2016年、庵野秀明監督は懐かしくも革新的なゴジラを生み出した。
シン・ゴジラは純国産ゴジラとして、間違いなく新たなムーブメントを迎えた。
しかし、そこからゴジラの展開は途絶える。
新作はアニメ方面やゴジフェスでの短編作品へと偏り、いわゆる正式なナンバリングとなる実写の新作は生み出されない。
シン・ゴジラのクオリティが高過ぎて、後続が作りにくい状況になったのだ。
その後、昭和ゴジラがそうであったように、7年の時を経たシンゴジはすっかり丸くなり、水平展開されたシン・シリーズ達と共に世界の平和を守護するヒーローへと変貌した。
そこに今一度ゴジラに牙を取り戻すべく、次なるゴジラが立ち上がる。
(理由はねつ造です)
監督の山崎貴氏は過去に、有名な二つのコンテンツ『ドラえもん』と『ドラクエ』のアニメ映画で炎上している。多くのオタク達はまるで山崎氏を前科者のように扱っていた。
作品情報 ネタバレ無しレビュー 私は本作の発表時点ではまったく観る気が起きなかった。 単純に人物デザインが好みからかけ離れていたことと、ドラクエVの物語を二時間映画の枠でまとめるのはどう足掻いても無理があると思ったからだ …
しかし、ストーリーや新たな映像が出るにつれ、ファン達の期待は不安から期待へと傾きだしていた。
そして遂に封切りされたゴジラ-1.0の素直な感想を、これから語ろう。
作品情報

タイトル | ゴジラ-1.0 |
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ネタバレ無しレビュー
最初に、現在のゴジラは大きく分けて二つの要素から確立されている。
一つは何かしら大災害や人災のメタファーであり、神性すら帯びた恐怖の象徴。
もう一つは、あらゆる怪獣達の頂点に君臨し、全てを力でねじ伏せる怪獣王。
こちらが高いと俗に言う怪獣プロレスに傾向していく。
どちらに寄るかでゴジラの性質は大きく変わる。
(どちらが正しい・面白いの指標ではない)
マイナスワンのゴジラ(以下マイゴジ)は大きく前者寄りで、シンゴジと近い立ち位置だ。
両作の共通点として初代ゴジラ(1954ゴジラ)を強く意識している。
それは公開前から明らかだったため、シンゴジとの比較は避けられないことだろう。
その上で、逆に両作の相違は、こちらも大きく分けて二つある。
まずわかりやすい方は、現代と戦後という世代の違いだ。
シンゴジは現実にゴジラが現れたら日本はどう立ち向かうのかを重視した。
対してマイゴジは戦後の空気が漂う中でゴジラが現れたら、日本はどう抗うのか。
現実への虚構の侵食と、日本が脆弱な時代に怪獣が現れたらのイフは、似ていてもニュアンスが大きく異なる。
もう一つはゴジラの『意志』だ。
実はこちらの方が演出上の影響はとても大きい。
シンゴジはギョロリとした目が他者の理解や意思疎通を拒むよう、どこか超越した存在のようだった。破壊もそれこそ災害のような扱いになっている。
マイゴジは睨み付けるような恐ろしい目を、人間に向けて追いかける。
人間に対して強い敵意があり、歴代でもかなり怖い。
破壊の演出も、シンゴジに比べて襲われる側の恐怖がかなり強調されている。
劇中から漂う絶望感はシンゴジよりも大きい。
1954ゴジラ時代は怪獣の概念が真新しく、パニックムービー的なホラー映画でもあった。
マイゴジは初代の『恐怖』を引き継いだ作品なのだ。
またマイゴジはゴジラを中心の軸として、登場人物達の様々な感情が渦巻く人間ドラマの要素も強い。
勿論その中には感動も含まれる。
山崎監督はドラえもんを擦って『ドラ泣き』を侮蔑表現としてよく使われている。『三丁目の夕日』シリーズの監督であることも手伝い、感動ポルノ的なニュアンスで扱う人もいる。
これらから発展して『ゴジ泣き』はやめてほしいと言われていた。
ドラ泣きを本来の意味として扱うならば、『ゴジ泣きで何が悪い』が本作評価としてド直球な回答だろう。
丁寧な人物描写と展開で泣かせるならば、それは間違いなく作品として成功だ。
1954ゴジラは怪獣のパニックホラーと人間ドラマを両立させたからこそ高い評価を得た。
つまり、より王道的に初代を意識しているのがマイゴジだとも言えるだろう。
ただ、王道故に未知の衝撃や予想困難な展開はあまりなかった。
(ある意味では冒頭が一番衝撃的かつ興味深い展開が多かったので、こちらはネタバレ有りパートで語る)
むしろ時々、王道によくあるご都合展開な部分も見受けられた。
例えば、ゴジラを個体や物語の特徴単位で面白おかしく語る場合、マイゴジはシンゴジにはどう足掻いても勝てない。
加えて、シンゴジの後に出てきたアニメゴジラ達は、いずれも外見や設定で個性派だ。これも実写ゴジラの新作が現れにくかった要因の一つであると思われる。
つまりシンゴジが驚異の人気を生み出したケレン味の面で、マイゴジはやや弱いのだ。
とは言えだ。そもそも使徒みてーなのにケレン味で勝つことは、映画の興行収入やその後のメディア展開としては大事かもしれないが、ゴジラとして正しいのかは全く別の話である。
なにより、再び7年も新作を待つことになるのは出来れば避けたい。
また、今作のゴジラは街中で派手に暴れるシーンはそんなに多くない。
『これこそゴジラのカタルシス!』と思う人には少し物足りないかも。
けれど、マイゴジはその分海上戦でのシーンと演出が豊富だった。
古い東宝特撮のプールを使ったダイナミックな撮影を、現代の最先端技術で進化させたようなゴジラの映像は素晴らしい。
それに海上演出は、日本の敗戦後設定だからこそ使える画も多かった。
この辺り、ミリオタにとっては特別感慨深いシーンであるかもしれない。
マイゴジの持ち味は王道ゴジラとしてめちゃくちゃクオリティが高いこと。
そしてシンゴジとはまた異なる視点で初代ゴジラをオマージュした作品だ。
総評
評価:5.0 評価基準 |
シン・ゴジラとは異なる、王道的なゴジラの完成度と面白さを追求した作品。
キチンと『ゴジラ』をしながら、VFXも現代日本の最先端と言っても過言ではない。
普段映画を観ない人が、ゴジラの新作だからと気軽に足を運んでも問題なく楽しめる。
そしてゴジラシリーズが好きな人やゴジラ本来の恐ろしさと絶望感を味わいたい人には是非オススメしたい逸品。
こんな人にオススメ
- ゴジラシリーズのファン
- 怪獣プロレスより怖いゴジラの方が好き
- 堅実に面白い名作映画を楽しみたい