スーパー戦隊は、テレビ番組に登場する変身アイテムやロボットを玩具として販売し、その売上をシリーズ展開につなげてきました。番組と玩具が強く結びついていることは、子ども向け特撮の大きな特徴です。
その一方で、スーパー戦隊の売上、とりわけ玩具売上が番組継続の重要な指標になるなら、役者の演技や脚本、アクションは最終的に商品を売るための要素にすぎず、特撮番組は「手間のかかる回りくどいCM」ではないかという見方もあります。
しかし、わたしはこの見方では、特撮と玩具の関係を半分しか説明できないと考えます。玩具を売るために特撮を作っただけではなく、手間と費用のかかる子ども向け特撮を継続し、子どもが玩具でヒーローになりきる文化を守るために、玩具販売の仕組みが必要だったからです。
この記事では、スーパー戦隊玩具の売上と東映特撮のビジネスモデルを整理しながら、なぜ玩具販促が子どもを中心に幅広い世代が楽しむヒーロー番組を支えてきたのかを考察します。
スーパー戦隊が「玩具のCM」といわれる理由
スーパー戦隊に登場する変身アイテム、武器、巨大ロボットの多くは、実際の玩具として販売されます。
新しいヒーローや強化形態が登場すれば、新しい変身アイテムや武器も登場する。複数のロボットが合体する場面が放送されれば、子どもは玩具でも同じ合体を再現できます。
番組の放送と商品展開が連動している以上、スーパー戦隊に玩具の販売促進という役割があることは否定できません。
玩具の発売時期が、番組内で新しいアイテムを登場させる時期へ影響することもあるでしょう。物語だけを優先して自由に作られる作品とは異なり、商品展開との調整が必要になる点は、子ども向け特撮が抱える制約の一つです。
そのため、スーパー戦隊を「玩具を売るための番組」と表現すること自体は、商業的な構造の一面を捉えています。
「CMだった」と「CMでしかなかった」は違う
ただし、販売促進の役割があることと、販売促進以外の価値がないことは同じではありません。
スーパー戦隊には、登場人物の成長や葛藤を描く脚本があります。俳優による演技、スーツアクターによる身体表現、音楽、映像演出、怪人やロボットのデザインがあります。
これらは、玩具の周囲を飾るだけの要素ではありません。
変身アイテムを手にした人物が、何に迷い、何を守るために変身したのか。仲間と力を合わせて動かしたロボットが、どのような危機を乗り越えたのか。
物語が積み重なることで、玩具は単なる音や光を出す商品ではなく、ヒーローの力を再現する道具になります。
「CMだった」という言葉は、スーパー戦隊の商業構造の一面を言い当てています。しかし、「CMでしかなかった」と結論づけると、作品が玩具へ与えてきた意味が見えなくなるのです。
特撮はなぜ玩具売上を必要としてきたのか
スーパー戦隊をはじめとする特撮番組は、通常の人物ドラマに加えて、多くの特別な工程を必要とします。
- ヒーローや怪人のスーツ制作
- 変身アイテムや武器などの撮影用造形物
- スーツアクションやワイヤーアクション
- 爆破や破壊を伴う撮影
- 巨大ロボットや怪人を表現する特撮
- CGや映像合成
- 毎年刷新されるヒーロー、怪人、武器、ロボットのデザイン
スーパー戦隊一話当たりの正確な制作費は公表されていないため、一般的なドラマより何倍高いと断定することはできません。
それでも、一般的な会話劇だけでは発生しない工程が多数あり、制作に手間と時間、費用がかかりやすい番組形式であることは分かります。
玩具を売ることだけが目的なら、商品の機能を短い広告で見せる方が効率的です。
それでも一年近い物語を作り、俳優を集め、スーツや怪人を制作し、アクションや巨大ロボ戦を撮影してきました。
ここには、「玩具を売るために特撮を作る」という一方向だけでは説明できない関係があります。
番組が玩具を売り、玩具が番組を支える
