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仮面ライダーバルカン&バルキリー 正義の果てにある結末【感想・考察】

2021年9月2日

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不破諌は何故死の覚悟を持つに至ったか

唯阿はA.I.M.S.として、また技術者として信念を抱き、多くの人々を守るために戦う。
では、不破はどうなのか?
彼は唯阿と真逆で、A.I.M.S.の隊長よりも己の信念を優先して一匹狼となった者だ。

唯阿は己の立場と責任を重視して客観的な視点で正義を捉え『命を守る』と答えた。
それに対して、不破は主観的で『気に入らないものをぶっ潰す』とこっちはある意味もっとシンプル。正義という曖昧なものではなく自分の感覚を信じて突き進む。

かつてはヒューマギアを信じるか憎むかで或人と不破を対比として、A.I.M.S.組として不破と唯阿は共通項を与えて描いた。
『バルカン&バルキリー』では或人と不破の付き合いの長さを強調して、社長という共通項を与える。
逆に、思想の差で不破と唯阿を対比関係に置き直した。

とはいえ、不破はあくまで一匹狼を貫いた。
本作の終盤、飛電ゼロワンドライバーを使うために、不破は或人と同じく会社を興して社長になる。
いやまあ、ここはある意味本作最大のツッコミポイントだった。

飛電ゼロワンドライバーを使えるのは『飛電インテリジェンスの社長』であるはずだ。
或人が飛電製作所の社長で変身できたのは、飛電家が権利を有していたからであって、社長になれば使用できるとかそういう話じゃなかった。

とはいえ、使えたものは使えた。ならば理論上、不破は権利関係をクリアした上で社長になったのは間違いない。
いくらなんでも或人が権利をまるっと譲渡するのはあり得ないだろう。

どちらかと言うと暖簾分けのように使用許可を出したと考えるべきだ。
許可を得た上で立場は社長になった状態。会社名も新規に作られているので天津のようにZAIAの日本支社長的な立場でもない。

この辺り、私は全然詳しくないのだけど、会社の設立もえらいスルッと済んでいる。
起業については門外漢の不破がそこまで器用に手続きをこなせるとは考えにくい。

それらの条件で最もシンプルに実現するのは『株式会社仮面ライダーバルカン』(以下(株)バルカン)を飛電インテリジェンスの子会社化すればよいのではないだろうか?
これなら会社の設立は飛電製作所の時と同じく、イズがサクッとやってくれる。権利関係も飛電インテリジェンスが(株)バルカンに使用許可を与える形式にすれば大体丸く収まるだろう。
この場合、もし不破が会社の経営に失敗して乗っ取られた時のフォローも楽で、権利もすぐ引き上げられる。或人ではなくイズ辺りなら十分考えてそうな合理的判断じゃないかと思う。

実際はこうじゃなかったとしても、『権利』と『社長』のポイント押さえて理屈を付けるのは案外そう難しくない。
多分Vシネなので、小難しい説明ややり取りを入れる尺がなかったかなと思う。

ただ、或人なりに不破の進退は心配していたはずだ。
森の賢者がコンクリートジャングルで生きてられるのは、隊長時代の蓄えがあるためだろう。
賢者から浮浪者にジョブチェンジする前に救済しようという優しみを感じる。

何より或人は夢を大事にする人間だ。純粋に不破の夢を応援したい意思があったのではないか。
その想いは届いたかもしれない。けれど、不破は今一時に全てをぶつける生き方だ。社長という立場や権威は、今ある障害を壊す手段にしかならなかった。
個人事業主になっても、コンビニ店主よりウーバーイーツで全力疾走するタイプだろうね、不破さん。

どうあれ不破は夢を具体的な形にする社長という職業を得ても、たった一度の戦いで全て出しきった。
最初から、そうせざるを得ない相手だと覚悟を決めて滅亡迅雷の前に立ったのだ。

不破という男に自殺願望があったわけではない。
むしろ破滅するつもりだったのは滅亡迅雷の方であり、命懸けの覚悟を受け止めるために、自分も命を懸けるしかないと感じたのだ。

ソルド9が不破から学んだものは意思の受け止め方だ。
滅亡迅雷.netはソルドを救い出してZAIAを破壊し、A.I.M.S.を狙った。
それらは全て客観的な事実だが、行動だけを追っても奥底にある真意は汲み取れない。

機械的ではない信念の詰まった行動には意思がある。
ソルド9が最初に不破を撃とうとしたのは、心ではなくラーニングした上っ面の正しさをトレースしただけだった。

迷わず機械的にトリガーを引けば苦しさはない。
しかし「これは本当に正しいのか?」と自問しながらの行動には苦しさが伴った。そこに生じた迷いこそが心だからだ。

暗殺するという結果のために演技を学んだ暗殺ちゃんは、そこに心がないから得た技術を使って平気で人を傷付ける。
対して松田エンジは自分の演技に不足している何かに迷いを経て、それが心の芽生えに繋がった。

不破は残された手がかりと行動から、滅亡迅雷.netの真意を理解した。
そして理解したが故に、彼は滅亡迅雷の想いを正面から受け止めることを選んだ。

滅亡迅雷の意思を汲み取った形で、目の前にある扉の鍵を力尽くでこじ開け突破する。

「覚悟決めてるやつらを相手にするなら……こっちも覚悟を決めねえとな。
それが……仮面ライダーだろ?」

相手の思いを理解することで、初めて相手の真意に付き添える。
滅亡迅雷の苦しみに、不破は血の涙を流して彼らを開放した。

滅亡迅雷.netの覚悟を、同じだけの覚悟でもって受け止める。
それが不破諫という仮面ライダーの在り方なのだ。

※ 厳密には、ラストの消えていく不破は意図して『視聴者の方々のご想像にお任せします』の締めくくりになっている。元々は不破の墓石が映されるプランがあった。

【次ページ:滅亡迅雷.netの罪と罰】

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