビックリするぐらい龍騎世界に馴染んでいる存在だ。
視聴者も気付いていたが、あえて言葉にしてなかった部分をストレートに表現した人間性は、短時間で龍騎を解説する13RIDERSだと出るべくして出たのだろう。
なお、もう一人の富豪である弁護士の北岡秀一は不治の病を患っており、永遠の命を目的に参加している。
共通点がありながら戦う動機は否定し辛い切実さだ。
純然たる欲望である高見沢とは正反対である。
高見沢が変身する仮面ライダーベルデはカメレオンモチーフでかなり特徴的なデザインだ。
主武装はカメレオンの長い舌をイメージしたヨーヨー。
他に自分の姿を消すクリアーベント。
他人の姿をコピーするコピーベント。
どちらも相手を騙し討ちで蹴落とす戦術である。
なお、必殺技であるファイナルベントだけは何故かキン肉ドライバーだった。
変身者と変身後両方のインパクトが強い。
13RIDERSにしか出ていないとは思えないキャラの濃さで印象に残る名キャラクターである。
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コアミラーは龍騎という物語の本質
仮面ライダー龍騎の主人公である城戸真司は、仮面ライダー達の中で他人のために戦う。
バトルロワイヤル自体を止めるために奔走する。
TV本編では、そのくせ他のライダー達が戦う動機を聞いて憤り、しかし否定も仕切れずに迷う。
人を助けたい意思と参加者達の願いで板挟みになりながらもがく。
そういう役回りで、ライダー達の群像劇でもある作品に一本のテーマを通している。
しかしながら13RIDERSではそんな尺はない。
また迷ってもがいて答えを出すというやり方も不可能だ。
だからこそ、これを壊せば戦いを終えられるというわかりやすい舞台装置として『コアミラー』が用意された。
設定的にはパッと見唐突だと思われがちだが、ちゃんと設定を整理すると案外そうでない。
『コアミラー』はモンスターを生み出す能力を有している。
ミラーワールドのモンスターは神崎優衣と神崎士郎が子供の頃に描いた落書きが実体化したものだ。
ならば絵をモンスター化する装置というものは理論上存在していなければおかしい。
ミラーワールドの核とモンスター製造機を一体化させたことで、コアミラーの存在に説得力を付けることに成功した。
真司は最後にコアミラーを破壊するチャンスと本当に破壊するかの選択を迫られる。
破壊の直前に蓮からナイトのデッキケースを受け取り、自分の代わりに戦い恋人の恵理を救ってくれと頼まれてしまう。
デッキの所有者にはそれぞれの願いがある。
デッキを引き継ぐことは願いを受け渡されるメタファーでもある。
蓮から託された力でコアミラーを破壊してもいいのか。
真司の『迷い』がここで選択という具体的な形として表される。
最後の最後で、仮面ライダー龍騎という物語の本質をぶつけてくる上手い構成だ。
なお、地上波での放送当時は『戦いを続ける』と『戦いを止める』の選択が電話投票にて実施され、選ばれた方の結末が放映された。
結末を視聴者に委ねて選択させる。
今思えば、これもまた龍騎らしさを形にしていた演出法だった。
なお、どちらを選んでもバッドエンド一直線に変わりはない。
そしてこの結末は本当に正しかったのか。
その答えは別の物語で語られる、と真の結末はTV版へと委ねられるのである。
これはTV版への導入的な意味合いが強い。
しかし別の側面だと『劇場版』は先行して最終回の物語が語られた。
これで実質二つの結末を視聴者は先に観たことになる。
龍騎にはタイムベントという時間を巻き戻すカードがあり、その登場で龍騎の物語はループしていると暗に解説された。
劇場版も13RIDERSも繰り返しで辿り着いた結末の一つに過ぎない。
やっぱりこれも龍騎のもつ龍騎らしさ『ループ物』としての側面だ。
TV版は果たしてどのような結末になるのか。
分岐したバッドエンドを観たことにより、我々は真の結末を見届けたいという欲求と義務感が生じてくるのだった。
なお、13RIDERSには漫画版も存在する。
こちらもちゃんと二種類のエンディングが用意されていた。
ストーリーの流れは基本的に同じだが、結末部分は異なる。
ある意味、漫画版は漫画版としてちゃんと完結している。
『戦いを続ける』を選択した場合の結末が、ちゃんと描かれていた。
止める側は結末自体が本作と全く違う。
こちらも一つの作品として結構オススメだ。
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