この記事を読むとわかること
- 生成AIによる無断学習を妨害するための具体的な対策とその限界
- ノイズやウォーターマーク、分散型SNSの効果とリスクのバランス
- 「AI学習禁止」の明言が依頼主の信頼や依頼獲得に与える影響
近年、AI技術の進化により、無断で学習データとして利用されることに不安を抱くクリエイターが増加しています。これに対抗するためには、AIによる学習を防ぐための対策や、それに伴うリスクの理解が欠かせません。
本記事では、生成AIが学習することを効果的に妨害するための具体的な方法と、それに伴うリスクについて詳しく解説します。著作物を守りたいクリエイターやAI対策に関心のある方は参考にしてください。
生成AIによる無断学習を阻止するための効果的な方法
AIの急速な進化により、クリエイターの作品が学習データとして無断で利用されることを忌避感を持つ人が増えています。
そのため、多くのクリエイターが生成AIの学習を妨害するための手法に関心を持っており、効果的な対策が求められています。
ここでは、AIが画像やテキストを学習しづらくするための具体的な方法について解説します。
ノイズを利用した画像加工による妨害
画像にノイズを加えることは、AIによる学習を妨害するための有効な方法とされています。
具体的には、画像の特定の領域に微細なノイズやデジタルパターンを加えることで、AIが画像を正確に認識しにくくなります。
ノイズ加工に適したツールとしてはGlazeやNightshadeが代表的です。これらのツールでは、ノイズの強度やパターンを調整できるため、特にAIに認識されにくくする効果を高めることが可能です。
LoRA(少数データでの集中学習)i2iでの著作権侵害への対抗手段Lとしては一定の効果が見込める可能性はあります。
ただし、NightshadeやGlazeを低レベルで適用した場合、イラストなどの生成画像においては学習阻害効果があまり見られなかったとの報告もあり、対策としては十分な強度での適用が重要です。
ウォーターマークの設置とその効果
ウォーターマークを画像に挿入することも、学習を妨害するための一般的な方法です。
AIは、著作物に挿入されたウォーターマークを無視して学習することが難しいため、学習者側が意図的に学習対象から除外することを促す効果が期待されます。
しかし、Xやクローラーによる大量の学習対象から必ずしも除外される保証はありません。
また、悪意を持ってLoRAやi2iなどで使用する場合、ウォーターマークは簡単に除去されてしまい、その効果が薄れてしまうリスクがあります。
そのため、ウォーターマークのみでは十分な妨害対策にならないことが多く、他の妨害手法との併用が推奨されます。
ただし、ウォーターマークもランダムかつ複雑な模様でサイズが大きければ除去の難易度は上がります。
当然、その分イラストの視認性は悪くなりますし、SNSなどではリポストや「いいね」を得にくくなるリスクも高いでしょう。
生成AIの学習対象から除外されやすい投稿場所
AIによる無断学習から作品を守るためには、投稿する場所を工夫することも重要です。
特定のプラットフォームでは、著作物が学習データとして使われるリスクが低く、AI学習の対策を意識したクリエイターにとって安心できる投稿環境が整っています。
ここでは、学習対象から外されやすい投稿場所やSNSの活用方法について紹介します。
クリエイター向けプラットフォームを活用する
イラストやデザイン作品をAIの学習から守るためには、クリエイター向けプラットフォームの利用が効果的です。
例えば、pixivやXfolioなどのプラットフォームは、無断学習を禁止するガイドラインを設けており、一定条件の下で著作物を学習データとして使用する行為を禁止しています。
特にXforioは、スクレイピング対策機能があるため、AIによるデータ収集のリスクをさらに減らすことが可能です。
ただし、スクレイピング対策をONにすると、作品が外部検索で表示されなくなるため、Xfolioユーザー以外の人が作品を見ることに大きな制限がかかります。そのため公開範囲には注意が必要です。
分散型SNSは対策として脆弱
Xが規約で投稿したイラストなどを生成AIの学習に利用する規約を明示しました。
これにより他SNSへの移行を検討する人が増えています。その候補としてmisskeyなど分散型SNSを検討する人が増えています。
しかし、分散型SNSの利用は一見AI学習対策に見えますが、実際には十分な対策にはなりません。
分散型SNSであるmisskeyやblueskyなどは複数のサーバーが集まって1つのSNSを形成しています。これがネックです。
例えば、あるサーバー(Aサーバー)で「AI学習禁止」と規約で定められていても、他のサーバー(Bサーバー)がその禁止を設けていなければ、Aサーバーの投稿がBサーバーやCサーバーのユーザーにも見られてしまうため、実質的にAI学習の禁止を徹底できません。
このように分散型SNSは、連合しているサーバー間で利用規約の統一がされておらず、わざわざサーバーごとの利用規約を丁寧に確認する人も稀でしょう。ユーザーが規約を守っていても他サーバーの利用者が意図せずに作品をAI学習に利用するリスクが残ります。
一方で、中央集権型SNSのX(旧Twitter)はX独自のサーバーのみで運営されているため、他SNSとの接続がなく、外部から情報が取得されにくい特徴があります。要はXを除くAIの無断学習の可能性がより少ないと考えられるため、AI学習されたくないユーザーにとっては現実的な選択肢の一つとなるでしょう。
一番無断学習を防ぐ方法はXのアカウントで鍵付きにして、許可した者しか見られなくすることです。その場合は、当然ながら不特定多数の人に作品を見せることはできなくなり、露出の制限はかなり大きくなります。
