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平成ライダー史 仮面ライダークウガ『新たな伝説を創った者達』感想・考察

2020年4月28日

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特撮新時代と超光戦士シャンゼリオン

クウガを語るには、まず当時の特撮事情から語らなければならない。

2020年の今でこそ仮面ライダー・スーパー戦隊・ウルトラマンの特撮三巨頭が毎年当たり前のように放映され、ゴジラは日本海外共に大ヒットを飛ばして名実ともにキングオブモンスターとなった。

けれど、ここに至るまでに日本特撮史はとても不安定で、それこそ本当に安定して放映を続けていたのはスーパー戦隊だけである。
仮面ライダーもウルトラマンも長らくTV新作不在な時期が何度かあったのだ。

そういう状況の渦中だった1990年代後半、特撮業界は特撮ルネサンスとも呼ばれる変革期を迎えつつあった。

特撮冬の時代を支えた平成ゴジラシリーズが終了を迎える時期に前後するタイミングで復活したガメラ。
後に平成三部作と呼ばれるシリーズは、特撮作品の常識を覆すようなリアリティを追求している。
まさに革新的な作品として特撮ファンの記憶に焼き付いた。

現実に巨大怪獣が出現するとどうなるのか。自衛隊はどう動くのか。
宇宙から現れる怪獣はあえて既存の生物をモチーフにせず、所謂コズミックホラー要素を入れるなど現実性を重視した作品作り。
シン・ゴジラで徹底的に追及された『現実VS虚構』のテーマ性は、90年代後半にして既にあったのだ。

そしてウルトラマン80から十六年の沈黙を破り、ウルトラマンティガが登場。平成ウルトラマンのTVシリーズが開始された。

あえてかつての昭和ウルトラマンとは世界観を別にする構成。
全体の整合性を保ちながら独立した短編の話を繋げ、大きな着地点へと持っていくスタイルを確立した。

ガメラとウルトラマンは、それぞれで平成仮面ライダー、そしてクウガへと繋がる大きな要素を持っている。

そして、この時期の東映特撮作品はどうだったか。
当然、何もしていなかったわけではない。

色んな意味で東映特撮史に伝説を刻んだ作品、超光戦士シャンゼリオンが放映された。
シャンゼリオンはガメラやウルトラマンとは全く別方向での革新に挑んだ。これはある種の禁忌に触れたとも言っていい。
それは特撮ヒーロー作品におけるヒーロー観念の破壊である。

シャンゼリオンは物語全体を通してコメディタッチに描かれた。
ヒーロー作品なのに全体の構成はスラップスティック調、簡単に言えばドタバタ喜劇になっている。
面白いの方向性が思い切りギャグに振られているのだ。

特に人気の高い回『鯖じゃねえ!』では、まさにドタバタコントを実践。
他にも怪人が箸袋オタクだったり、現代社会に潜もうとしたのに上手く溶け込めず精神的に参ってたり、もうね本当にやりたい放題。

ただし、そんなおちゃらけた喜劇の中にも、要所要所でドラマティックな展開を入れ込んでいく。
ライバル役の怪人はヒロインの一人とキスシーンがあり、今の時代では倫理的に放送できそうもない衝撃的な最期を迎えた。

そして最終回ではまさかのどんでん返し展開を繰り出し、今なお伝説として語り継がれる。
平成ライダーにも踏襲されるドラマ性の片鱗も確かにあった。

主人公もこれまでの東映特撮とは一線を画す。というか正真正銘のクズ野郎。
売れない探偵業を続けながら、あちこちで多額の借金をして遊び呆けている(女遊びも大好きで二又三又どころではない)。
そんな状況でヒーローやりながら「ふんわかいこうよ、ふんわか」と宣い、怪人に真のヒーローとは何かを真面目に説教される男。それが涼村暁である。

ヒーローとして全く成長していないわけではないが、根本的なダメ人間性は最後まで全くブレない。
正義感が強すぎる生真面目バカとの迷コンビを組み、ヒーローにあるまじき男として描かれている。

やはりというか何というか主演の萩野崇氏や相棒役だった相澤一成氏は、作品インタビューでも特撮史に残るヒーロー作品を作っていた感覚は全然なかったと語っている。
シャンゼリオンとは遊び場。それも遊園地のような豪華アトラクションですらない。
『今日はここにブランコがあります。君たちはこれで好きに遊んでね!』と用意された遊具で夕方になるまで遊びまくる子供達。そんなノリでひたすらに走り続けていたすごく楽しい作品。
そして、そういう場所を脚本の井上敏樹氏や白倉プロデューサーが用意してくれたと振り返っている。

このあからさまな作品性は昭和から連綿と続いていた、そして東映が仮面ライダーBLACKでも脱却できなかった『古いヒーロー像』に対する強烈なアンチテーゼだ。

断っておくが、これは昭和ヒーローそのものを否定することが目的ではない。
いつまでも古い価値観を更新しないまま、凝り固まった様式でヒーロー作品を制作する体制に対する批判だ。

そもそも初代仮面ライダー自体、放送当時は新しい切り口の作品だった。
スタート時は伝奇風のホラーテイストで、当時の子供達は今までになかった大人な雰囲気を感じ取っていた。

価値観とは時代によって移り変わっていく。
昭和の時代には昭和のヒーローが必要だった。
それと同じように、平成には平成のヒーローが必要なのである。

シャンゼリオンの企画書や当時の資料でも、古いヒーロー像と現代に即した「ヒーローとは何か」を考察した資料が残されている。

哀しみを背負いしかめっ面で孤独に戦い続ける。
握った拳で悪を懲らしめ善を主張する。

そういう固定観念はもう古くてダサい!
何より力で悪を排斥して正しさを煽る行為は危険だ。
そんな薄っぺらいヒーロー作品で『今』の子供達に何を伝えられるのか。

現代のヒーローとは人を助ける存在ではない。
イチロー選手は間違いなく子供達にとってヒーローだろう。だが彼は世界を救っているわけではない。

現代のヒーローとは自分もなりたいと思う『憧れ』の対象なのだ。
悪の組織に改造されて、人間として他人と同じように生きられない、哀しみと苦しみ。それをぐっと堪えて人々のために傷つき戦い続ける。
そういう人間性、ヒーローは格好いいと思うが、自ら進んでなりたい人生ではない。

金がなくても楽しくお気楽に、女の子にもモテモテで、ついでにヒーローにもなったよ超ラッキー!
「良い悪いはともかく、こいつみたいに生きれたら人生楽しそうだな」と思わせる。
その上で、少し背伸びして頑張れば誰でも人々を助けられるヒーローになれるんだよ。そう伝えたようとしたのがシャンゼリオンだった。

新しいヒーロー観を生み出したこの作品は、クウガでも同じ製作スタッフが多く起用されたことからも、ファンから平成仮面ライダーシリーズのプロトタイプとも呼ばれている。

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