アニメ『異世界居酒屋「のぶ」』は手抜き作品ではない。丁寧に作られていた一方で、独自の演出と視聴者が求めるものが合わなかった作品である。
アニメ版の『異世界居酒屋「のぶ」』について調べると、「ひどい」「テロップが邪魔」「実写パートはいらない」といった厳しい評価が見つかる。
原作小説やコミカライズの人気を考えると、なぜアニメ版だけがここまで評価を分けたのか、不思議に感じる人もいるだろう。
確かにアニメ版には、画面へ大きく表示されるテロップや、アニメの後に始まる実写企画など、一般的なテレビアニメとは異なる要素が多かった。
しかし、それだけを見て「低予算だった」「手抜きで作られた」と判断するのは正しくない。
わたしは、アニメ化を記念して開催された『異世界居酒屋「のぶ」』のファンミーティング「お客様の集い」に参加している。
そこで聞いた制作過程によると、アニメ版は完成した映像を使ってアフレコを行うなど、むしろ一般的なアニメ以上に丁寧な手順で作られていた。
問題は、作品へ手間をかけなかったことではない。
制作側が力を入れた方向と、原作ファンやアニメ視聴者が期待したものが一致しなかったのである。
アニメ『異世界居酒屋「のぶ」』は本当にひどいのか
結論からいえば、アニメ本編の作画や声優の演技まで含めて「すべてがひどい」と評価するのは適切ではない。
厳しい評価が集中したのは、作品の物語そのものより、テロップを多用したグルメ番組風の演出と、実写パートを組み合わせた番組構成だった。
アニメ版の正式タイトルは『異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~』。2018年4月13日から9月14日まで配信され、全24話が制作された。
- 原作
- 蝉川夏哉
- 監督
- 小野勝巳
- アニメーション制作
- サンライズ
- 矢澤信之役
- 杉田智和
- 千家しのぶ役
- 三森すずこ
- 主題歌
- クラムボン『Prosit!』
作品情報は、サンライズ公式の作品ページでも確認できる。
参考:サンライズワールド『異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~』
現行記事には「1クールしかないアニメ」と記載されていたが、実際には約半年にわたって全24話が配信されている。
また、作品の基本構造も、単に異世界の住人が日本料理を食べて驚くだけではない。
古都アイテーリアの住人達が居酒屋「のぶ」を訪れ、料理を通して関係を深めたり、抱えていた問題を解決したりする。大きな事件を中心に進む作品ではなく、一皿の料理と客の人生を結びつける物語である。
こうした本編の構造よりも、周囲に付け加えられた独自の演出が強く印象に残ったことが、アニメ版の評価を複雑にしている。
アニメ版が「ひどい」といわれる理由
画面に表示されるテロップが多い
アニメ版を見て最初に目につくのが、画面へ頻繁に表示される文字である。
料理を食べた音、飲み物の炭酸、食材の歯ごたえなどが、色や形を変えたテロップとして映像へ重ねられる。
一般的なアニメでも、擬音を文字として見せる演出は珍しくない。しかし本作では、テロップが一部の場面だけに使われるのではなく、料理のおいしさを伝える基本的な表現として繰り返し登場する。
文字によって料理の状態が分かりやすくなる一方、キャラクターの表情や背景、料理の作画へ集中したい人にとっては情報量が多い。
特に、原作が持つ落ち着いた居酒屋の空気を期待していた読者には、バラエティ番組や昼のグルメ番組に近い演出として映りやすかった。
テロップの技術が低いのではなく、テロップの存在感そのものが、視聴者の好みを大きく分けたのである。
食事シーンがテレビの食レポに見える
『異世界居酒屋「のぶ」』では、異世界の住人が初めて日本の料理や酒を味わう反応が大きな見どころになっている。
冷えたビール、枝豆、唐揚げ、おでん、ナポリタンなど、私達にとって身近な料理が、異世界の客には未知の味として受け止められる。
この構造自体は原作にもある。しかしアニメ版では、表情、声、擬音、テロップを組み合わせて、おいしさを非常に分かりやすく伝えていた。
料理を中心に楽しみたい人には魅力的だが、登場人物の会話や古都の物語を重視する人には、食事への反応が長く感じられる。
料理を強調するほど、居酒屋を舞台にした人間ドラマよりも、異世界の人物による食レポという印象が強くなる。
制作側が見せたかった部分と、原作ファンが見たかった部分にずれが生じていた。
実写パート「のぶ+」がアニメを中断する
もう一つ評価を分けたのが、アニメと一緒に配信された実写企画「のぶ+」である。