玩具を売るために、特撮番組を制作する。
同時に、手間と費用のかかる特撮番組を継続するために、玩具を販売する仕組みを必要とする。
この二つは矛盾しません。
番組が玩具へ魅力と物語を与え、玩具の売上が次の番組や商品展開を支える。映像と商品が互いを成立させる循環が、子ども向け特撮のビジネスモデルです。
つまり、スーパー戦隊は玩具を宣伝するためだけに、必要以上に回りくどい作品を作っていたのではありません。
回りくどいほどの物語や映像を毎週届けるために、玩具の販促を含む仕組みが必要だったのです。
玩具で遊ぶところまでが子ども向け特撮の体験
スーパー戦隊における玩具は、番組制作費を回収するためだけに、作品の外側へ置かれた商品ではありません。
子どもはテレビの中でヒーローの変身を見ます。そして、変身アイテムを手に同じポーズを取り、同じ音を鳴らし、自分でもヒーローになって遊びます。
ロボット玩具を合体させ、番組の戦いを再現することもあります。番組では描かれなかった戦いや、自分だけの新しい物語を作ることもあるでしょう。
テレビで物語を見て、玩具を手に自分でも物語へ参加する。
この往復まで含めて、子ども向け特撮ヒーローという文化は作られてきました。
玩具を切り離すと収益源だけが変わるわけではない
玩具へ頼らず、配信料金や映像商品の売上で特撮を作ればよいという考え方もあります。
別の収益モデルで特撮映像を制作すること自体は可能です。
しかし、玩具の販売を根幹から外した場合、変わるのは収益源だけではありません。
対象年齢、作品内容、話数、放送や配信の方法、ヒーローやアイテムの設計、視聴者が作品へ参加する方法まで変わる可能性があります。
それは映像ジャンルとしての特撮を残す方法にはなっても、子どもを中心に幅広い層が番組を楽しみ、子どもが玩具を手に物語を再現する従来型のヒーロー番組を、同じ形で残す方法とは限りません。
玩具を切り離せば、従来と同じ作品を別の財布で作れるわけではないのです。
役者の演技や脚本は玩具売上と無関係なのか
スーパー戦隊の売上を考えるとき、玩具の数字ばかりが注目されることに違和感を持つ人もいるでしょう。
役者の演技が高く評価されても、脚本が視聴者の心を動かしても、アクションが話題になっても、それ自体が玩具の販売数として表れるとは限りません。
作品としての評価と、商品としての売上は同じものではありません。
玩具があまり売れなかったからといって、役者の演技や脚本、作品そのものまで低く評価されるべきではないでしょう。
しかし、演技や脚本、アクションが玩具売上と完全に無関係なのでもありません。
物語が玩具へヒーローの力を与える
変身玩具を工業製品として見れば、音が鳴り、光を発するプラスチック製の商品です。
しかし、子どもがそこに見ているものは、材質や電子部品だけではありません。
そのアイテムを持った人物が何に苦しみ、誰を守ろうとし、どのように勇気を選んだのか。
役者の演技、脚本、アクション、音楽、演出によって積み重ねられた物語が、玩具をヒーローの力へ変えます。
子どもが欲しいのは、ただ音の鳴る商品ではありません。
それを掲げたとき、自分もヒーローになれるという体験です。
演技や脚本は、売上と無関係な遠回りではありません。単独の商品として数字に表れにくいだけで、玩具へ感情的な価値を与える中心にあります。
東映は50年間も同じ玩具ビジネスを続けただけなのか
スーパー戦隊が長期間にわたって玩具売上を重要な柱としてきたことから、東映や関連企業は約50年間、同じビジネスモデルへ頼り続けただけではないかという批判もあります。
しかし、数十年前と現在の特撮商品や作品展開を比べれば、まったく同じことだけを続けてきたわけではありません。
現在では、放送中の子ども向け変身玩具やロボット玩具だけでなく、対象年齢を高く設定した商品、過去作品を扱う高価格玩具、アパレル、アクセサリー、香水、映像商品、配信サービスなどが展開されています。
