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【感想・考察】『小説 仮面ライダーゴースト ~未来への記憶~』本編の評価を覆す怪作

2018年12月4日

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ゼミ生の皆様こんにちは、語屋アヤ(@ridertwsibu)です。

私が毎年刊行されている平成ライダー小説の中で、唯一読み忘れて積んでいたのが仮面ライダーゴーストでした。
この度、ジオウでゴースト編が始まるぞ、ということで存在を思い出し慌てて読んだ次第。

正直なトコロ、素で読むの忘れていたぐらいに、私は平成ライダーの中でゴーストだけはあまり好きではない作品でした。
Vシネマの『仮面ライダースペクター』はなぜ本編でこれができなかったと思うくらい出来が良く、TV本編でも部分的に輝いている瞬間はあったので全て否定するつもりもありません。
それでも、早く来年のライダー始まらないかなと切に願ったのは20作品中、唯一ゴーストだけと言えます。

しかしながら、ゴーストの小説版を読みことで、ゴースト本編の評価も大きく変動しました。
むしろ今は時間さえあれば1話から全部見直したいぐらいの気分です。

そういう、ある意味とんでもない衝撃作が『小説 仮面ライダーゴースト ~未来への記憶~』。
もはやゴーストという作品を語る上では必須といっていい一冊。

今回は私の価値観を完全にひっくり返した『怪作』をレビューします。

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小説としての評価『は』低い補完資料本

前提としておくと、この作品に小説的な面白さはあまり求めてはいけない
本作は小説版平成ライダーでも随一の分厚さだが、それでも全然ページ数が不足している。

本作をしっかり小説として描ききるつもりなら、最低でも4冊分くらいに分けるべきだろう。
そういうボリュームを一冊に凝縮して詰め込んでいるため、話の展開はかなりギュウギュウ詰めで、文章描写も全体的に稚拙な面が目立つ。
平成ライダー小説前半に多かった、脚本レベルの内容をそのまま掲載しているような感じだ。

ただし作品全体の空気感はしっかりと仮面ライダーゴーストだ。
それもTV本編よりもドロドロとした人間関係と、その間にある割り切れない想いが描かれていた『ゴースト RE:BIRTH 仮面ライダースペクター』寄りである。

またページ数が多いものの文章が簡素であるゆえにサクサクと読み進められた。
読了までかかった時間は、むしろ他の平成ライダー小説より短かったかもしれない。

そもそも、言ってはなんだがこの策品は文章を楽しむためのものではなかった。
小説というより純粋な読み物であり、仮面ライダーゴーストという特撮作品を前提にするなら、資料としての価値は計り知れないレベルで高い
また、本作が持つ重要性で言えば、小説としての完成度を棄てたこの形式の方が理に適っているかもしれないとも感じた。

言ってしまえば、本作は仮面ライダーゴースト本編にて語れなかった部分を、時間軸に沿って補足していった補完資料である。
ただ全体的に登場人物の心情やすれ違いが多いため、純粋に何が起きたかだけを書くと、登場人物の行動や思考が理解し辛い。

そのため適宜人間的な心情描写を入れつつ、資料として何が合ったかを羅列していくこのスタイルは、案外本作の役割とマッチしていると言えなくもない。
ボロカスに書いているようでいて、実はめっちゃ褒めてる。

ガンマ世界とは何だったのか

ゴーストの大きな残念ポイントとして、地球以外にもガンマ世界を重要な舞台として据えているのに、最後までガンマ世界とは何だったのかがよくわからなかった点がある。
ガンマ世界が地球侵略に乗り出した理由すらものすごくふんわりしていて、民が眠っているなら攻撃しかけてきた連中は何だったんだよと思う。

そもそもガンマの民が人間そっくりな理由やどこから来てどう発展していった民族なのかも不明だった。
それら全ての答えが、ガンマ世界の誕生前段階から事細かに語られている

赤い空ができた理由やアイコンが作られた経緯。
眼魂とVシネマで出てきた強化人間が具体的にどう繋がっていたのか。

アラン様への態度から悪人に見えなかったアドニス大帝がなぜ、何も応えないグレートアイに祈り続け、壊れてしまった冷血な指導者みたいな状態になっていたのか。
これらの事情や止むに止まれぬ理由なども含めて、第一章で詳細かつわかりやすく描かれている。

TV版の隙間を埋めるという意味合いでは、非常に優秀かつ、こんなに隙間だらけだけだったのかよと戦慄を覚えた。
世界観の中には積み込まれていても、荷降ろしという名の解説が行われなかった設定が大量にある。
そりゃあTV版だけだとわけわかんないよ!

