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【感想・考察】仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ 50周年に描いた歴史とテーマの意味

2022年1月14日

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オッサン二人のセンチュリーと若返った本郷猛の繋がり

ビヨジェネのメインテーマは『親子愛』だ。それはもう全編に渡って描かれている。
しかし本作の特色は、これまでにない形で『親子』を描いたことにある。

以前までも劇場版でゲストキャラとして子供が出てくることは多々あった。
これまでの子供ゲストは仮面ライダーに救われる存在、それは『憧れる側』の象徴であり、感情移入するための視点的な役割を果たす。

通常なら子供とその親が出てきたら、慣れたファンだと「ははーん、今回はこの親子を軸にテーマとして描くいつものパターンだな?」と考える。
だが、今回はそれを正面から裏切った。メインは父親の方であり、息子は次の登場がエンディングまで一切ない

前述したがこの父親(百瀬秀夫)の外見は本当に無個性で、その辺見渡したら歩いてそうなくたびれたオッサンだ。
設定も新幹線の整備士で、一般市民の枠からは一切外れない。龍之介のショッカー研究員という特異性に比べて、どこまでも現実的な人間だ。
あまり一般市民過ぎて、一輝との出会いも偶然銭湯にきて落とし物をするご都合主義に頼っている。

仮面ライダーセンチュリーは親子のオッサンズが心を一つに変身する。
まさかの組み合わせ故に意外性はあった。
ただし、同種にはWやビルドがいるのでさして設定として新しいとは言えない上に、圧倒的にむさくるしい。
事前に宣伝されていても全く魅力に感じない。ネタバレをガンガン出してくる仮面ライダーがあえて隠したのも納得だ。

どうしてこんなオッサンが50周年を象徴する仮面ライダーに変身するのか…………ではない。
むしろこんなオッサンが50周年を象徴する仮面ライダーに変身することが最も大事な要素なのだ。

オッサンでもまだ若くちょっとイケてる感のある龍之介は、100年の時間を繋ぐ重要なキャラクターだった。
では、このオッサンとしか言えないオッサンの役割は何か。答えは電車整備士でその辺にいるオッサンだからである。

仮面ライダーセンチュリーは、公開前からそのモチーフに対する考察が行われていた。
ネットでは胸のデザインから、百年と百足を掛けたムカデではないかとの説が有力だったように思う。

だが、全仮面ライダー大投票内において、伊藤英明氏からの質問に、前田拳太郎氏が『バッタ』と返答している。
(ムカデの要素が全くない証拠はないものの)センチュリーのモチーフはバッタ+新幹線であるのは、現在だと疑いようがない。
なんとビヨジェネにおいても、新幹線には単独の解説コーナーがあった程だ。

50年前において、新幹線は市民が使えるほぼ最先端の乗り物であり、同時に当時から見ると未来の世界を思わせる存在でもあった。
それらの懐かしくも未来的なイメージが、仮面ライダーセンチュリーのデザインや、歯車+肉弾戦アクションには反映されていたように見える。

実は、そういう意味でも『現代の最先端と近未来』であるゼロワンとは相性が悪いと思われる。
ディアブロに唯一有効という特殊性を除いて考えると、歯車の演出はシャインシステムや飛電メタルの劣化版になってしまう。
デザイン方向性も相まって、一緒に戦うとセンチュリーの方が古臭く見えてしまうかもしれない。
(デザイン面で最も親和性のある電王はフォームチェンジで最初に消化した)

さて、この懐かしくも未来的なデザインに最も魅力を感じるのは誰だろう?
もちろん小さなお友達が格好いいと盛り上がるデザイン性は大事だ。
新幹線の子供人気はシンカリオンシリーズを代表として未だに衰えておらず、その要素は十分に含まれていると思う。
しかし、こと懐かしさを理解するのは難しい。

それは当時を色濃く思い出せる年代である程に効果的だ。
電車整備士のオッサン秀夫は、子供時代に新幹線を魅力的に感じており、それが現代に繋がっている。
そう、50年前――仮面ライダーが始まった当時に子供だったオッサンにこそ、仮面ライダーセンチュリーは最も刺さり、そして変身したいという思いに駆られるのだ。

