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SSSS.DYNAZENON 共感性の群像劇が光る怪獣アニメ【感想・考察】

2021年6月20日

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若者達の共感性と群像劇

『SSSS.DYNAZENON』のあらすじを簡潔にまとめると、ガウマという謎の人物が、突如四人の男女に怪獣と戦う力と使命を与える物語である。
そして蓬、夢芽、暦、ちせの四人はそれぞれが日常に根付く闇やモヤモヤを抱えて生きており、ガウマを『戦い』、蓬を『日常』の主軸に据えて、五人の群像劇として物語は描かれていく。

ここで重要なのはダイナゼノンの特性と、五人が抱える心のモヤモヤだ。
特に偶然出会って近くにいた四人がダイナゼノンのパイロットに選ばれたわけだが、序盤の方でダイナゼノンの操縦は最初に乗り込んだメンバー以外でも可能であると発覚した。
そのため操縦者の練度と、心の結び付きが戦闘に大きな影響を与える。

つまり誰でも良いが協力し合うことで操縦を上達させ、心を一つにする必要があった。
同時に、ガウマを除く四人はそれぞれに他人を避ける傾向と事情があった。

序盤はガウマがを他のメンバーに操縦の練習させる。
けれど事情があるなら仕方ないのでそちらを優先させる。強引なのか物分かりがいいのかわからない行動を取っていた。
パイロットじゃないけど操縦したいちせを例外として、他のメンバーは押しに弱いにので一応協力はするけどそこまで積極的でもない。微妙に嚙み合わない状態だった。

急ごしらえで意思のバラバラなガウマ隊は、互いに理解し合うことでチームとしてまとまっていく。
ガウマは外見がヤンキーで言葉遣いも荒い。何より協力させる割に情報が曖昧で、何かを隠してる節もある。
中心軸が信じきれないためチームもまとまらない。

そんな彼らは戦闘中にガウマの動機を聞いた。
ダイナゼノンはぶっちゃけ惚れた女から渡された力で、彼女を探して再会するために戦っている。

特に『女』というワードを聞いた瞬間全員が「あぁ、なるほどねぇ」というニュアンスの「あー」を漏らした。
しかしこの「あー」は呆れではない。なんかわけわかんない奴だった男に『好きな人に会いたい』という俗っぽい理由がみえて、ようやく自分達の理解できる存在になった。
「こいつの気持ちわかるわー」の「あー」でもある。理解することで共感性が芽生えたのだ。
この共感性こそが本作の重要なテーマであると私は考えている。

意外にも序盤で一番非協力的だったのは蓬である。
理由はダイナゼノンそのものよりも、家庭環境に対するストレスが原因だ。
父親は早くに離婚しており、知らない男が父親として徐々に日常へ入り込んでくる。
それそのものは強く反対できないが、今も父親と交流のある蓬は精神的に再婚相手を受け入れられない。そのためバイトで貯金して早く家を出ることを目標とした。

独り立ちして考えれば『有り』の行動であり、誰かに否定されるようなことではない。
けれど見方を変えれば忌避感からの逃げ先としてバイトを選んだとも言える。
蓬にとってバイトは前向きな現実逃避であり、ダイナゼノンや他人との関りを避ける口実もバイトになった。

そうさせねえと蓬のグイグイ生活空間に入り込んできたガウマの対応は一見かなりウザい。
けれど蓬の性質は『表面上のみ他人に合わせること』であるため、関わり方として実は正しかったと言える。

夢芽は男子を呼び出してはすっぽかす謎の奇行に走るため、学校でも嘘つき扱いされている。
蓬も最初はその被害者として関りを持ち始める。独特で取っつきにくいマイペースな少女だった。

しかしガウマの指示されれば蓬のお見舞いに行き、ダイナゼノンに乗って戦うことが必要なら案外素直に従う。一見性格に合わない行動を取っている。

姉の香乃が死んだことである種の人間不信に陥っていた。
自分から約束をしてあえてすっぽかす行為は、人を信用しようとしながら恐くなって逃げる。姉を理解したいが現実に向き合いたくない心が奇行に繋がっていたと徐々にわかってくる。

過去の世界に飛ぶと、香乃からは他人に合わせて頼ることができる性格を羨ましがられ、同時に疎まれてもいた。
友達の証言から元々他人の意見に左右されない性格ではあったらしい。
それでも夢芽だったが『どうかしてしまった』のは後天的なことであり、本質は他人に自分を合わせられる。

故に昔馴染みの友達とは割とべったりであり、花火大会では蓬を誘導して密かに着物まで用意している。
疎遠になった香乃へ自分から関りを持とうとしていたことからも、特定の相手には人懐っこい性格だった面が見え隠れしていた。

夢芽に騙された蓬は、彼女に関心を持ったが必要以上に追及はしなかった。
それは彼なりの優しさでもあるだろうけれど、同時に表面上だけ理解を示して距離を取る悪癖でもある。

代わりにガウマが怒り追及して、その後お見舞いを経て二人だけで関りを持つようになった。
二人は友達以上恋人未満の距離感で香乃の死の真相を追う。

それが『イジメかもしれないしそうじゃないかもしれない』微妙なものだった方向に進む。
夢芽はどう消化していいかわからず自分の中に溜め込んで塞ぎ込んでしまい、二人の間にも微妙な溝ができ始める。

その溝を埋めたのが蓬の涙だった。
彼は自分のことのように夢芽が突き当たった事実を悲しんだ。
興味本位に他人事へ首を突っ込んだわけではない。本当に一緒に悲しみ一緒に悩んでくれる。そんな心優しい蓬だからこそ夢芽は再び心を開いた。

共感すること。
頼り頼られ、理解し合う。そうして少しずつ心を一つにしていく。
こうしてガウマ隊はチームとして固い絆で結ばれていった。

ダイナゼノンはガウマと蓬を主軸にした群像劇として描かれている。
しかし実はメイン五人の中でしっかりと過去を描かれているのは夢芽だけだ。

残りのメンバーは断片的な情報のみをばら撒いて何があったかを想像させる手法を取っている。
面白いのはこれでなんとなく原因と結果の因果関係を持たせ想像できていることだろう。
(ボイスドラマで部分的な補足解説はしているが、それを観ていなくても特に支障はなく物語は理解できる)

暦は自堕落なニート生活だが、稲本さんとの間に起きた何かが、引きこもりの切っ掛けになっているのではないかと想像させた。
結局のところニートになった直接的な要因は定かではないが、札束発見の秘密を共有した時に逃げてしまったことが未だに尾を引いている

ちせの不登校は学校から受けた疎外感で、同じはぐれ者の暦を先輩と呼ぶ理由はなんとなく察せられる。

それぞれがバラバラに抱えた問題であり、実は本編中においてこれらの問題には劇的な変化は起こらない。
ただガウマという軸を通して、少しずつ絡み合い結束を強めていく。

ダイナゼノンを通じて、共感して、理解し合って、絆を繋ぐ。
それがガウマ隊であり、彼らの紡ぐ物語の本質なのだ。

【次ページ:怪獣優生思想の本質とは?】

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