劇場版公開から三ヶ月弱、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』のTV放送がついに開始されました!
ジークアクスはカラーとサンライズがタッグを組み、一部庵野秀明氏が脚本を担当したことでも注目を浴びました。
そのため、ジークアクスではじめてガンダムに触れたという人も少なくありません。
しかし、ここで一つ問題が生じます。
ジークアクスはなんと機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)において、ジオン軍が勝利したIF世界の物語だったのです。
ガンダム作品は原点といえる宇宙世紀シリーズの他に、アナザーセンチュリーと呼ばれる独立した世界観があります。
ガンダムファンの中には、ガンダムはアナザーセンチュリーの作品しか観たことがない人もかなり多いです。
ジークアクスはファーストガンダムを未視聴でも面白い作品構成にはなっていますが、やはり知識はあった方がより深く楽しめるのは事実。
また、ファーストガンダム自体、昭和の子供向けアニメとは到底思えない程に作り込まれた世界観と設定で、ロボットアニメに革命を起こした作品でもあります。
そのため、今回はここを押さえておけば機動戦士ガンダムを未視聴でもジークアクスを1000%楽しめる。なんだったらファーストを視聴していても、知らない人が普通にいる重要部分についての掘り下げた履修解説を行います!
地球とスペースコロニーの関係性
最初に、スタート地点の舞台となったコロニーについての解説をします。
何故人はコロニーに移住するようになったのか、地球との関係性はどうなっているのかを知ることで、ジークアクスの世界観とマチュの心情を理解する手助けになるでしょう。
スペースコロニーの役割と作られた理由
地球では人類の人口増加に歯止めが効かずオーバーフローを起こし、食糧問題や環境破壊なども進んでしまったので、宇宙にお引越しすることになりました。
そのお引越し先として、宇宙でも地球と同じように生活ができるスペースコロニーが作られ、移住が開始した年を宇宙世紀(U.C.)001と年号が改められました。
また、コロニー一つに住める人口数はおよそ一億人程度で、これだけでは全然足りないため、コロニーは宇宙の各所毎に群れをなすようにたくさん作られました。
この群れを一つ単位でサイドと呼び、コロニー単体をバンチと呼びます。
ちなみにマチュが住んでいるサイド6はガンダム本編にも登場しています。
アムロが父親と再会したり、MS越しではなくシャアと直接出会ったのがサイド6の8バンチです。他にも色々あった後半の重要コロニーとして有名です。
(マチュの住んでいるバンチは今のところ明かされていないはず)
サイド毎にコロニー数は違いがあるものの、大雑把に十~数十程度だと思えば問題ありません(コロニー数はそこまで設定に関わってこないため)。
言い換えれば、この世界ではそれだけの人口爆発が起きていたということで、移住開始前は百十億人にまで増えていました。
どうでもいいけど、マチュがあまりにアグレッシブ過ぎるので、一部からサイド6の狂犬と呼ばれてて爆笑しました。
前作の水星の魔女は、コミュ障の温和なたぬき扱いだったのに……。
地球の状況と政府による管理構造
「地球人類が皆コロニーにお引越ししたなら、もう地球はものけの空なの?」と思う人がいるでしょうが、そうはなりませんでした。
そもそも、地球はもうパンパンだから君達は宇宙移民になれと言われて、素直にはいわかりましたという人はほとんどいませんよね。
そのため地球からコロニーへの移住も地球連邦政府によって事実上強制されて進みました。
ところが宇宙世紀開始から半世紀以上経っても、裕福層や政府関係者の多くは、地球へ居残り続けました。
しかも彼らは、地球に住んでいることを一種の特権階級と考えて地球を私物化し、さらに地球からコロニーを支配しようとしました。
そうなると当然、政治や物資補給なども地球側の良いように管理されます。
