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平成ライダー史 仮面ライダークウガ『新たな伝説を創った者達』感想・考察

2020年4月28日

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壊すものと守るもの

昭和から蓄積されてきた仮面ライダー観は素晴らしい功績ではあるものの、時代が進みいつしか変えられない思想が足を引っ張るようになってしまった。
そういう現状を打破するためにクウガは全てを変えて生まれ変わらせた。

けれど、本当に何から何まで変えてしまったのでは、失ってはならない仮面ライダーらしさまで喪失してしまう。
ならば仮面ライダーとは何か。それを模索するため表面的な設定ではなく本質的な部分に切り込んでいった。
そうして作り込まれたからからこそ、クウガは変えるべきものは全部変えた初代仮面ライダーのオマージュとしても完成している。

悪の秘密結社も戦闘員も改造手術さえ必要ない。
それでも大切だったもの。それはいかにヒーロー足り得るかであり、仮面ライダーという作品に対するリスペクトだった。

戦隊でも宇宙刑事でもない。仮面ライダーらしさ。切り落として探って形にしたもの。
それが『本郷猛と滝和也』。男と男のツーショットだった。
「滝!」「本郷!」と信頼を込めて呼び合う姿に、かつての子供達は日常と地続きの大人っぽさを感じていたのではないかと、高寺Pは考えた。

特に滝はどれだけ有能であっても変身しない生身の人間。
仮面ライダーとは異形の存在だ。それを際立たせるのは悪や改造手術ではなく『普通』であること。

警察という本物の平和維持組織がクウガに頼らざるを得ない。その状況がクウガとグロンギが異質な存在であることを際立たせる。
そして五代はどれだけ異常に強くなっていっても、むしろなっていくからこそ、彼には共にある『普通』が必要なのだ。

椿だってそうだろう。彼には医者としての知識と技術があり、五代の身体が変わっていくことに最後まで警鐘を鳴らして心配し続けた。
それによって視聴者は『そんなに危険なことになっているんだ』とリアリティのある危機感を得られた。

それ以外でも、クウガはとても『日常』を大事にしている。
おやっさん、桜子さん、みのりといったメインだけでなく、保育園の子供達。ジャンはグローバル化していく日本を示す存在だったろう。

クウガとは本来争いを好まないリントを、グロンギに近付け対抗するための力だ。
改造人間ではなくなっても、敵と同じ力を使う形式にして残っている。
仮面ライダーとは怪人と同じく異形の存在。そして異形を際立たせるために日常を通してリアルな社会に描いたのだ。

他の設定面については、販促やアクションなど様々な要素との兼ね合いも多くなる。
仮面ライダーと言えばバイク。クウガはバイクアクションもかなり重要視している。
というか、全仮面ライダー合わせてここまでバイクを極めた作品は他にないのでは? というぐらいに多彩なアクションとギミックが盛り込まれている。

乗る時はとことん乗る。バイクが生きているかのように跳ねる! 階段があろうが敵と戦いながらだろうが意地でも下りない!
そのままバイクで打撃まで繰り出す。五代持つ2000の技にバイクの運転技術が含まれているのは疑いようもないだろう。
更にはゴウラムによる強化で体当たりが必殺技となり、敵を撃破地点まで誘導するなど役割も多い。

クウガのバイクは警察からの支給であることから、無線連絡といった設定上の機能性も有している……だけでなく、ヒーローらしい色替え機能まで付いている。
流石にこの辺はリアリティより販促優先の側面もあるが、バイクに対する気遣いは平成ライダーでも他の追随を許さない。

販促と言えばフォームチェンジによる多彩な武器の変更も大きな魅力だ。
クウガは企画段階だと、後半はグロンギベルトで変身する二号ライダー案もあった。
結局採用はされず、これがクウガのフォームチェンジ案へと繋がっている。
(雑誌だとクウガの改造フィギュアで、警察の科学力で二号ライダーに変身した一条をイメージがあった。これが青いパワードスーツなので偶々G3とソックリになってたそうな)

後半ではストロンガーのチャージアップのように、時間制限のある強化ライジングが登場した。
そしてライジングフォームの登場は、凄まじき戦士、アルティメットの伏線としても機能する。
(30秒制限→無制限→アメイジングマイティと変革していく)
段階的に強くなっていくのは平成ライダーのお約束だが、クウガの場合はアルティメット有りきで『禁断の到達点』を引き出されていくのだ。