ガンマ世界では本当に色々なことが起きていたが、大事なことは大きく二つ。
赤い空の起こした悲劇と、そこに関わる登場人物達のすれ違いだ。

アドニスは赤い空が原因による妻の死から、これ以上誰も犠牲を出さないよう死のない国を目指す。
その最たる成果が人の魂だけを抜き出して別のアバターに入れる眼魂システムだった。

これにより人命は取り留められたが、そこに至るまでにアドニスの心は段々と民や友人、そして家族達と噛み合わなくなっていく。
そこに悪意はなくアドニス一人が悪いわけではなく、心のすれ違いが少しずつ積み上がっていった結果だ。

結果的に眼魂システムは人々の堕落を招き、それを嫌う者達が決起して戦争が始まり、多くの者が死んだ。
ならばもう心すらいらないと、アドニスは民を眠らせ仮想空間の中で個々に幸せな生活を送らせた。

眼魂システムによる不老不死は、人から一切の苦痛を取り除いたが完全な個で完結する人が命を燃やせない世界となった。
これがガンマ世界の本質である。

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タケルの両親が残した想いと英雄と共に命を燃やす意味

第一章はガンマ世界が舞台だったが、第二章では大天空寺に物語が移る。
こちらも物語的には本編で語られなかった前日譚が大部分を占める物語構成だ。

天空寺龍が大天空寺にあるモノリスを調べ始めた理由や、その後に現れたイーディスとの戦いや、そこから協力体制に至った理由にも触れられている。
直接物語のメインテーマとも絡む重要な要素が詰まっている章だった。

中でも特に大きなファクターは、本編でもごく僅かにしか触れられなかったタケルの母親である。
本編では名前すら不明だったが、小説版では百合だと判明。

体の弱かった百合とって出産は命に関わることだった。
それでも奇跡的に授かった自分の子供、タケルを産むと決意。

結果、TV本編で語られている通り、百合はタケルを無事出産するものの、物心が付く前に死亡。
龍は百合にタケルの将来を託され、自分がタケルのヒーローになると決意。
同時に精一杯生きて、未来へと命を繋げる大切さを愛する妻から学んだ。

龍が選んだ眼魂の英雄達も、かつて龍がタケルに渡した英雄伝の本から、かつて命を燃やし尽くして英雄となった者達が選ばれている。
精一杯生きた先人達の力を借りて未来へと繋げる、という思想が小説版だとこれ以上ないほどわかりやすく書かれているのだ。

なお、龍がゴーストハンターとなったのも、ガンマ世界からの侵略を防ぐためである。
ガンマ世界の眼魂は地球では不可視になるが、修行を積んできた龍にはその姿が視えた。

龍はイーディスからもガンマ世界の正体は聞いていたが、便宜上人の目に見えない不可思議な問題を解決するという名目で、ゴーストハンターを名乗っている。
龍もまた、イーディス達と協力してガンマ世界の侵略を防ぐため戦い続けた。
その果てにアデルとの戦いで命を落とすのだが、その時も最後の最後まであがき、命を燃やし尽くしてタケルへと未来を託したことが伝わってくる。

ここまで読み取れると、『命が停滞し続けるガンマ世界』と『命を燃やし尽くして未来へ繋げるタケル達』の構図が見えるだろう。
タケルが命を燃やすのは、今を精一杯生きて未来へと繋げるメッセージ。

これは一応TV本編でもわかるが、タケル当人が死んだり生き返ったりを繰り返すせいで説得力がない。
しかしタケル自身が両親や英雄達が必至に生きて今に繋がれた存在である、という根底があれば話は別だ。
過去から今へ繋げられた命を、タケルは全力で燃やしてまた未来へと繋げていく。
その構図が小説版でかなり濃密に補足された。

要するに『なんでこれTV版でやらなかったの???』って話なんだけどね!