スペースノイドと呼ばれるになった宇宙移民者達は、そのやり口に対して強い不満や不信感を抱くようになったのです。
いつの時代も政治不信は存在するということですね。
なお、マチュのいる時代はU.C.0085です。85年も経てば当然、コロニー生まれコロニー育ちは大勢います。
マチュも含めたスペースノイドは、長らく国民的に下級扱いされてきて、地球という場所を認識しながらすべてが地球の模倣品の世界で生きてきたのです。
それ自体をコンプレックスや、言葉にし難い窮屈さのように感じていたとしても、思春期ならなおさら不思議ではないでしょう。
ジオンの独立と開戦までの流れ
次は、ジオンという国がどのようにして生まれて、地球連邦と戦争へ至った経緯を解説します。
これは機動戦士ガンダムにおける骨子でありながら、あまり詳しく知らない人も多い部分です。
そして、シャアの重要な設定についても関わってきます。
ジオン公国の成り立ち
地球への不満を爆発させたのが、月の裏側にある地球から最も離れたサイド3でした。
ガンダムでは冒頭のナレーションでサイド3が地球から最も離れたコロニー群であると、しれっと解説がなされます。
これは地味に重要で、地球とサイド間で物資などをやり取りする関係上、当然ながら距離が遠いほど相応にコストがかかります。
(そもそも一分にも満たない戦争の要点を簡潔にまとめた冒頭ナレーションで、わざわざ距離について言及している以上、何の意味もないとは考え難いです)
元々すべてのサイドが地球連邦の支配下にあったことから、サイド3は物資面などで不遇を受けやすい、とりわけ冷遇された環境だった可能性が高いと思われます。
そして思想家、ジオン・ズム・ダイクンがコロニーの自治権を訴えました。
これはサイド3からの支持を得て、盟友のデギン・ザビとその息子ギレン・ザビなどと共に、独立運動を開始しました。
しかしダイクンは志半ばで病によって帰らぬ人となってしまいます。デギンがその後を継ぎ公王となって、ついにサイド3をジオン公国として独立させました。
当然、地球連邦がジオンの独立を快く認めるはずもなく、経済制裁などを実施して明確な敵対関係にありました。
両者の関係は改善されることなく、最終的にジオンが連邦へ宣戦布告して、後に一年戦争と呼ばれる戦いが開始されました。
ザビ家の独裁
ガンダムを知らない人でも、なんとなくジオンの名前と悪者のような扱いを受けている認識はあるかもしれません。
けれど、ここまでを聞くと「戦争の原因は地球連邦の腐敗だよね? ジオン悪者じゃなくない?」と違和感があるでしょう。
ことはそう単純ではありません。
まず、ダイクンの病死はデギンが裏で糸を引いていた策謀によるものでした。
デギンはダイクンの意思を継ぐ振りをして乗っ取りを決行したのです。
あえてジオン公国という名前にしたのは、自分が正統後継者であることを強調する隠れ蓑でした。
そしてデギンはダイクン派を一掃してザビ家による独裁政治を敷くようになりました。
ダイクンは地球連邦と平和的な対話による和解を望んでいましたが、デギンは武力行為も辞さない強硬派であり、地球連邦との戦争準備を進めていったという流れです。
また、デギンの息子ギレンはある意味で父親に輪をかけてヤベー人間でした。
彼はダイクンの思想を過激に捻じ曲げ、『ジオン公国の国民こそ選ばれた優良種だ』というヒトラーの如き選民思想へと国民を誘導します。
この過激思想が後に、戦争を深刻化させる要因の一つになったのは間違いないでしょう。
ザビ家とシャアの関係
政争に敗北したダイクン派の一部はダイクンの実子、兄キャスバル・レム・ダイクンと妹アルテイシアを連れて地球へと脱出しました。
このキャスバルこそがシャア・アズナブルであり、変な仮面で素顔を隠して、ジークアクス第一話でシャアがジオン・ズム・ダイクンの忘れ形見と呼ばれているのはこのためです。
出展:機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-
当然父親が謀殺されたことを知っており、シャアは復讐のためにジオン軍へと入隊しました。
