どうも、ゲタライド(@ridertwsibu)です。

2014年にハリウッドでギャレス版ゴジラが公開され、2021年には『ゴジラVSキングコング』が激闘を繰り広げました。
流石に注目度の高い人気作だけあって、様々な場所で様々なレビューが飛び交っています。
と言ってもまぁ評価そのものは、多くがバカ映画とみるか怪獣プロレスの傑作としてみるかで二分されている感じですが……。

レジェンダリー版ゴジラは全体的に日本オリジナルのゴジラに対するリスペクトも強く、きちんとゴジラとして評価できる良い作品だと思います。
けれど、そのためやはり作品に関するレビューは日本人視点がほとんどです。

いやまあ、ここ日本なので当然と言えば当然なのですが、本作はアメリカ版ゴジラなのですよ。
そしてアメリカの生んだ稀代のモンスターであるキングコングが戦うわけです。

しかもこの組み合わせ自体は元々日本版『キングコング対ゴジラ』から発祥したという、ちょっと複雑な経緯もある作品ですが、至る所に原点の元ネタも散見されました。
つまりアメリカのゴジラファンは、この元ネタがわかって楽しめるということです。

理屈としては当然ですが、少し不可思議ではないでしょうか。
実のところ、ゴジラというコンテンツは日本人が思っている以上にアメリカでは有名です。
なんだったら、名だたる名俳優達と一緒にゴジラのキグルミを並べてもリアリティのあるジョークとして受け入れられるでしょう。

アメリカではゴジラその作品に対する批評や意見交換は盛んに行われています。
古くは1987年に論文が『Cinema Journal』にて掲載され出版されており、日本ですらこの手の論文が書籍として出たのは90年代以降でした。

ゴジラは日本で人気のコンテンツだからハリウッドに引き上げられたのではなく、アメリカ人なら当たり前に知っている怪獣王だからアメリカへの上陸と破壊を望まれたのです。

けれど初期のゴジラは元々日本の反核精神が根っこにあり、第二次世界大戦やそれ以後にアメリカが行った核実験も含めた社会風刺要素も大きい作品でした。
そんなゴジラがどうやって渡米して、受け入れられ、アメリカ文化へと根付くことができたのでしょう?

アメリカから見たゴジラとは? 彼らの目に水爆大怪獣はどのように写っているのか?
本シリーズでは、そういう『アメリカ人から見たゴジラ』の歴史と文化を語りたいと思います。

アメリカのゴジラ浸透度は日本以上?

「アメリカでは、黒澤明や三船敏郎の名前を知らない連中でも、ゴジラは知っているよ」

この発言は、日本へ遠征にきていたとあるアメリカ人の特撮オタクが語ったものだ。
アメリカにとってゴジラは誰でも知ってて当たり前の存在である。

現在はレジェンダリー版ゴジラが『モンスター・ヴァース』シリーズとして大々的に公開されているのだからそりゃそうだろうと思うかもしれないが、これが発されたのはそれよりも遥かに以前だ。
それどころか1998年にハリウッド最初のトライスター版ゴジラが上映されるよりもさらに遡る。1996年に『ゴジラ対デストロイヤー』が公開され、日比谷の劇場街にゴジラの銅像が公開されたばかりの頃だった。

「わざわざ日本にまでやってくるゴジラオタクが大げさに話盛ってるんじゃないの?」と思うかもしれない。
しかしこれは冗談でも何でもなく、純粋な事実だ。

アメリカ人のゴジラ愛は、日本人が思うよりもずっと長く根深い。部分的には日本以上であり、アメリカの歴史ある一文化として成立する。

日本では松井秀喜元野球選手がゴジラという異名で有名だ。
アメリカでは若き日のタイガー・ウッズ氏がメディアに『怪獣王』とよく書き立てられた。

例えば「ウッズはまるでゴジラがゴッサムを蹂躙したように選手権会場を通っていった」とか。
本当にゴジラがゴッサムに来たら、バットマンの心労がMAXなのでやめたげてください。

過去にデビット・ベッカム氏が来日した時、アメリカのある新聞は『こんなにビッグな二足歩行のスターが東京に来たのは、ゴジラがすり足で東京湾の淀んだ水から上陸して以来のこと』と書いたそうだ。
さり気ない東京湾ディスはともかく、アメリカ人にとってゴジラはただの怪獣ではない。たとえ小粋なジョークだとしても、人気絶頂時のベッカム氏に比肩し得るスターなのだ。

それだけでなく、あらゆる物の比喩としてゴジラは日常的に用いられている言葉だ。
ゴジラの『zilla』は『デカい』『法外』『怒りっぽい』の代名詞として一般的に知られている。

ゴジラを連想するくらいデカい丼鉢に入ったラーメンがあれば、それはラーメンズィラだ。
きっとアメリカ人からしたらギャル曾根氏は、毎週ゴジラと戦う勇敢な女戦士だろう。

日本じゃジューンブライドという言葉が有名だけれど、アメリカじゃ結婚が決まった花嫁が横柄になり始めることを『ブライドズィラ』と呼ぶ。

このズィラシリーズ、実際日本人でも自分で確認できる事例もある。
zillaと語尾に付く造語ドメインは世界に1000件ぐらいあり、多分日本で一番有名なのはWebブラウザのFireFoxを開発しているサイトのドメインやアプリに付けられたモジラ(Mozilla)だろう。

1995年に健康活動家達は映画館のポップコーンを塩分と油の化身として「ジャンクフードのゴジラ」と罵倒した。
アメリカ中で巨大サイズのハンバーガーはゴジラバーガーと呼ばれる。
とにかく超が付くほどデカい、スゴい、ヤバいの何れかに該当すればゴジラなのだ。

政治的なメタファーとしてもゴジラは大人気だ。
サムズ・アップしながら溶鉱炉に沈んでいくことでお馴染みのアーノルド・シュワルツェネッガー氏が都知事選に立候補した時、フン族の王『アッティラ・ザ・フン』を文字って『ゴジラ・ザ・フン』と称された。
日本ではシュワちゃんシュワちゃん呼ばれていたけど、アメリカではゴジラだったよ。

大統領選挙でも一騎打ちとなった時に両者の喩えとして『ゴジラかフランケンシュタインかを選ぶようなもの』と表現した。
そのうち海外の評論家まで、アメリカを評価する時にゴジラファクター(人々の生活に軍事的影響を及ぼすの意)と言い出した

マイクロソフトとか独占的な大企業も皆とりあえずゴジラだし、強力なエンジン積んだイカツイ車もゴジラだし、デカい船もゴジラだし、ゴジラ好きがペットにゴジラと付ける現象は各地で散見されている。
それぐらい気軽に使われるのだ。

世界初のトレーディングカードゲームとして超有名な『マジック・ザ・ギャザリング』では、ゴジラをはじめ名だたる怪獣達が他のカードに成り代わってクリーチャー達と激闘を繰り広げた。
アメリカ発のTCGですらこうなのだ。

何かに付けてゴジラは喩えやジョークのネタとして扱われる。
日本じゃ他の言葉が使われるワードですら、アメリカでは日常的にゴジラというワードに置き換えれているのだ。
日常への浸透度は、下手すると日本以上なのではと訝しんでしまう。

しまいには2018年、星座の名前としてNASAが正式にゴジラ座を認定した。
そしてゴジラは星になった。


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