「のぶ+」では、料理研究家のきじまりゅうたによるレシピ紹介や、なぎら健壱が実在する居酒屋を訪れる企画が展開された。
アニメに登場した料理を現実でも作ったり、実際の居酒屋文化に触れたりできるため、グルメコンテンツとしては意味のある企画である。
一方、アニメの続きを見ようとしている視聴者にとって、途中から実写の料理番組へ切り替わる構成は唐突だった。
最初からアニメと実写を組み合わせた番組だと理解していれば楽しめても、通常のアニメ作品を期待して再生すると、不要なコーナーが追加されたように感じてしまう。
制作側はアニメと現実をつなげようとしていたが、視聴者側はアニメ本編だけで完結する体験を求めていた。この認識の違いが、そのまま「実写パートはいらない」という評価につながった。
原作ファンが求めた雰囲気と違った
原作の『異世界居酒屋「のぶ」』は、料理の魅力だけで成立している作品ではない。
居酒屋へ集まる兵士、役人、商人、聖職者、貴族達には、それぞれの生活と悩みがある。客同士の関係や古都の社会が少しずつつながり、居酒屋「のぶ」が人と人の間を取り持っていく。
アニメ版もこの物語を描いているが、視覚的に目立つのは料理とテロップだった。
そのため、原作の人間ドラマを求める視聴者ほど、作品の魅力が料理の驚きへ偏っているように感じやすい。
内容を大幅に変えたというより、何を強調するかの選択が原作ファンの期待と一致しなかったのである。
テロップと実写パートには明確な狙いがあった
監督が目指した「食べられる文字」
アニメ版のテロップは、料理の情報を補足するためだけに付けられたものではない。
監督の小野勝巳はインタビューで、音を画面上の文字として表現し、「食べられる文字」を目指したと説明している。
例えば、枝豆を食べる「プチッ」という音を枝豆のような形で見せ、炭酸を表す文字には泡を加える。文字そのものを料理の一部としてデザインしていた。
参考:ねとらぼ『異世界居酒屋「のぶ」』小野勝巳監督・梅崎淳志プロデューサーインタビュー
この説明から分かるのは、テロップが制作上の都合で安易に追加されたものではないということだ。
料理の音、食感、温度を、映像と声だけでなく文字でも味わわせる。そのために料理ごとに異なる見せ方が考えられていた。
ただし、意図が明確であることと、視聴者がその演出を好むことは別である。
制作側にとっては料理表現の一部でも、アニメへ没入したい視聴者には画面を遮る文字に見える。双方の評価は矛盾せず、同時に成立する。
二次元から現実の食体験へつなげようとした
実写パート「のぶ+」についても、単なる尺埋めとして付け加えられたものではない。
制作インタビューでは、アニメの二次元から出演者のいる二・五次元、さらに現実の居酒屋という三次元へつなげ、視聴者が実際に料理を食べたり店を訪れたりするところまで含めた狙いが説明されている。
つまり本作は、最初から一般的なアニメ一本として設計されたのではない。
アニメを入口として、料理を作る、食べる、居酒屋へ行くという現実の行動へつなげる複合的なグルメコンテンツだった。
企画としての考え方は一貫している。
しかし、配信ページでアニメを選んだ人が求めているのは、多くの場合アニメ本編である。企画全体の意図を知らなければ、実写へ切り替わった時点で作品から追い出されたように感じても不思議ではない。
問題は企画に理由がなかったことではなく、その理由が視聴者へ十分に共有されないまま、通常のアニメと同じ場所で受け取られたことにある。
ファンミーティングで分かったアニメ版の制作方針
わたしは、アニメ化を記念して開催されたファンミーティング「お客様の集い」に参加した。
ここからは、当時の会場で聞いた内容を、現在まで記憶している範囲で整理する。公式記録からの逐語的な引用ではなく、参加者として聞いた説明の要旨である。
主婦層を含む一般家庭での視聴も想定していた
会場では、一般的なアニメファンだけでなく、朝や昼に家事をしながら動画を見る主婦層なども視聴者として想定していたという趣旨の説明があった。
音声を出して画面へ集中しなければ理解できない作品ではなく、音を出せない環境や、別の作業をしながらでも大体の内容を追えるようにする。
テロップによって料理名、食感、音、登場人物の反応を視覚的に補足していたのは、その視聴方法ともつながっていた。
こうして見ると、アニメ版のテロップは、単にテレビのグルメ番組をまねたものではない。
料理のおいしさを文字にする表現上の狙いと、画面や音声へ集中できない人にも内容を届ける機能の両方を持っていたことになる。
ただし、作品を選んだ中心的な視聴者は、原作を知るファンやアニメを見たい人達だった。