バンダイのMEMORIAL EDITIONには、対象年齢を15歳以上に設定したスーパー戦隊商品が多数あります。劇中の音声や出演者の台詞、BGM、外観、サイズなどを強化し、放送中に販売される玩具とは異なる需要へ対応しています。
バンダイ公式「スーパー戦隊 MEMORIAL EDITION商品一覧」
スーパー戦隊を題材としたオードパルファムも展開されており、『鳥人戦隊ジェットマン』『侍戦隊シンケンジャー』『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』など、複数の歴代作品が商品化されています。
これらは、東映特撮の売上を支える対象が、放送中の子ども向け玩具だけに固定されてきたわけではないことを示す事例です。
大人を主な対象とする特撮も制作されてきた
商品だけでなく、映像作品の対象年齢も広がっています。
『仮面ライダーアマゾンズ』は、2016年にAmazonプライム・ビデオの日本初オリジナルコンテンツとして配信されました。仮面ライダー公式サイトでも、大人向けのハードな作品として人気を呼んだと紹介されています。
『仮面ライダーBLACK SUN』も、地上波の子ども向け番組とは異なる表現と題材を採用した作品です。東映公式ではR15+作品として案内され、社会問題を扱う重厚な作品として紹介されています。
仮面ライダーWEB「仮面ライダーBLACK SUN」放送情報
このように、大人を主な対象とする特撮作品を作る能力も、それを求める一定の需要も存在しています。
つまり、東映は大人を主な対象とする特撮へ大きく比重を移すことが、まったくできなかったわけではありません。
大人メインの特撮と子ども中心のヒーロー番組は役割が異なる
『仮面ライダーアマゾンズ』や『仮面ライダーBLACK SUN』のような作品が成立していることは、大人を主な対象とする特撮にも需要があることを示しています。
だからといって、大人を主な対象とする作品を増やせば、従来の子ども向けヒーロー番組がそのまま維持できるという話にはなりません。
大人がメインで楽しむ特撮を作ることと、子どもを中心に幅広い世代が楽しみにできるヒーロー番組を作ることは、同じ課題ではないからです。
前者では、対象年齢を上げ、配信を中心にし、暴力や社会問題などをより踏み込んで描くことができます。
後者では、子どもが毎週安心して見られること、ヒーローへ憧れられること、玩具を使って物語を再現できることが重要になります。
どちらが優れているという話ではありません。それぞれが異なる視聴者と役割を持っています。
また、子どもを中心とする番組であっても、大人が楽しめないわけではありません。大人向け商品が多数展開され、現在の作品を継続して楽しむ大人の視聴者も存在します。
子どもを中心に据えることと、大人もターゲット層に含めることは矛盾しません。
玩具販促を残したから子どものヒーロー番組を守れた
ここからは、確認できる商品展開や作品展開を踏まえた、わたしの考察です。
東映や関連企業は、大人向けの商品や作品を作れなかったから、子ども向け玩具の販促を根幹に残してきたのではありません。
大人向けの高価格玩具や香水を展開し、大人を主な対象とする特撮作品も制作する。その一方で、子どもを中心に幅広い世代が楽しめるテレビのヒーロー番組を作り続けてきました。
これは、約50年間何も変えなかったということではありません。
商品、販売方法、配信、対象層を時代に合わせて調整しながら、子どもが番組を見て玩具を手に遊ぶという根底を残してきたのです。
別の収益モデルへ全面的に移行すれば、特撮作品そのものは作れたかもしれません。
しかし、対象年齢を上げた配信作品が中心になれば、子どもが毎週ヒーローを待ち、変身玩具やロボットで遊ぶ番組とは違うものになります。