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小説版で180度イメージが変わる登場人物達

TV本編側

ガンマ世界の登場キャラクターも印象が大きく変わる者達が多い。

その最たる人物がアドニスだ。
アドニスはゴースト本編だと祈りの間に引きこもってグレートアイに祈りを捧げ続け、他のことは完全に人任せな男だった。

そんなアドニスだが元はささやかな幸せと共に仲間慕われるリーダーだった。
民を襲う度重なる艱難辛苦とそれでも前に立ち激励する重圧。
大事な妻や息子との死別。
友人達とのすれ違いにより引き起こされた戦争。

全員が善意で動いているはずなのに悲劇と死が繰り返される中で、少しずつアドニスの心は病み、失意に沈んでいった。
その結果があの姿であり、民の平穏を願い眠らせたという無茶苦茶な思想ですら理解できてしまう程、心がボロボロになっていく様は読んでて胸が痛い。
しかも最後の最後まで民のために尽くしたことにブレが全く無いので、TV版の印象がうわばみ掬っただけだとよくわかる。

また本編だとファザコンこじらせたクソ野郎にしか見えなかったアデルは、父親との長きに渡るすれ違いや、それ違い続けても期待に応えようとした努力。
アデルの中にあったであろう苦悩や苦痛がかなりしっかりと描かれている。
彼もまたガンマ世界で起きた悲劇の一つであり、赤い空で多くの物を失った被害者だった。

アデルは龍を殺してタケルをあえて生かす展開シーンが本作でも別視点で書かれている。
TV本編よりも感情移入しやすく、あえてタケルを生かした理由にもご都合主義ではない説得力が生まれた。
小説を通せば父親に自分を見てほしいという苦悩の末、父親の理想を叶えるため、その父親を殺してしまい後戻りできなくなった悪役。
という複雑で面白味のある人物像が見えてくる。

イーディス=仙人は、まあ印象はあまり変わらないと言うか、やっぱり大体コイツが元凶だったとよりわかりやすくなった。
元は変人だが天才の科学者であり、人格的には仙人が素面なのだとはっきりわかる。

眠っているガンマ世界の住人が消滅するのはイーディスが原因。
ガンマイザーが強固でとてつもなく強いのもイーディスが原因。
ガンマイザー対策であるはずの英雄達が能力的に全然敵わないのも、多分大丈夫だろと思い込んだイーディスの甘さが原因だった。
問題のマッチポンプにも程がある。

人は良いのだけど秘密主義が悪癖となって、事態を悪い方向へと転がす。
タケルのことで大天空寺の面々から大ヒンシュクを買うが、あれに似た行動は前々から結構あったのだ。

ただその行動に悪意は全然ないのがまた厄介。
科学者としか生きられない男が、色々あった結果事態を収束させようと立ち回る。
けれどそのほとんどが空回り悪い方向へと進んでしまう。
しかも大事なことは秘密にして黙っているから、事態がより悪化する。

イーディスがいなければ眼魂システムは生まれず、もっと多くの犠牲者が出ていたのは事実だろう。
しかし同時に問題行動が目立ち、そこに対する悪意がなさ過ぎて檀黎斗ポジションにもなれなかた人物というべきだろうか。

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劇場版とVシネマ側

赤い空の問題解決は眼魂システムの他に、人体強化案もあった。
これに関わるのが劇場版で出てきたマコトの育て親、大悟。
そして生みの親であるダントンだ。

Vシネマでは失敗するのも承知で人体改造に手を出す狂気の科学者であるダントンだが、小説版ではむしろ人体実験には消極的だった。
その後押しをしたのはまさかの大悟(ガンマ世界ではゴーダイ)である。

ダントンは助手であるゴーダイに背中を押される形で人体実験を始めた。
すぐに犠牲が出て立ち止まろうとするも、犠牲者を無駄にしてはならないとなお推奨し続けたのもゴーダイだ。
ゴーダイは以前に妻を失っており、この研究が自分の使命であり全てだと思い込むことで自分を保っていた。
要するにゴーダイの現実逃避にダントンや実験体となった人達が犠牲になっていたのである。

ダントンはゴーダイと共に狂気の道を進んでいくことになるが、その途中、自分の体も実験に使用し始める。
ただしこれはダントンが狂ったわけではなく、民で実験を繰り返すなら、自分の身も実験に捧げるべきだという意思によるものだった。
なお、ゴーダイは最初から最後まで特に助手として目立ったことはしていない。