ながら見へ配慮した分かりやすさが、集中して見ている人には過剰な説明として受け取られる。視聴者層を広げるための工夫が、既存ファンの没入感を妨げるという逆転が起きていた。
完成したアニメ映像を使ってアフレコしていた
同じファンミーティングでは、アニメ版のアフレコについても興味深い話があった。
アニメの制作では、すべての映像が完成する前に音声収録を行い、線画や絵コンテを動かした映像へ声を入れることがある。
ところが『異世界居酒屋「のぶ」』では、完成したアニメ映像を使ってアフレコを行っていたという。
映像が完成しているなら、声優にとって収録しやすそうにも思える。しかし、すでに完成している口の動きへ台詞を合わせなければならないため、自由に間を調整できない。
会場では、出演声優から普段より難しかったという趣旨の話があったことも紹介されていた。
これは、アニメ版を評価するうえで重要な情報である。
完成した映像を用意したうえで音声を収録し、声優がその口の動きへ演技を合わせている。少なくとも、映像制作やアフレコを簡単に済ませた作品ではない。
テロップの好き嫌いや実写パートへの不満はあっても、それを理由にアニメ全体を「手抜き」と評価することはできない。
不評だったことと制作が雑だったことは別である
時間と労力をかけて作られた作品が、必ず人気を得られるわけではない。
本作では、完成映像によるアフレコ、料理ごとに形を変える文字、アニメと実写を連動させた企画など、多くの手間がかけられていた。
それでも評価が分かれたのは、力を入れた部分が視聴者の求める方向と違っていたからだ。
制作側は、料理のおいしさを直感的に伝え、アニメを現実の食体験へつなげ、一般的なアニメファン以外にも届く作品を作ろうとした。
一方、視聴者の多くは、原作の世界や登場人物をアニメとして楽しむことを期待していた。
双方が見ていた作品の完成形が、最初から少し違っていたのである。
アニメ本編には評価すべき魅力もある
料理と飲み物の描写が丁寧
テロップの存在感に隠れがちだが、本作は料理そのものの作画にも力を入れている。
第1話の冷えたビールでは、ジョッキの表面についた水滴や泡が細かく描かれる。揚げ物の衣、料理から立ち上る湯気、箸で食材を持ち上げたときの動きなども、食欲を刺激するように作られている。
原作者の蝉川夏哉も、第1話の見どころとしてビールの水滴に注目している。
テロップを煩わしく感じるかどうかとは別に、料理をおいしそうに見せようとした制作側の姿勢は映像から確認できる。
声優の演技によって食事の反応が伝わる
信之を演じる杉田智和、しのぶを演じる三森すずこをはじめ、アニメ版には多くの声優が出演している。
特に重要なのが、異世界の客が初めて料理を食べたときの反応だ。
驚き、戸惑い、安心、懐かしさといった感情を、料理ごとに異なる声で表現している。単に「おいしい」と叫ぶのではなく、その客がどのような生活を送り、なぜその料理に心を動かされたのかが演技から伝わる。
完成映像の口の動きへ合わせる難しい収録だったことを踏まえると、映像と声が自然につながっている点も評価すべき部分である。
料理を通して登場人物同士の関係が変わっていく
序盤だけを見ると、客が料理を食べて驚く話の繰り返しに見えるかもしれない。
しかし話数が進むにつれて、別々の回に登場した人物達の関係がつながり、古都アイテーリアの社会が見えてくる。
料理は物語の目的ではなく、人と人が話すための入口でもある。
身分や立場が違う者達が同じ店で料理を食べ、対立していた相手への見方を変える。居酒屋「のぶ」が中立的な場所として機能するところに、この作品独自の魅力がある。
派手な戦いや急激な展開を求める作品ではないが、一話ごとの出会いが後の物語へつながる構成には、原作由来の面白さが残されている。
語屋アヤの考察|失敗したのは品質ではなく届け方だった
『異世界居酒屋「のぶ」』のアニメ版を振り返ると、制作側が何をしようとしていたのかは一貫している。
料理のおいしさを文字で表現する。アニメの料理を現実のレシピや居酒屋へつなげる。画面や音声へ集中できない人にも内容を伝える。
すべて「アニメを見てもらう」だけで終わらせず、料理を中心とした体験を広げるための試みだった。
しかし、作品を見に来た人が求めていたのは、原作の世界を映像化したアニメだった。
制作側が視聴者へ多くの体験を提供しようとするほど、視聴者にとっては余計なものが増えていく。料理を分かりやすく見せるテロップは画面を遮り、現実の料理へつなげる「のぶ+」はアニメを中断した。
これは技術的な失敗というより、届け方の失敗だったのではないだろうか。
また、2018年という配信時期も無視できない。
当時もYouTubeや動画配信サービスは広く使われていた。しかし現在ほど、テレビやスマートフォンで動画を流しながら家事や別の作業をする視聴方法が、あらゆる家庭の日常へ溶け込んでいたわけではない。