そしてもう一つオッサンであることの重要性。それが親子愛のテーマ性にリンクする。
秀夫はどこにでもいるオッサンであると同時に、子供を持つ一般的な父親だ。

龍之介はショッカー研究員として仕事に没頭しており、少年時代に蒸発したことも相まって、子供時代の秀夫に寂しい思いをさせていた。
秀夫は龍之介を毛嫌いしており反面教師にしているが、自分もまた仕事の忙しさから息子との関係が悪くなっている。
むしろ自分が父親と遊んでもらえなかったため、子供との距離感が掴めない言い訳に仕事を使っている節もあった。

ディアブロ完全復活の前にセンチュリーが完成しないと世界終了のお報せなのだが、秀夫は意地を張って協力を拒む。
一家族の不仲と世界の命運を天秤にかけるのはどうかと思わなくもないが、一般市民である秀夫にとっては『いきなりそんなこと言われても』な状態で、実感が沸かないのかもしれない。
後で手遅れになってから猛烈に後悔するタイプのやつだ。

家族の大事さを誰よりよく理解する一輝もまた、ギリギリまで戦いより家族の和解を優先する。
ここは『世界を守る仮面ライダーの使命』と噛み合いが悪く、矛盾すらしている行動だ。

大事の前の小事であり、甘いだろと思う人もいるだろう。
だが、それは『平成ライダーVS昭和ライダー』で本郷猛が激おこした平成ライダーの精神的な弱さに近い。
そして、ここで大事を取るのは昭和ライダー的なメンタリティでもあるだろう。

無論これはどちらが正しい間違いではない。
かつて平成ライダーが昭和ライダーに証明した在り方とは『戦いの中でも、一輪の花を踏みつけない優しさ』なのだから。

相反する二つの軸を、セイバーを『使命』に振ることで矛盾せずに解決している。
令和ライダーによる平成と昭和ハイブリッドな動き。これには本郷猛(旧)もニッコリするに違いない。

そして一輝の奮闘によって作られた場にて、家族仲も無事和解する。
秀夫は子供時代に捨てられたと怒り心頭だったが、真実は違った。
本郷猛の活躍で迷いが生じた龍之介はショッカーから脱走しようとする。
しかし龍之介は捕らえられ、家族を守るために自らがショッカーの実験体となり、結果として未来へと飛ばされたのだった。

秀夫は捨てられたと思っても過去の約束が忘れられず、一緒に乗るはずだった新幹線の切符を未だに持ち歩いていた。
龍之介もまた、息子との絆として同じ切符を肌身離さず持っていたのだ。

二人は、戦いが終われば今度こそ新幹線になろうと約束した。50年を経て息子が整備した新幹線に……。
そして50年の時を経て父親との絆を取り戻した秀夫は、遂に二人で仮面ライダーへと変身する。

龍之介にとっては、かつて自分の悪事で生まれ、その悪を正すために生まれた存在。それが仮面ライダー。
今度は自分が『悪を正す者』となって、自分が原因で起きた100年後の未来に決着を付けた。

しかし、その結果未来が変わり、龍之介は消滅してしまう。
歴史を変えれば、再開した息子との時間も取り戻せない。最初からその覚悟で、龍之介は未来を守っていた。
その間際に本郷猛が現れる。

今度は龍之介の前に、仮面ライダーが己の罪の象徴として現れたのだ。
しかし本郷猛は恨みではなく感謝を伝える。
過去の清算の果て、最後の最後に与えられた被害者にして原点からの『赦し』だった。

そして残された秀夫は、最後の嘘を恨みはしなかった。
龍之介とは遂に果たされた約束を、代わりに息子と果たしたのだ。
父親との和解を経て、彼は息子と向き合えるようになった。それは親としての成長でもある。

父親が守り、己が全うし、息子へと引き継ぐ。
それは本来有り得なかった未来。

本郷猛が藤岡弘、ではなく実子の藤岡真威人になったのも、50年を引き継ぎ未来へと繋げる意思の表れではないだろうか。

仮面ライダー50年の歴史が描きたかった答えはそこにある。
あの頃の子供達――そして現代の父親へと向けた、過去・現在・未来へと繋ぐ親子の物語。

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