ニチアサはジェンダーレスを無視していない
ここから大きなお友達目線強めのお話。
前半は割とニチアサがジェンダーレスに対応することに否定的だと取られやすい切り口だった。
しかしながら、元々仮面ライダーや東映特撮は女の子の存在を無視していない。
古くより仮面ライダーストロンガーの相棒タックルは、女児達の『わたし達もライダーごっこがしたい』という声を聞き届けて誕生した。
ゴレンジャーの女戦士枠はタックルからの系譜だ。
これらは当時の女性の社会進出に対して影響を受けていると思われる。
平成ライダーに入ってからも同様だ。
仮面ライダーのレギュラーヒロイン達は一方的に『女の子らしく』守られるだけの存在は少ない。
むしろ積極的に事件へ関与して、謎の究明や現状打破に大きく貢献するキャラがたくさんいる。
『クウガ』の沢渡桜子は主役の五代雄介の身を案じて見守るだけでなく、古代の超文明に関する謎解きの大部分を担当している。
頼もしい協力者であると共に、作中では自分の意思をハッキリと伝えており、それが破られれば警察相手だろうがめっちゃ怒るシーンもあった。
榎田ひかりは母子家庭で科学警察研究所の責任者という肩書を持つ。
しかし激化していく戦いで子供を顧みられなくなり(クウガでは一般人が大量殺戮されていく)、母親と仕事の責任で板挟みになってしまう。
そして物語終盤に入ると、子供に対して真摯に向き合いながら自分の仕事に誇りを持つ姿を、ライダーの戦いと同じ密度で描いていた。
『アギト』の小沢澄子はステレオタイプの女性観を真っ向から否定しており、焼肉とビールが好物の超エリート。
仮面ライダーに協力どころか、その仮面ライダー自体を開発している。
唯我独尊の天才であり、クールで自立したカッコいい女性そのものだった。
『龍騎』では初の女性ライダーファムが登場する。
けれど彼女、霧島美穂は結婚詐欺師で、姉の命を救うため戦うという独特なキャラクター性だ。
ジェンダーレスという言葉が活発になった近年でも、それらはやはり変わらない。
『ゼロワン』では初のレギュラーで女性ライダーとなった刃唯阿が話題になった。
それだけでなく、中世的な見た目でジェンダーレス設定のアンドロイド『亡』を、無性愛者であることを公表しておりジェンダーレスモデルとして有名な中山咲月氏が演じている。
亡は一人のキャラクターとしても人気を得ており、最終的に初期の予定にはなかった仮面ライダー亡に変身するに至った。
中山氏も亡に対してしっかりと愛着を持っているのは、制作における各コメントからもよくわかる。
メインヒロインのイズは、秘書としてずっと主人公の或人に付き添い支える役割だった。
けれど劇場版では過去のトラウマから過剰にイズを守ろうとする或人に対して、彼女は傍に立って支えるだけでなく、隣に並び共に戦うことを自らの意思で選択した。
スーパー戦隊側もこれは全くもって同様だ。
『魔進戦隊キラメイジャー』の大きな魅力の一つとして、価値観のアップデートを上げる声は多い。
これはジェンダーに限らず、イマドキの多様な価値観、個々の『好き』を大切にして前向きに肯定する。
ちなみに、Twitterでこのお話をした時に、私の元へ直接『東映のテンプレ的な女児向け作品への批判』のツイートはいただいた。
要約した内容は以下。
またはピンク色でレースやらハートなど、「男性から見た女性向け」要素で構成されるせいもある。
まず仮面ライダーでは『キバ』のような一部例外を除けば、基本的に恋愛モノはそれこそベタベタにしか扱わない。
これは仮面ライダーのシリアス寄りな世界観で真っ当に恋愛を描くと生々しいものになってしまうため、意図的にそうしている。
そのため、女性が主役になったところでこの方向性は変わらないだろう。
そも、ベタベタの恋愛というが、女児向け作品でガチの繊細な恋愛モノやって誰が喜ぶのだろうという疑問はある。
『ハグプリ』辺りでは夢をテーマに、恋と夢の間でジレンマに陥るヒロインを描いていた。
これすらベタベタの範疇になるというのなら、もう昼ドラ見てなよと、あえて同じくらい偏見に満ちた言葉を送りたくなる。
実際キバは当時、ニチアサ界の『昼ドラ』と呼ばれたからね!