玩具の販促という根底を変えなかったことは、時代の変化を無視していた証拠ではありません。
変えられる部分を調整しながら、子どもを中心とするヒーロー番組の形を守ろうとしてきたことの証左でもあります。
スーパー戦隊は「手間のかかる回りくどいCM」なのか
スーパー戦隊には、玩具を売るための番組という側面があります。
その意味では、「玩具のCM」という表現が完全な間違いだとはいえません。
しかし、その言葉だけでは、番組と玩具の関係を十分に説明できません。
番組は玩具へ物語を与えます。玩具は子どもの遊びの中で物語を続けます。そして玩具の売上は、次の番組や商品展開を支えます。
役者の演技、脚本、アクションは、玩具販売と無関係な遠回りではありません。商品をヒーローの力へ変え、子どもが自分も変身したいと思う理由を作ります。
手間がかかるから無駄なのではありません。
その手間によって、商品は物語になり、子どもは視聴者から物語の参加者になります。
まとめ|スーパー戦隊は玩具と物語の循環で作られてきた
スーパー戦隊が玩具の販売促進と強く結びついていることは事実です。
しかし、玩具を売るためだけに、必要以上に手間のかかる特撮を作っていたと考えると、番組と玩具の関係を一方向にしか捉えられません。
玩具を売るために番組を作り、手間と費用のかかる番組を続けるために玩具を売る。番組を見た子どもは、玩具を手に取り、自分でもヒーローになって物語を続ける。
この循環全体が、子どもを中心に幅広い世代が楽しむ特撮ヒーロー文化を形作ってきました。
また、東映や関連企業が約50年間、同じ商品を同じ対象へ売り続けてきたわけでもありません。
大人向けの商品を増やし、大人を主な対象とする特撮も制作し、時代に合わせて対象層や商品展開を調整してきました。
大人を主な対象とする特撮へ、さらに大きく比重を移すこともできたでしょう。
それでも、子どもを中心に幅広い世代が楽しみ、子どもが玩具を手にヒーローになれる番組を残してきました。
変わらなかったのではありません。
変えられる部分を変えながら、子ども向け特撮の根底を守ってきたのです。
スーパー戦隊は、玩具のために物語を作っただけではありません。
物語を子どもの手へ渡すために、玩具を作っていたのです。
スーパー戦隊と玩具売上に関するFAQ
スーパー戦隊は玩具を売るための番組ですか?
スーパー戦隊には、変身アイテムやロボット玩具を販売促進する役割があります。ただし、玩具販売だけが作品の価値ではありません。番組が玩具へ物語を与え、玩具が子どもの遊びへ物語を広げる構造によって成立しています。
なぜスーパー戦隊では玩具売上が重視されるのですか?
スーパー戦隊は、スーツ、怪人造形、アクション、爆破、映像合成、巨大ロボ戦など、多くの工程を必要とします。番組と連動する玩具の販売は、こうした子ども向け特撮を継続するための重要な事業の柱になってきました。
玩具を販売しなくても特撮は作れますか?
配信料金や映像販売など、別の収益によって特撮を作ることは可能です。ただし、対象年齢や作品内容、話数、視聴方法などが変わり、子どもが番組を見て玩具で遊ぶ従来型のヒーロー番組とは異なる形になる可能性があります。
スーパー戦隊には大人向け商品もありますか?
対象年齢を15歳以上に設定したMEMORIAL EDITION、歴代作品を題材にした香水、アパレル、映像商品などが展開されています。子どもを中心とする作品であることと、大人も商品や作品の対象に含まれていることは矛盾しません。
東映は大人向け特撮も制作していますか?
『仮面ライダーアマゾンズ』や『仮面ライダーBLACK SUN』など、大人を主な対象とする特撮作品も制作しています。一方で、こうした作品と、子どもを中心に幅広い層が楽しむテレビのヒーロー番組は、異なる役割を持っています。