こういう子供心をくすぐる仕掛けで玩具もかなり売れた。
アギト制作に至った理由は単に視聴率だけではなく、玩具の売上アップが決め手である。
(前作のロボコンも視聴率は良かったが玩具はあまり売れなかった)

ただし、やり逃げ前提だったクウガは、実のところ現代程玩具を売ることに力を入れていたわけではない。
その最たるものが『劇中で仮面ライダーと呼んでくれない問題』である。

新作の仮面ライダーを売り込んでいるのだから、スポンサーとしては気が気じゃない。仮面ライダーって呼んでよ。いつ呼んでくれるの? ねえ! ってなる。そりゃなる。最後まで呼ばれなかったけどね!
それどころかクウガすらさほど呼ばれず、未確認生命体4号とか4号が基本だった。

何しろフォームチェンジ名すら出てこない。
これは一応桜子が命名する予定は脚本上あったのだけど、尺の都合で結局はカットされてなくなった。
呼ぶから、もう少しで呼びますからと言っておいてこの所業。販促ってなんだっけ。

元々クウガの最強フォームはライジングになる予定だったが、スポンサーから新フォームを要求されてアルティメットが構想に加わった。
(先代クウガがどうやってゴ集団封印できたのか、諸々の理由はここら辺が関わってそうなだなと思う)
そして過程としてアメイジングマイティが差し込まれた経緯がある。

ちなみにスポンサーのバンダイもアメイジングマイティの登場を聞かされておらず激怒したという逸話があるが、これは正確に言うと誤情報。
アルティメット出すべき時期になんでアメイジング出してるの? という疑義で内部でのホウレンソウ漏れがあったのかもしれないとのこと。

スポンサーと揉めたのは別案件。
元々アメイジングはライジングのカラーを黒に変えるのみだったのが、アメイジングマイティキックは両足でガドルを倒す方が理に適うという理由でデザイン変更が入った。
けれど、これによりフィギュアの金型を変更する必要が出たためイザコザが起きたというのが真実だ。

しかもアルティメットすら登場は最終決戦のみ。
そもそもアルティメットはクリスマス商戦用であり、子供達の元へ届いた段階ではまだ未登場。これは実際に売上へも響いたようだ。

ゴウラムの最終強化も終盤一戦のみだったことからも、玩具の販促期間を想定にした構成になっているとは考え難い。
逆に言えば、大量フォームチェンジアイテムが当たり前になった後年では考えられない販促手法でも、大きな売上が出るくらい画期的だった証左だろう。

こうしてクウガは諸問題を抱えながらも、人気のうちにその幕を閉じる。
一切戦闘がなく主人公の出番すら極わずかな最終話は、クウガが残した伝説の一つだ。あんなの二度とできるか。

むしろ一度きりとはいえやれてしまったのは、やはりクウガの物語が何より日常を大切にしていたから。
五代雄介はたった一人の仮面ライダーだったが、決して一人ぼっちではなかった。

周りにはたくさんの人がいて、五代はいつも笑顔を振りまき皆を元気付けた。
そして皆も必死に五代を支える。それがクウガの物語だ。
それはまさに現場の熱意が、自然と作品にも流れ込んでいったのかもしれないと高寺Pは語った。

最終回のオンエア前日の夜に打ち上げがあった。
それはもう大盛り上がりの夜だったそうだ。

その最後、高寺Pがお開きの挨拶をする時、オダギリジョーは静かに涙を流していた。
監督の鈴村氏も泣いていた。
皆が泣いた。

こぼれ落ちる雫には、様々な想いがあった。

東映の歴史を変えよう。
特撮ヒーローを目指そう。
新しいものを作ろう。

仮面ライダークウガは、そういう想いが一丸となった奇跡の作品だった。

二次会になっても、外は雪で大変なことになっていたのに、ほとんど誰も帰ろうとしない。
朝まで皆で讃え、労い、語り合った。
そうして監督の家に転がり込んで、クウガの最終回を観て――

皆が情熱を注ぎ、激しく燃え上がらせた時間だった。
その熱量が、本当の意味で新たな伝説を創った。仮面ライダーの歴史を塗り替えた。

道は続く。唯一人でいいと言った英雄の伝説は、けれど繋がっていく。
いつしか平成ライダーと呼ばれ、一度も歩みを止めることなく時代を駆け抜けた。
時代の終わりまで突き破って、もうその呼び方すらできなくなったけれど、それでも止まらない。

伝説は今も走り続けている。

章タイトル引用元:仮面ライダークウガ!

【続き】ストーリー側考察
http://kamen-rider.info/kuga2/

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