マコトとカノンを生み出すことになったホムンクルス計画も、失敗して死んでいく子供達にダントンは心を痛めるが、ゴーダイは相変わらず背中を押していた。
そのうちダントンが罪悪感と自己改造で狂い始めるが、ついにマコトとカノンが誕生。

人体実験が原因で、人体強化を求めた者達と共に戦争へと突入するが、戦争の旗色が悪くなるとゴーダイはマコトとカノンを連れて逃亡。
狂気の科学者と化して戦い続けるゴーダイと共にいては子供達に未来はないと考えてのことではあったが、逃げられたのはたまたまグレートアイが手を貸してくれたから。
かなり行き当たりばったりの上に、突如ゴーダイへの梯子外しで首謀者の一人が敗戦寸前の戦争から逃げたに等しい。

しかもダントンはVシネマでもマコトを息子として心から愛していたように、マコトとカノン、そして実験を繰り返していた子供達にも深い愛情を注いでいた。
クロエに対しても同様である。
小説版だとダントンは、ダイゴという自暴自棄の男に唆されて狂気に堕ち、最後はそのゴーダイにすら裏切られ独りになった哀れな被害者だ。

なお、クロエのことはちゃんと気遣い殺されないようコールドスリープで眠らせて一時的に隠した。
(この時は敗戦前だったため勝利の後に即戻すことは可能であり、沈黙していたグレートアイを戦場に引っ張り出しさえしなければ実質勝てていた)
マコトとカノンにも同様のことはできたはずなので、やはりゴーダイは独断専行での敵前逃亡した身勝手な男としか言いようがない。

ダントンも戦争時点では無駄な死者を出すのはまだ嫌っていたので、本格的に壊れたのは地球を追放されて独り宇宙を何百年と彷徨っていた間だと思われる。
(帰る方法も不明なまま、それだけ独りで彷徨えばそりゃ狂う)

ダントンから逃げたゴーダイは、大天空寺のモノリスへとワープ。
新たな妻と共に厳しくも良き父として、マコトとカノンを育てている。
マコトとカノンがデザインベイビーだと告げた龍にすら、自分が積み重ねてきた人体実験の罪は隠していた
正直イーディスなんて目じゃない真のクズ野郎である。

そもそもダントンの主張は『人類は自分達の力で赤い霧を乗り越えるべきであり、グレートアイというよくわからないものを頼るべきではない』ということだ。
手法は問題ありでも主張自体は何もおかしいことはなく、実際に仙人はグレートアイに依存した結果、眼魂システムに自分では修復不能なバグを生み出してしまった。
その流れで不特定多数の民を死なせて、地球侵略の切欠を作っている。
これはダントンが危惧した展開そのものであると言えるだろう。

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最終回の謎展開は作品テーマを昇華するための下準備だった

TV版とVシネマ最終話後の話として三章とエピローグも語られる。
内容的には『仮面ライダーゴースト ファイナルステージ』のストーリー前後とその補足だ。

ファイナルステージのこと知らない人は、やっとTV版に出てきた謎の少年が伏線回収されたに等しい。
しっかりといつもの死ぬ死ぬ詐欺をしつつ、Vシネマ版での積み残しであるクロエを本当の意味で救う物語だ。

加えてVシネマ後に独り彷徨っていたマコトについても改めて触れられる。
ちゃんとアランとの仲違いは解消されていた。
(殺されかけても友人を恨んでいないアラン様の優しさよ……)

逆にアカリは役柄的に嫉妬で狂ったかなり嫌な女という立ち位置なので、彼女のファンは辛い話かもしれない。
ダ・ヴィンチを目指した、良くも悪くもまさに万能ヒロインだったが、恋愛だけは上手くいかないのは中々に皮肉だ。
好きなだけイゴールをビンタして失恋の痛みを和らげるといいのではないでしょうか。

第三章では、タケルは命の半分をクロエに捧げて彼女を生きながらえさせていたことが判明。
そうして繋いだ命で息子が産まれ、彼もまた仮面ライダーゴーストとして戦っていた。

父から子、そしてその子供も大人になり、やがて新たな生命を紡ぐ。
このエピローグがあることで、『命の物語』としてゴーストは真の完成を果たしたのだった。

小説 仮面ライダーゴースト ~未来への記憶~

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