ピンクに関してもよくある偏見だ。
プリキュアはピンクの主人公が多いとか、そういう部分から切り抜いて発展していった批判なのだと思う。
事実、プリキュアは主役ピンク率が高い。
けれど初期は白黒で、ピンクに至ったのは四作目。
試行錯誤の末に落ち着いた結果であり、これはやはり現代でもピンク好きの女児が多い事実を示している。
女の子=ピンクの偏見があるから選んだのなら、プリキュアは一作目からピンクの主人公であるはずだ。
しかも、これもごく最近、今期のプリキュアにピンクがいない理由としてバッサリ切られている。
ピンクが人気であり多いことを認めた上で、企画段階から「ピンク一色ではなくしたい」と考えられていた。
「自分の『かわいい』を信じなくちゃ!」という台詞にあるよう、多様性を大切にした番組作りによって支えられている。
なお、今年のスーパー戦隊も主役は『赤』という固定概念を覆し、同じく白を基調としたレインボーだ。
逆に、仮面ライダーだと『ピンクは女子の色』という概念は十年以上前に死んでいる。これは先に挙げたプリキュア対決以上に、ファンの間ではあまりにも有名だ。
(というか歴代ライダー順番に並べればすぐわかるレベル)
そして何より来月スタートの新作も、主人公がピンクピンク(物理)している。
出典:仮面ライダーリバイス
これはもはやジェンダーレスとかフェミニズムの勝利とは意味合いが異なる。
自由と個性を武器にしてきた長期シリーズが、そのインフレに足掻いてきた戦いの歴史と積み重ねだ。
そのため長年付き合ってきたライダーファンにとって、ピンク色はもはや特色の一つに過ぎず驚くにも値しない。
それどころか、もはや多様性があり過ぎて、ピンクしか特徴がない程度だと並んだ時に埋もれる。
そろそろ女性主人公の話にも立ち戻るが、カラー話が顕著であるよう仮面ライダーはその成り立ち故に、長らく作品単位で独創性との戦いなのだ。
男児向けという前提があるから女性主人公がいなかっただけで、そういう部分を除けば女性主人公がダメという理由は何処にもない。
そして『ゼロワン』の女性ライダーレギュラー化からわかるように、その敷居も年代を経て徐々に下がってきている。
今回の一件において、ファンからは『いずれ女性ライダーが相棒ポジションになるのは有り得そう』という意見も現実的な話として出ていた。
そういう背景を持ちつつ、大人の女性ファンも昔に比べれば目に見えて増えた。
彼女達の多くは別に『女性主人公』のライダーを強く求めてはいない。
この手の話を問題視するのはほとんどが外野であり、ニチアサ特撮で純粋な視聴者達を中心にした女性蔑視批判の運動が起きたことは私は一度も確認していない。
キラメイブルー推しの女児と同じく、彼女達は仮面ライダーや特撮ヒーローをあるがままに楽しんでいる。
むしろ外野の偏見的な見方は、純粋な女性ファンの肩身を狭くしてしまう可能性だってあるのだ。
(特撮に限らずアニメや漫画でもこういった事象はよく見られる)
同じやるなら無理やり外野の声を拾うより、彼女達がこのまま長く楽しめる環境作りの方が、あらゆる面でずっと建設的だと思う。
また、アマゾンプライムで『アマゾンズ』など大人向け作品も制作されている。
例えば動画配信なら直球の女性主人公の仮面ライダーが出たとしても、恐らく多くのファンは「ついに来た!」と新たな特色として暖かく迎えるだろう。
多くの大人ファンにとって女性主人公は強く忌避するものでもなければ、かと言って無理に求めるものでもない。いずれくるかもしれない選択肢の一つだ。
長々と語ったけれど、結局のところニチアサヒーロー(ヒロイン)作品における多様性とジェンダー観における答えはシンプルである。
女児向けヒロインが新作で脱ピンクして、特撮ヒーローがどピンクであっても驚かれない。ニチアサとはそういうものだ。
[cc id=650]