シャアはその天才的なセンスで、二十にして少佐となりエリート街道を歩みますが、これらは出世してザビ家の中枢へと潜り込むための手段に過ぎません。
シャアは単にアムロのライバル的ポジションというだけでなく、機動戦士ガンダム自体がシャアの復讐物語でもあり、裏の主人公とも呼べる存在なのです。
なおアルテイシアは連邦軍へと入隊して、アムロと共に戦う仲間の一人となり、ファースト本編では戦場で兄と再会することになります。
一年戦争の流れと本来の結末
次は、一年戦争自体の解説です。一年戦争の中身は現代のアニメと比較しても非常に複雑で、情報量もとんでもなく多くなります。
しかも、ファースト本編内でも描かれていない部分も多く、全容をきちんと把握できているのはファンの中ですら一部といってもいいぐらいです。
そのため今回はジークアクスに関係がある重要部分。そしてMSなどの兵器面の基礎知識についてを重点的に解説していきます。
モビルスーツが戦場を支配した理由
開戦前の状況からも、地球連邦とジオン公国の国力差はあまりに圧倒的です。
地球連邦はジオン以外の全サイドも管理下にあるわけで、実質ジオンVS地球+全サイドに近い状況でした。
もちろん、そんなことはジオンも事前に折り込み済みで宣戦布告をしています。
この戦局をひっくり返したのは、ジオンが開発していた人型戦闘兵器モビルスーツ(MS)とミノフスキー粒子です。
ジークアクス一話でも名前が出てきたミノフスキー粒子とは、端的に言えば超強力な電磁波妨害が可能な物質です。
機動戦士ガンダムの監督である富野由悠季氏は、アニメでロボット同士が戦闘することに大きな違和感を持っていました。
その最たるものが「巨大ロボットが存在することはジャンル的に大前提としても、そもそも戦争でロボット同士の戦闘が成立しないよね」って事実です。
技術的に発展した戦艦はレーダーで索敵して、互いに遠距離から撃ち合うため、まず映像的に同じフレームに収まりません。潜水艦の戦闘などで、そういった描写を見たことがある人も少なくないでしょう。
ミノフスキー粒子はそういったレーダーや無線のやり取りを封印します。
このため戦艦同士の戦闘ですら、互いの姿を晒しながら撃ち合うことが必要になりました(実際にファーストガンダム内でもこの描写が存在します)。
そこでMSの出番です。
レーダーが使用不能だから目視で射撃しなければならない状態で、強力な火器をまるで人間のように携帯できて小回りが利く機動兵器が、わらわらと纏わりつくように弾薬を叩き込んでくる。
人間と無数の蜂に置き換えれば、どれだけ強力な戦術だったかがわかりやすくなるでしょうか。
連邦軍はこのような戦いを全く想定しておらず、まともな対応策も打てず連敗を重ねることになります。
なお、ミノフスキー粒子に対する余談ですが、戦艦を浮かしたりコロニーの構造内に使われたり、SF的に説明が必要な部分はとりあえずこれ使っとけってぐらい、便利設定として様々な面で活躍することになりました。
ジオンの大罪コロニー落とし
ジオンはMSの運用を軸に、不利を覆すための戦略を打っていきます。その最たるものがブリティッシュ作戦によるコロニー落としでした。
これは現在のジークアクスの設定にも間接的に関わっています。
ジオンは地球連邦だけでなく、連邦側に付いた各サイドにも、開戦から即容赦のない攻撃を加えました。
そしてあろうことか、制圧したコロニーを丸ごと一つ地球へと落としたのです。
出展:機動戦士ガンダム
億単位の人間が生活していた施設ですよ? そのサイズは言わずもがな。コロニーが落ちた地点は地形が大きく変わるレベルの大災害が発生しました。
ある意味で地球を生かすための移民ですらあったのに、その地球を人が住めない場所にしてしまう暴挙。それも人が移民した施設を兵器として使ったわけです。
さらに、ジオンはコロニー内の人間を排除するために毒ガスを使いました。
言うまでもないですが、コロニーは宇宙に浮かぶ密閉された生活空間です。そこに毒ガスを撒くという行為は、明らかに人としてやってはダメなやつです。戦争にもルールがあるとはまさにこのこと。
