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エグゼイドはゲームと医療をテーマに非常にエキサイトしていた作品でしたが、本編終了後の時間軸でも熱い展開を繰り広げてきました。
現在、そのラストを飾るのが小説版のマイティノベルXです。
当作品の時間軸は『ゲンムVSレーザー』から更に三年後。
永夢先生なんと三十路を越えてしまいました。
これはもう医療現場を舞台にした熱いオッサン達の物語である!
(読んでる限りは本編の延長線上でオッサン感皆無)
ここでは未来の話と見せかけてTV本編では語られなかった一番核となる部分。
バグスター誕生の理由と最初のゲーム病発症患者である宝生永夢がそこにどう関わっていたかが語られます。
もちろん皆大好き檀黎斗も、話の中核に関わりまくる。
ラストにして最もコアな部分に触れた物語でした。
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平成ライダー主人公の過去
宝生永夢は世界最初のゲーム病患者で発症原因が檀黎斗だった。
しかもドクターパックマンによる手術を受けている。
これだけ色々重なっているのだから、相応の過去があって然るべきなのである。
しかしこの作品に触れてみるまで、私はそのことをほとんど意識してなかった。
そしてその理由を考えてみたら、一つの結論に辿り着いた。
意外なことに平成ライダーで、過去が深く掘り下げられる主人公は少数派なのだ。
中には元々掘り下げる程の過去がない一般人の主人公もいる。
重要な過去を掘り下げているのに、案外中身がさらっとしているケースも多い。
例えば火野映司は政治家の息子で相当重い過去だったが、それが表に出ても家族について細かな描写がされることはなかった。
映司をパンツ狂いにしたじいちゃんすら、深くは語られていない。
門矢士もこのタイプに該当する。
士の場合だと劇場版で過去の掘り下げはあったが、世界の破壊者であり大ショッカーの大首領という洒落にならない肩書に見合う程だったとは思えない。
左翔太郎や城戸真司のように、そもそも掘り下げるような深い過去がない者もいる。
ビギンズナイトは翔太郎の過去というより、W始まりの物語って感じだ。
過去が深く掘り下げられるのは、フィリップや桐生戦兎のように過去がそのままストーリーの核心に直結しているタイプがほとんど。
(ジオウまで20人もいて思いつく例外は操真晴人ぐらいしかいない)
これらの理由から、宝生永夢の過去もそういうものなのだと、無意識に流してしまっていたのだ。
読んでいてそれはまさに盲点だった。
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宝生永夢と檀黎斗の過去
ノベルXにおける大きな要素は三つある。
その一つが永夢と黎斗の過去である。
永夢は物語の途中気まで、二重人格という側面が強く描かれていた。
そのせいで隠れがちだが、永夢は患者を救うためなら無茶だけでなく意外に冷徹にもなる。
パラドに容赦なく死の恐怖を叩き込んだのがその最たるものだ。
患者の命だけでなく心も救うことを大事にする優しい人物である反面、患者を救う姿勢は頑で、医療に対しては時に狂信的ですらある。
何故、永夢はこういう人間性になったのか。
それが過去を起因とした事件として語られる。
その一連の物語こそがサブタイトルにもなっているマイティノベルXというノベルゲームなのだ。
『マイティノベルX』は、ノベルゲームでありながら小説形式ではない。
過去の映像をリアルに再現し、宝生永夢の過去を追体験するような形で作られている。
ゲームを進めるにつれ重大な過去が明かされ、物語の核となるべき部分に触れていく構成になっているのは、過去の物語でありながら実にゲームらしい構成だった。
また単純に過去話を追っていけばクリアできるヌルゲーでもない。
最初はこれゲームと言えるのだろうかとすら思っていたが、この手腕はまさに檀黎斗の神ワザと言わざるを得ない。
ヒーロー物の主人公は正義感や幅広く受けいられるキャラ性が必要なため、正しすぎることによるステレオタイプな正義から、かえって人間性が薄れてしまうことがよくある。
最初に語ったように、永夢にも漏れずそういう要素はあった。
本作は宝生永夢のドクターとしての正義感や倫理を掘り下げることで、内に秘められていた闇やそこに対する葛藤を描き、彼をヒーローから一人の人間にしたとも言える。
三十路を越えても永夢が目を逸らし続けてきた闇。
そりゃあ相当根深いし、人間性そのものに深く絡んでいるのは当然だ。