現在であれば、短いアニメ、料理動画、実店舗紹介を組み合わせたコンテンツは、それほど珍しくない。
アニメと実写を分けて短い動画として公開し、視聴者が見たい企画を選べる形なら、受け止められ方も変わった可能性がある。
ところが本作では、それらが一つの番組として連続していた。アニメだけを見たい人にも、制作側が想定した複合的な視聴体験がそのまま提供された。
時代を先取りしていたと言えば聞こえはよいが、視聴者がその見方を求めているかという確認が足りなかったともいえる。
『異世界居酒屋「のぶ」』は、雑に作られたために評価を落としたのではない。丁寧に作られたものの、その丁寧さを向けた先が、当時の視聴者の期待とずれていたのである。
だからこそ、本作への評価は「ひどい」だけでは終わらない。
テロップや実写パートを外してアニメ本編を見れば、料理の作画、声優の演技、人と人を結ぶ物語が残る。一方で、独自演出まで含めて一つの作品と考えれば、見づらいという批判も否定できない。
狙いが明確だったことと、その狙いが成功したことは別である。
本作は、その違いが極端な形で表れたアニメだった。
まとめ
- アニメ版が「ひどい」といわれる主な理由は、テロップと実写パートにある。
- 料理や物語、声優の演技まで含めて作品全体が粗雑だったわけではない。
- テロップは、音や食感を「食べられる文字」として見せるための演出だった。
- 実写企画「のぶ+」には、アニメから現実の料理や居酒屋へつなげる狙いがあった。
- ファンミーティングでは、主婦層などのながら見も想定していたという説明があった。
- アフレコには完成したアニメ映像が使われ、声優には口の動きへ合わせる難しさがあった。
- 以上の制作工程から、単純な手抜きアニメとは判断できない。
- 制作側が力を入れた方向と、原作ファンやアニメ視聴者が求めたものが一致しなかった。
- 現在の動画視聴環境なら、アニメと料理動画を分けることで違う評価を得られた可能性もある。
アニメ『異世界居酒屋「のぶ」』は、何も考えずに作られた失敗作ではない。
むしろ、新しい視聴者へ作品を届けようとして、一般的なアニメの枠から大きく踏み出した作品だった。
しかし、作品を広く届けるためのテロップと実写企画が、最も作品を見てほしかった原作ファンやアニメ視聴者を遠ざけてしまった。
手間をかけたことが、そのまま満足度にはつながらない。
『異世界居酒屋「のぶ」』のアニメ版は、作品の質だけでなく、誰にどのような形で届けるかが評価を左右することを示した作品なのである。
アニメ『異世界居酒屋「のぶ」』のよくある疑問
アニメ版は本当にひどい作品なのか
テロップや実写パートは好みが大きく分かれるが、アニメ本編まで含めてすべてがひどいとはいえない。料理の作画や声優の演技には力が入っており、完成映像を使ってアフレコを行うなど、制作自体も丁寧だった。問題は作品の品質より、独自の演出と視聴者の期待が合わなかったことにある。
なぜ画面にテロップが表示されるのか
料理を食べる音や食感を、文字でも味わわせるためである。監督は「食べられる文字」を目指したと説明している。また、ファンミーティングでは、音声を出せない環境や、家事をしながら見る層でも内容を追いやすくする狙いがあったという趣旨の説明もあった。
テロップのないアニメ版はあるのか
2018年には、ノンテロップ版アニメ全24話を収録したBlu-rayの予約企画が発表されている。ただし、現在の販売状況や配信版の仕様はサービスによって異なるため、視聴前に各商品・配信ページの内容を確認した方がよい。
情報ソース
- サンライズワールド『異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~』:配信期間、全24話、制作会社、主なキャスト、主題歌などの基本情報。
- ねとらぼ『異世界居酒屋「のぶ」』小野勝巳監督・梅崎淳志プロデューサーインタビュー:テロップを「食べられる文字」とした演出意図、アニメと実写をつなげた企画方針。
- ねとらぼ『異世界居酒屋「のぶ」』蝉川夏哉インタビュー:原作誕生の経緯と、第1話のビール表現に関する情報。
- クックビズ総研『異世界居酒屋「のぶ」』アニメ化企画紹介:アニメ本編と実写企画「のぶ+」の構成、レシピ紹介と居酒屋訪問の内容。
- 超!アニメディア『異世界居酒屋「のぶ」Blu-ray予約企画』:ノンテロップ版アニメ全24話を収録したBlu-ray企画。
※2018年当時の視聴習慣と現在の動画環境を比較した部分は、公開された制作意図と実際の番組構成を基にした、わたしの考察である。