地球連邦の腐敗が大きな要因を占める一年戦争で、それでもジオンが悪逆非道のそしりを免れない理由が、毒ガスの使用とコロニー落としです。
(毒ガスの使用自体はファースト内で触れられておらず、続編のZガンダムではじめて語られた設定ではあります)
しかも開戦からコロニー落としまではたった一週間の出来事であり、作戦名まで付けられた実に戦略的な攻撃でした。
この後に続いたサイド5によるルウム戦役を経て、すべてのサイドは事実上の壊滅か中立表明をしている状況になり、宇宙の制空権を一気に広げています。
結果として、ジオンと連邦は開戦から僅か一か月あまりで、全人口の半数を死に至らしめました。実数でいえば50億人以上です。このことからも一年戦争の壮絶さが窺えます。
そしてコロニー落としを実行して勝利したジオンは、たとえ同じスペースノイドからであっても、快く迎え入れられるはずはないでしょう。サイド6とジオンの関係が決して良好でないのは、このことからも察せられます。
というか、そんなジオンがサイド6にMSごと侵入してコソコソやっていたら、警戒心MAXで対応されるのは当然ですよね。ここを理解していれば、エグザべ少尉の「サイド6とはお仲間だろ?」の発言がいかに的外れかもよくわかります。
ガンダム誕生と逆転の秘策V作戦
弱小だったはずのジオンからほとんど一方的にボコボコにされ続けた連邦は、逆転の策としてV作戦を発動しました。
平たく言えば、連邦のMS開発計画です。
この作戦で製造されたのが、ガンダム・ガンキャノン・ガンタンクの三種と、母艦ホワイトベース。ガンダムはジオンから白い悪魔呼ばわりされ、ホワイトベースは木馬という俗称が付けられました。
V作戦自体は完成前にシャアが察知して介入したことで、当初の予定とは大幅に軌道修正が入ることになります。
そして、この時に偶然ガンダムに搭乗することになったのが、本来の主人公であり民間人のアムロ・レイでした。
これによって、ようやくMS同士の戦いが成立するようになったのです。
ミノフスキー粒子という設定を前提に置いたことで、宇宙世紀という未来世界の戦いでありながら、中世のような白兵戦を行う理由付けを成立させました。
連邦軍の逆転勝利
ガンダムの存在を感知したジオンは当初、逃亡した新兵器に追撃をかけますが、ホワイトベースは新米クルーばかりの状況で必死に逃げ延びました。
その後、ガンダムは幾度の戦闘を経て連邦と合流。その後も多くの反攻作戦にも参加して目覚ましい戦果を上げています。
しかし、これ自体は逆転の決定打にはなっていませんし、連邦もそこまでガンダムを最後の切り札的な扱いにはしていません。
ガンダム自体は布石の一つであり、真の目的はガンダムのデータを取って量産化することにありました。
ガンダムは所詮たった一機の新兵器でしかありません。どんなにすぐれた戦闘機や戦車が生まれても、それ一つだけで戦争をひっくり返すことは到底できないのと同様です。
そもそも戦争が進むにつれジオンも新兵器を次々に投入しており、ガンダムの性能差は徐々に縮まっていき、最終的には設定上はジオンの主力量産機に性能で劣るようになっています。
むしろ連邦はジオンに植え付けられたガンダムの警戒心や恐怖心を利用して、ガンダム量産化や決戦兵器開発までの囮と時間稼ぎに使いました。
そうして大量生産と実戦投入に成功したのがジムであり、マイルドガンダムみたいな性能と国力任せの物量押しで、連邦は戦況をひっくり返すことに成功しました。
しかし、ジークアクス世界だとガンダムが赤くなってシャアの機体になった時点で、この流れに致命的な失敗が生じたわけです。
モビルスーツとモビルアーマーの違い
ガンダム世界にはモビルスーツの他に、モビルアーマーと呼ばれる機体も存在します。
この二つの違いは、大きく分けて外見上の違いとコンセプトがあります。
外見上は簡単で、おおよそちゃんと人型で小型の機体がモビルスーツ。
人型をしていなくて大型化しているものがモビルアーマー。これで本当におおよそ判別可能です。
ガンダムは時代が進むと戦闘機などに変形するタイプも現れますが、それは概ねMA形態と呼ばれています。