その正体はとても人間臭くて、私はむしろこの作品で永夢という人物がかなり好きになった。
逆に子供向けヒーローとしては重すぎる設定でもあるため、これをあえてテレビで出さなかった理由も納得できた。
闇度合いで言えば火野映司に匹敵するクラス。そりゃあ語れないよ。
また永夢の過去を追うと同時に、檀黎斗の過去も語られた。
物語の核心に迫るのならば、当然檀黎斗についても触れねばならない。
なんとノベルXでは、母親でありポッピーピポパポを生み出して消滅した檀櫻子の視点から、檀黎斗についてが語られる。
これまで重要なキーの一つになりつつも深くは触れられなかった。
檀正宗でさえ櫻子に限っては『彼女は心の中で生きている』と共感できる人間らしい視点で語っていた。
そんな彼女がどういう目で黎斗を見ていたのか。
そして父と息子の歪な関係性についても、彼女の目を通して描かれている。
黎斗ファンは、本当にこのシーンだけでマイティのベルXを買う価値は十分にある。
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メインキャラクターと永夢の絆
マイティノベルXの構成で一番面白いのは、永夢の過去でありながら、永夢以外が体験できるという部分にある。
永夢が伏せ続けてきた過去と闇から逃げたため、他の医師やポッピー達が向き合うことになった。
個人的には鏡飛彩の視点による永夢の存在が実に面白い。
飛彩は誰より医者と医療を客観視して職務をこなしている。
一見極端で冷たいと思える思考が、マイティノベルXを通すことで血肉の通った現実的な思想であることが理解できた。
恋人関係を除き、作中一貫して患者に深煎りしないとブレなかった飛彩の在り方だからこそ、語られる持論にかなりの厚みがでている。
あまり自分のことを語らない飛彩の心情は、小説という媒体だからここまで書けたと言っていい。
そんな飛彩が永夢との距離感をどう取って接していたのかも、今回初めて克明に描かれた。
これも患者に深煎りしない主義にしっかりと絡んだ、飛彩なりの仲間意識が垣間見えて実に面白い。
永夢への信頼を寄せながらも自分のスタンスは決して崩さない飛彩の人間性。
これが飛彩本人から語られるとこんなに魅力的になるのかと、ある意味一番の驚きポイントだった。
また他のキャラもそれぞれの視点で永夢との関係性や、永夢がどのような人間に見えていたかを語っている。
同じ永夢という人間を通した話なのに、きちんとそれぞれに抱いている感情が違っていて、その差がストーリーそのものにも反映されている。
マイティノベルXはメインキャラ全体にしっかりとスポットを当てられており、エグゼイドの世界をより深めていることも面白さの一つだ。
宝生永夢と檀黎斗の絆
『ゲンムVSレーザー』では黎斗と貴利矢の、ある意味因縁深い二人の決着が丁寧に描かれていた。
本作では永夢と黎斗に焦点を当てている。
もう『ゲンムVSレーザー』であれだけやりきったのに、まだ何か付けるべき決着があるの?
っと、私も最初は思っていた。
しかし、これがあるのだ。
永夢はTV本編だと黎斗を更生させようとしており、同時にゲーム病患者の一人として治療すると決意を固めていた。
しかしその後に起きた事件によって、黎斗はその枠組みを自ら破壊している。
更生させようという試みは黎斗の脱獄によって失敗に終わった。
ゲーム病の治療についても、『ゲンムVSレーザー』のラストで黎斗は独力による治療法を完成させたのだ。
更生も治療も黎斗にはまるで意味をなさない。
要するに、永夢と黎斗の決着はまだ付いてなかったのである。
根本の問題として、黎斗には真っ当な人間の倫理がまるで通用しない。
まさに自分ルールで生きている上、それを貫いてしまえる才能がある。
この生き様は引導を渡した貴利矢ですら、最後は認めざるを得なかった。
そもそも永夢は医者であり、仮面ライダーは医療だ。
倒すべき敵であると同時に、あくまで永夢は医者として黎斗と向き合う。
しかし黎斗はもう自分で自分を治療可能な上で、バグスターでありながらゲームクリエイターとして成立している。
誰より真摯で狂信的な医者と、ゲームによって命の枠組みすら無意味にしたクリエイター。
永夢が最後に出した結論は、天才ゲーマーらしく、とてもユニークなものだった。
永夢の治療とは心まで救うこと。
医者として信念と矜持を貫いた、心からエキサイトできる結末だったといえる。
後、まさかビリオンやハイパームテキが正面から子供扱いされるようなガシャットがまだ出るとは……。
あれでまだ心が折れない黎斗も相当なものだと思う。
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