イラストのサインは妨害効果が低い
イラストのサインは学習側としては、実質的にウォーターマークと近い意味になります。
ただし、ウォーターマークよりも除去はより簡単のため、学習妨害としての効果は不十分です。
サインは無断転載禁止や作者のなりすまし禁止を明示する意図が強く、サインを除去して転載などをした場合は法的にも悪意を持っていると判断しやすくなります。
しかし生成AIの学習としては、サインを除去したか否かの判別を付けることは実質不可能です。
通常の無断転載に比べて、生成AIの学習に対しては効力は弱くなります。
生成AI妨害対策によるリスクと理由
生成AIによる無断学習を妨害するための対策は、著作物保護に役立ちますが、同時にいくつかのリスクや限界も伴います。
こうしたリスクや理由を理解し、適切に対策を行うことが重要です。ここでは、妨害対策によるリスクと限界について解説します。
強すぎるノイズや目立ちすぎるウォーターマークは対策として機能しない
ノイズやウォーターマークを挿入してAI学習を妨害する手法は、画像品質に悪影響を及ぼすことがあり、閲覧者にとって見にくくなるリスクが伴います。
ただし、ノイズを強くしすぎたりウォーターマークを目立たせすぎると、作品自体の見た目が損なわれてしまうため、対策として機能しない場合が多いです。
その一方で、ノイズやウォーターマークが目立たないようにしすぎると学習妨害効果が薄れてしまい、対策として十分ではありません。
電子透かしは簡単に除去され、対策としては不十分
電子透かし(メタデータやウォーターマークを含む)は、AI学習の対策として一定の効果があるものの、スクリーンショットや画像加工で容易に除去されるため、学習妨害策としては不十分です。
悪意を持った学習者がLoRAなどを使用することで電子透かしを簡単に取り除き、著作物を学習データに含めてしまうケースもあるため、他の対策との併用が推奨されます。
学習妨害のための現実的な対策とその課題
学習妨害のためには、信頼できる相手にのみ作品を公開することが有効です。
たとえば、Xfolioへの投稿や、X(旧Twitter)の鍵付きアカウントでの投稿は、特定の信頼できるユーザーのみに作品を公開する方法として有効です。
さらに、Xfolioや鍵付きアカウントを利用することで、外部検索から作品を除外し、AI学習のリスクを低減できます。
ただし、こうした方法を取ると作品が多くの人に見られなくなるため、クリエイターとしての認知度が下がるという課題も生じます。
AI学習禁止の明言は有償依頼を得にくくなる可能性がある
「AI学習禁止」を明言することは、依頼主にとって不安を生じさせ、有償依頼を得にくくする可能性があります。
一部の依頼主からは、生成AI規制派クリエイターへの不信感が広まっています。理由の一つは、反AI姿勢を示すクリエイターがSNSの恩恵を受けながらも、規約に明記されている学習データとして利用されることに強く反対するという相反する態度が見られることです。
こうした矛盾した態度に対して、「自分の利益だけを守ろうとする姿勢」と見なされることがあり、依頼に伴うリスクの高さや信頼性の欠如といった懸念が生まれます。
また、「AI学習禁止」を明言するクリエイターは、実際に著作権や使用権を譲渡しても、その作品の使用や管理に関して依頼主とトラブルになる可能性があると受け取られる可能性もあります。このため、依頼主はトラブルを避けるために、より信頼性が高いと感じるイラストレーターへ依頼を回しやすくなります。
また、生成AIの規制を呼びかける人には、強く攻撃的な言葉を使う人が少なくありません。
こういった発言は誹謗中傷になることも多く、人間性的に問題ありと受け取られる可能性は高いでしょう。事実として、生成AI利用者に対して暴言を吐き、誹謗中傷として認められた判例も複数存在します。
自分の作品や著作権を守りたい意思は大事ですが、やり過ぎる人が多いことから、生成AIの話題に触れることはそれだけでマイナス要因として受け取る人も珍しくないのが現状です。
結果として、こうした要素が依頼主に不安を抱かせ、依頼を避ける傾向につながる可能性があります。
現在、イラストレーターの数は飽和状態にあり、買い手市場となっています。
そのため、依頼主は一定以上のクオリティを満たすイラストレーターを見つけやすく、特に人気が高いイラストレーターでない限りは、依頼主がスムーズなやり取りと信頼性を重視する依頼者は多いのです。
生成AIの学習妨害に有効な方法とリスクのまとめ
生成AIによる無断学習を妨害するための対策には、ノイズやウォーターマークの挿入、スクレイピング対策機能を備えたプラットフォームの利用など、さまざまな方法が考えられますが、それぞれには限界やリスクが伴います。
たとえば、分散型SNSは、サーバーごとの規約が異なるため、他サーバーのユーザーによって学習データに利用されるリスクが残り、対策として十分ではありません。
また、ノイズやウォーターマークは視覚的な影響が避けられず、電子透かしも簡単に除去されてしまうため、単体では十分な対策にはなりません。
さらに、「AI学習禁止」の表明は依頼主からの信頼を損なうリスクもあります。イラストレーターが飽和状態にある現在、依頼主はスムーズなやり取りと信頼性を重視しているため、トラブル回避のため他の信頼できるクリエイターに依頼を回すことも多くなっています。
そのため、学習妨害対策を行う際は、こうしたリスクと効果のバランスを慎重に検討することが必要です。
この記事のまとめ
- 生成AIの無断学習を防ぐための対策とその効果
- 分散型SNSは学習妨害対策として不十分である理由
- 「AI学習禁止」の明言が依頼主の信頼や依頼獲得に与える影響
- トラブルを避けるための信頼重視の投稿方法の提案