MAはジオンが考えた次世代兵器の開発プランの一つです。
MSの強みはその汎用性でしたが、反面局地的な火力面では難がありました。
そのため火力重視で大型化して開発されたのがMAです。汎用性を捨てた設計なので人型である必要がなくなったとも言えます。
要するに、少人数で運用できる小型戦艦のようなものと思えばわかりやすいかもしれません。実際、大きいものはトコトン大きいのがMAの特徴でもあります。
また、MAは大型化することで、後述するニュータイプ用のサイコミュ機能を搭載できるというメリットも存在します。
そのため、このMAの生産計画を推し進めていたのは、ザビ家の中でもニュータイプの研究を行っていたキシリア・ザビでした。
なお例外の一例として、どう見ても人型じゃないガンタンクがMSに含まれていますが、これはMAの概念が生じる前に連邦軍が作ったMSだからです。
ニュータイプの本質とマチュが体験したキラキラの正体
最後に宇宙世紀ガンダムシリーズにおける重要要素の一つ、ニュータイプについての解説です。
ニュータイプという名称はどこかで聞いたことがあっても、具体的にどのような能力かを説明できる人は少ないでしょう。実はガンダムファンの中ですら、なんとなくこんな感じといった大雑把な把握しかしていない人も多いです。
これはにわかファン的な意味ではなく、ニュータイプというものが概念的で複雑化していることに起因します。
そのため、今回はニュータイプの基本的な部分と、作品テーマ性におけるニュータイプの在り方についてを主に解説します。
ニュータイプ能力の基礎解説
端的に言うと、人類が宇宙に進出したことで獲得し始めた能力です。
感応性が進化して、想念を念波的なものとして送受信できるようになったと言えばわかりやすいでしょうか。
これにより相手の意思を直感で理解して、あたかも未来予知しているかのような挙動をしたり、同じニュータイプ能力者はまるで念話のように言葉や感情を疎通しあったりが可能です。
なお作品単位でニュータイプ能力で出来ることや、ニュータイプ自体への解釈が全然違うことはままあるので、厳密な定義を決めること自体が無駄とも言えます。
今回はあくまで『最初に富野由悠季監督が作った原点的な宇宙世紀シリーズにおけるニュータイプ』として捉えてください。
冨野監督と限定しているのは、同じ宇宙世紀でも監督や作者が違う作品はニュータイプの解釈が別物になることが珍しくないからです。
(なんだったら宇宙世紀シリーズは大河ドラマ要素もあるため、富野監督作品でも時代が変わればニュータイプの認知が風化していて、扱いや価値観が変わります)
ガンダムの中では重要要素の一つなのに、特にわかりにくいのがニュータイプという概念といえるでしょう。
また、ニュータイプはファーストの劇中でエスパーの一種と説明するシーンがあります。
ですがこれはニュータイプがまだ噂程度の存在で、その能力があまり認知されていないため、本質からズレている話になっています。
ニュータイプは特殊な人間だけが使える超常の力ではなく、人類が宇宙に進出して新たに開花した才能の一種と捉えることができます。
だから人間ならば誰でもニュータイプに覚醒する可能性はありますし、その強弱や覚醒する時期も人によって大きく異なります。
一生覚醒しない人も多く、覚醒していても自覚がないケースもあります。ニュータイプ自体が一般認知されていないため、勘が良い程度では、本人や周囲がおかしいと思いもしないのが当たり前です。
ニュータイプの兵器利用
キシリア・ザビはこの特質を兵器利用して、サイコミュと呼ばれる脳波増幅器の製造に成功しています。
これによりビットと呼ばれる兵器を無線で操作し、オールレンジ攻撃が可能となっています。
一年戦争時はサイコミュ関連の装置が結構な巨大さになり、組み込む機体のサイズもある程度大型化するため、基本的にMAへと搭載されていました。
ミノフスキー粒子によってレーダーや通信に大きな制限がある状況だから、なおのこと物理距離を無視できるニュータイプ能力は脅威足り得るのです。
また、機体制御自体も感覚的に操作可能であり、おそらくオメガサイコミュはこの技術によって機体操作を行っているものと思われます。
しかし、サイコミュは増幅された感応波が共振反応を起こして、パイロットへとそのイメージが流れ込む現象が発生することもあります。
第一話でマチュが感じて「よくわかんないけどなんかわかった」キラキラ現象もこの一種でしょう。
なお、頭の部分で光る現象はニュータイプ能力が発動した際によくある演出で、ファンからはニュータイプフラッシュと呼ばれています。
出展:機動戦士ガンダム
出展:機動戦士Gundam GQuuuuuuX
本来ニュータイプは『広大な宇宙で人類が距離や言葉を無視して互いを理解し合える』認知の拡大こそが本質であり、それがこの共振現象を生んでいる要因です。
しかし戦争はその相互理解の力すらを人殺しの兵器に転用して、時に新たな悲劇を起こしてしまう。
人には無限の可能性があり、それでもなお理解し合えない虚しさや無常感の二面性を、ガンダムという作品は描いているのです。
本来のシャアはアムロのNT成長の踏み台になった
最後に、直接ジークアクスには関係ないのですが、知っておくとそのギャップが楽しいので解説しておきます。もしガンダムを直接みたい人はここで読むのを止めても大丈夫です。
ガンダムという作品が他のロボットアニメと大きく異なる革新性の一つが、このニュータイプ能力とアムロ・レイの存在と言っても過言ではありません。
普通ロボットアニメは主人公の精神的な成長こそあれ、最終的には強くなっていく敵への対抗策として、ロボット自体がパワーアップを重ねていきます。
マジンガーZにジェットスクランダーによる飛行パーツが付いたり、ゲッターロボがゲッターロボGに乗り換えたりするようなイメージです。
ファーストガンダムも途中強化パーツによる合体形態こそ発生しましたが、これは本来予定されていたものではなく、人気不振による売上アップのため渋々発生した想定外のものでした。
実際、後半にいくにつれ合体の出番は減っていき、劇場版では完全になかったことになっています。
ジオンも戦争が進むにつれて新兵器を投入していきます。それに対してガンダムはどのような対抗策を打ったのかというと……アムロがそれ以上に化け物染みた強さになっていきました。
それを最もわかりやすく示しているのがシャアです。
アムロは当初こそガンダムの性能に頼った戦いで、性能差で大きく勝るシャアを相手に生き残るだけで必死な状態でした。
しかし、段々とその関係性は逆転していきます。
戦争が進むごとにシャアの機体は性能が上がっていきガンダムとの差は埋まっていくはずなのですが、むしろガンダムと戦っても一方的に負けることが増えていくのです。
特に一年戦争終盤、ジオンの主力機となったMSのゲルググは、量産機でありながらもはや性能はガンダムを上回っています。
そしてシャアは専用のゲルググを操り、既に戦闘で疲弊しているガンダムへ戦闘を仕掛けますが……なんとごく普通に負けました。
その後もガンダムに挑んでは、ニュータイプの僚機に「邪魔です」とまで言われて戦場で戦力外通告までされる始末……。
ニュータイプとして急速に覚醒していったアムロの成長に、シャアは完全に置いていかれたのでした。
最終決戦においてシャアもようやくニュータイプとして明確に覚醒します。さらにサイコミュ搭載のMAジオングに搭乗して、初見殺しに近い新型サイコミュで攻撃するという、おもくそ下駄を履かせてもらった状態でアムロへと挑み、ようやくまともに戦いが成立するようになりました。
実はシャアとアムロの間には、同じニュータイプとしてもそれほどまでに隔絶した差があったのです。
なお、アムロの成長についていけなくなったのはシャアだけではなく、ガンダムもでした。
途中、一度だけ直接的な機体強化がガンダムに施されましたが、これはアムロの反応速度がガンダムを完全に上回ったことに対する緊急措置でした。それもあって外見の変化は皆無です。
いかにアムロがとんでもない存在だったかと、ジークアクスのシャアはどうなのか……という部分を第二話以降で比較してみると面白いことがわかると思います。